著者の所属・活動拠点の国は、ポーランドです。
掲載誌:Frontiers in Nutrition
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的:腰の変性疾患と栄養の関係を幅広く確かめる
腰から仙骨にかけての背骨(腰仙椎)に起こる変性疾患は、慢性的な体の不自由の大きな原因の一つです。代表的なものに、背骨の骨と骨の間でクッションの役目を果たす椎間板が傷んでいく「椎間板変性」と、神経の通り道である脊柱管が狭くなる「腰部脊柱管狭窄症」があります。どちらも腰痛や、歩くと脚が痛んだりしびれたりする症状につながります。
著者らは、椎間板が人体で最も大きな「血管のない組織」である点に注目しています。椎間板の細胞は、酸素やブドウ糖などの栄養を、周囲の骨にある毛細血管から組織の中をしみ込むように届く拡散に頼っています。このため、体全体の栄養状態が椎間板の健康にとって特に重要になりうる、と論文は説明しています。
これまでの研究は、特定の栄養素や肥満などの代謝の問題に焦点を当てたものが中心で、患者の食事全体を詳しく評価した研究は多くありませんでした。また、栄養の不足が痛みの強さや構造的な変性とどう関係するのかも、十分には分かっていませんでした。そこで研究チームは、腰仙椎の変性疾患で手術を受ける患者の栄養状態と食事内容を評価し、不足しがちな栄養素を明らかにすることを目指しました。あわせて、不足の多い栄養素と、痛みの強さや画像上の変性の程度との関連も調べました。
何を調べたか:手術前の2つの患者グループの食事
対象は2つの患者グループです。一つは椎間板変性のために、椎間板の一部を取り除く手術(顕微鏡下椎間板切除術)を受けた200人です。もう一つは、脊柱管の後ろ側にある黄色靱帯が厚くなったことを伴う脊柱管狭窄症のために、神経の圧迫を取り除く手術を受けた180人です。参加者は、研究参加前の6か月間に特別な食事療法をしておらず、医薬品に分類されるビタミン・ミネラル剤も使っていなかったと確認されています。
食事の調査は手術前に行われました。前日に食べたものを聞き取る方法を、平日2日分と休日1日分の計3回実施し、食品写真集を使って食べた量を見積もりました。その結果から、エネルギーやたんぱく質・脂質・炭水化物、脂肪酸、ビタミン、ミネラルの摂取量を計算し、米国の食事摂取基準の値と比べて、基準に届かない人の割合を求めています。ここでいう「不足」は、食事から推定した摂取量が基準値を下回るという意味で、血液検査で測った体内の量ではありません。
痛みの強さは0(痛みなし)から10(最大の痛み)までの尺度で評価しました。椎間板の傷み具合は、MRI画像をもとに5段階で判定する分類を用いました。狭窄症のグループでは、黄色靱帯の厚さや脊柱管の広さなど、狭窄の程度を表すMRIの指標も調べています。
主な結果:多くの人に共通する栄養の偏り
2つのグループの食事には共通した傾向が見られました。1日のエネルギー摂取量は男女とも推定必要量を下回っていました。一方、エネルギーに占める脂質の割合が高く、炭水化物の割合は低めでした。たんぱく質は男女とも基準を上回り、その多くを動物性食品から取っていました。ナトリウム(食塩の成分)とリンは基準を大きく上回っていました。
不足が特に目立ったのはいくつかの栄養素です。魚に多く含まれる長鎖オメガ3脂肪酸(EPAとDHA)は、病気の種類や性別にかかわらず5人に4人以上で不足していました。食物繊維も不足が多く、椎間板変性のグループではおよそ10人に9人、狭窄症の男性では90%を超えていました。ビタミンDは両グループのほとんどの人で、葉酸はおよそ3分の2から4分の3の人で基準に届いていませんでした。カルシウムは最も顕著に不足したミネラルで、各グループの男女いずれも88%以上の人が基準を下回っていました。
このほか、マグネシウムとカリウムにも中程度の不足が見られました。鉄の不足は女性で約38〜43%と多かったのに対し、男性では約7〜9%にとどまりました。ヨウ素も女性の約半数で不足しており、性別による違いがうかがえました。
次に研究チームは、不足の多かった7つの栄養素(EPAとDHA、食物繊維、葉酸、マグネシウム、ビタミンD、カルシウム、亜鉛)を一つの統計モデルにまとめて入れました。年齢、性別、体格指数(BMI)、総エネルギー摂取量、喫煙、糖尿病、飲酒、職業の種類、学歴の影響を差し引いたうえで、痛みや変性との関連を調べています。その結果、多数の比較を行うことによる偶然の当たりを補正すると、どの栄養素も痛みの強さ、椎間板変性の程度、狭窄の画像指標のいずれとも、統計的に確かな関連を示しませんでした。狭窄症のグループでは、マグネシウムや亜鉛と痛みの強さの間に補正前の段階で関連が見られましたが、補正後には残りませんでした。
この研究が伝えること
この研究は、腰の変性疾患で手術を受ける患者の食事に、食物繊維、オメガ3脂肪酸、ビタミンD、葉酸、カルシウムなどの不足が広く見られることを示しました。その一方で、こうした不足が痛みの強さや椎間板・脊柱管の変性の程度と独立して結びついているという確かな証拠は、今回の解析では得られませんでした。
ただし著者らは、関連が「ない」と結論づけているわけではありません。多くの推定値の幅は、影響がない場合とも、どちらかの向きに中程度の影響がある場合とも矛盾しないもので、今回の人数では栄養素ごとの効果を見分けるだけの統計的な力が限られていた、と説明しています。さらに、身体活動の量、鎮痛薬などの服薬、炎症性の病気、うつや不安といった情報は集められておらず、食事の聞き取りもこの対象者での追加の検証は行われていません。研究チームは、これらを結果の解釈上の限界として挙げています。
栄養の偏りが多くの患者に共通していること自体は明確に示されました。しかし、それが腰の痛みや変性にどう関わるのかは、まだはっきりしていない問いとして残されています。
原著論文の著者・所属:Damian Strojny(Collegium Medicum, WSB University; Department of Neurology, New Medical Techniques Specjalist Hospital of St. Family in Rudna Mała)、Tomasz Kulpok(Collegium Medicum, WSB University)、Irena Puszkarz(Collegium Medicum, WSB University)、Tomasz Hendzel(Medical Care Center “Kopernik” Warsaw, Warsaw, Poland)、Małgorzata Soroń-Lisik(Doctoral School, University of Rzeszow)、Rafał Staszkiewicz(Department of Neurosurgery, 5th Military Clinical Hospital with the SP ZOZ Polyclinic in Krakow; Department of Neurosurgery, Faculty of Medicine in Zabrze, Academy of Silesia)、Dawid Sobański(Department of Neurosurgery, Szpital sw. Rafala in Cracow, Cracow, Poland)、Beniamin Oskar Grabarek(Collegium Medicum, WSB University)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Damian Strojny, Tomasz Kulpok, Irena Puszkarz, et al. Dietary inadequacies and their association with pain severity and disc degeneration in patients surgically treated for degenerative lumbosacral spine disorders. Frontiers in Nutrition 2026-07-30. DOI: 10.3389/fnut.2026.1910742. 原著ライセンス:CC BY.