だしの「濃さ」は、うまみの強さという一つの尺度で語られがちです。しかしまこんぶ 素干し裸節(かつお節の加工品)かたくちいわし 煮干しの100gあたりの数値を並べると、三者はまったく違う成分で首位を取っていることがわかります。こんぶが強いのはミネラル、裸節が強いのはたんぱく質とうまみ系アミノ酸、煮干しが強いのは骨格をつくるミネラル群です。「だしが濃い」は一枚岩の物差しでは測れず、素材ごとに勝ち筋が違うのです。

こんぶの勝ち筋はミネラルの総量

まこんぶ 素干しで最も多いのはヨウ素で、100gあたり200000µgに達します。こんぶは少量でも多くのヨウ素を含むため(ヨウ素には耐容上限量も定められています)、だし素材として少量ずつ使うのに向いています。こんぶはカリウムも豊富で、6100mgと乾しいたけの2200mgを大きく上回ります。カリウムは水溶性で、ゆでると溶け出すためスープなど汁ごと取れる調理がよいとされ、だしはまさにその取り方といえます。マグネシウムも530mgと多く含まれます。これだけの成分を含みながら、5cm角で約2g、素干し10cm角1枚で約10gという少量からでも溶け出す計算になります。一度に多くを使う食品ではないため、だし用として少量ずつ使うのが向いています。

裸節の勝ち筋はたんぱく質とアミノ酸

100gあたりのたんぱく質は71.6gにのぼります。アミノ酸ではメチオニンが2100mg(推定値)、トリプトファンが900mg(推定値)で、いずれも比較した5食品の中で最も多い値です。裸節のアミノ酸組成を見るとグルタミン酸9200mg(推定値)が最多で、アスパラギン酸6800mg(推定値)、アラニン4000mg(推定値)、バリン3800mg(推定値)と続きます。ここでもう一段、目を引く数字があります。裸節はナイアシンも45mg(ナイアシン当量60mgNE・推定値)と高い値です。セレンも240µgと多く含まれます。かつお節の濃さは、単一の成分ではなくたんぱく質を土台にしたアミノ酸群の厚みによるものだとわかります。

煮干しの勝ち筋は骨格ミネラル

煮干しで際立つのはカルシウムの2200mgです。リンも1500mgと最も多く含まれます。は100gあたり18mgです。煮干しはビタミンB12も41µgと最も多く含まれます。アラニン4000mg(推定値)は裸節と並ぶ値で、バリンも3400mg(推定値)と高く、うまみと骨格ミネラルを両方担っている点が特徴です。

三素材を比べてわかること

だし素材3種の突出成分(100gあたり)を並べると、次のようになります。

  • まこんぶ 素干し:ヨウ素 200000µg
  • 裸節:たんぱく質 71.6g
  • かたくちいわし 煮干し:カルシウム 2200mg

この並びからわかるのは、三者が同じ土俵で競っているのではなく、それぞれ異なる成分群の首位を取っているという構図です。こんぶはミネラルの総量、裸節はたんぱく質とアミノ酸、煮干しはカルシウムやリンといった骨格ミネラルとビタミンB12。だしを一種類の素材だけで取ると、その素材の勝ち筋しか活かせません。合わせだしがしばしば「深み」と表現される理由の一端は、この成分の重なりのなさにあるといえそうです。

毎日の食事への取り入れ方

普段のみそ汁や煮物には、こんぶと煮干し、あるいはこんぶと裸節を合わせて使うと、ミネラルの厚みとうまみ系アミノ酸の両方を引き出せます。こんぶは5cm角程度、煮干しは10尾で約20gが目安として示されており、まずはこの量から試すとよいでしょう。

ちなみに乾しいたけは乾物ですが有機酸の中ではリンゴ酸1gが最も多く、酸味の系統でだしに関わる存在です。この酸味も含めた複雑な味わいでありながら、1個あたり約4gという軽さなので、戻し汁ごと使うと無駄がありません。普通牛乳はだし素材ではありませんが、乳糖4.4gが比較した食品の中で最も多く、うまみ系の成分では目立たないという対照として見ておくとわかりやすいでしょう。

まとめ

だしの濃さを一つの尺度で比べようとすると、こんぶ・裸節・煮干しのどれが「濃い」かを決めることはできません。ヨウ素とカリウムで勝つこんぶ、たんぱく質とアミノ酸で勝つ裸節、カルシウムとリンで勝つ煮干し。それぞれの勝ち筋が違うからこそ、合わせだしは単一素材にはない複合的な濃さを持つのだと考えられます。次に成分表が更新されて未測定の値が埋まったら、この勝ち筋の地図もまた変わるかもしれません。そう思うと、この数字の並びをまた見に来たくなります。

※特定の食品・素材の健康効果を示すものではありません。

※本記事は日本食品標準成分表(八訂)のデータ等をもとに作成しました。

栄養素のはたらき・摂取基準の記述は、次の公的資料に基づきます:厚生労働省 食事摂取基準e-ヘルスネット「カリウム」(厚生労働省)e-ヘルスネット「マグネシウム」(厚生労働省)