著者の所属・活動拠点の国は、アルゼンチンです。
掲載誌:Frontiers in Nutrition
ライセンス: CC BY 4.0 対象: 公開論文 確認元: Crossref
研究の目的
炎症性腸疾患(IBD)は、免疫の働きが乱れて消化管に慢性的な炎症が起きる病気の総称で、主に潰瘍性大腸炎とクローン病の二つに分けられます。潰瘍性大腸炎は大腸と直腸の粘膜に炎症が連続して広がり、クローン病は消化管のどこにでも、腸の壁の深い層まで及ぶ炎症が飛び飛びに起こるのが特徴です。食事は病気の発症や経過に関わる、変えることのできる要因として注目されています。しかし論文によれば、ラテンアメリカでは患者の栄養状態を総合的に調べた研究はまだ少ないといいます。
研究チームは特に二つの栄養素に注目しました。一つは食物繊維です。腸の粘膜や腸内細菌のバランスを保つ働きがあるとされる一方、患者は症状を和らげるために繊維を控えることが多いと論文は述べています。もう一つは、体内で作れない必須アミノ酸のトリプトファンです。腸のバリア機能の維持に関わり、乳製品・全粒穀物・肉など、どの食品からとるかによって吸収や体内での使われ方が変わりうるとされます。そこで研究チームは、患者と健康な人とで、食物繊維の摂取量や、トリプトファンをどの食品からとっているかの内訳が異なるのではないかという仮説を立てました。著者らによれば、こうした項目をアルゼンチンのIBD患者で同時に調べたのは初めてです。
どのように調べたか
研究は、ある一時点の状態を比べる観察研究(横断研究)として行われました。アルゼンチン・コルドバの病院を通じて、健康な人14人、潰瘍性大腸炎の患者15人、クローン病の患者10人、計39人が参加しました。年齢、性別の割合、体格による栄養状態の区分には、3群の間で統計的な差はみられませんでした。
参加者は管理栄養士から記録方法の説明を受けたうえで、7日間に口にした食べ物と飲み物をすべて記録しました。研究チームはその記録をもとに、エネルギー、たんぱく質・炭水化物・脂質、トリプトファン、食物繊維などの1日の摂取量と、食品グループごとの摂取量や頻度を算出しました。食べる量全体が多い人ほど個々の栄養素の量も多くなるため、その影響をならす補正も行っています。あわせて、血液中のトリプトファン濃度や脂質も測定しました。病気の活動性は、潰瘍性大腸炎とクローン病それぞれで広く使われる臨床的な指標で評価しました。
主な結果
総エネルギー量、三大栄養素の量、トリプトファンの総摂取量、血液中のトリプトファン濃度には、健康な人と患者の間で差はみられませんでした。
一方、個々の食品グループでは違いがみられました。チーズを食べる週あたりの頻度は、潰瘍性大腸炎とクローン病のどちらの患者でも健康な人より低くなっていました。潰瘍性大腸炎の患者では、全粒穀物と温かい飲み物(コーヒー、紅茶、マテ茶)の頻度も低くなっていました。トリプトファンをどの食品からとっているかの内訳にも差がありました。クローン病の患者ではチーズ由来の割合が、潰瘍性大腸炎の患者では全粒穀物由来の割合が健康な人より小さく、潰瘍性大腸炎の患者では肉由来の割合が大きくなっていました。
食物繊維の1日摂取量(中央値)は、健康な人の12.8グラムに対し、潰瘍性大腸炎の患者では7.11グラムと少なくなっていました。クローン病の患者と健康な人の間には、統計的な差はみられませんでした。また健康な人の群に限って、食事でとるトリプトファンが多い人ほど血液中の濃度が低いという負の相関がみられましたが、患者の群ではみられませんでした。
ただし著者らは、多数の比較を同時に行ったことによる偶然の差を考慮する補正をかけると、これらの差はいずれも統計的に有意ではなくなったと報告しています。病気の活動性別の比較は、1群がわずか4人という小さな集団に基づくため、記述的な観察にとどまると位置づけています。たとえば軽度から中等度の活動期にあるクローン病患者で中性脂肪が高い値がみられましたが、論文はクローン病の患者全体の50%が過体重で、健康な人の21%より多かったことを挙げ、病気の活動性とは別に体格が影響している可能性も否定できないと述べています。
研究が示すこと
研究チームは、この集団で患者と健康な人を分けるのは、カロリーや三大栄養素の不足よりも、食物繊維の量やトリプトファンをどの食品からとっているかといった「食品の選び方」かもしれない、と結論づけています。ただし、いずれの差も多重比較の補正後には有意でなかったため、これは仮説を生み出す段階の結果であり、臨床上の意味を論じる前に、より大規模な研究で確かめる必要があると著者らは強調しています。
著者:Victoria Lambert(Instituto de Investigaciones en Ciencias de la Salud (INICSA), CONICET-Facultad de Ciencias Médicas, Universidad Nacional de Córdoba, Córdoba, Argentina)、Victoria Lambert(Centro de Investigaciones en Nutrición Humana (CENINH), Escuela de Nutrición, Facultad de Ciencias Médicas, Universidad Nacional de Córdoba, Córdoba, Argentina)、Leonela Tantucci(Fundación Para el Progreso de la Medicina, Córdoba, Argentina)、Dafne Cabrera(Hospital Privado Universitario de Córdoba, Córdoba, Argentina)、Marina L. Fernández(Hospital Privado Universitario de Córdoba, Córdoba, Argentina)、Marina L. Fernández(Instituto Universitario de Ciencias Biomédicas de Córdoba (IUCBC), Centro de Investigación en Medicina Traslacional "Severo R. Amuchástegui" (CIMETSA) U.A. Consejo Nacional de Investigaciones Científicas y Técnicas (CONICET), Córdoba, Argentina)、Silvia G. Correa(Centro de Investigaciones en Bioquímica Clínica e Inmunología (CIBICI), Facultad de Ciencias Químicas, Universidad Nacional de Córdoba, Córdoba, Argentina)、María D. Román(Centro de Investigaciones en Nutrición Humana (CENINH), Escuela de Nutrición, Facultad de Ciencias Médicas, Universidad Nacional de Córdoba, Córdoba, Argentina)、Domingo C. Balderramo(Hospital Privado Universitario de Córdoba, Córdoba, Argentina)、Domingo C. Balderramo(Instituto Universitario de Ciencias Biomédicas de Córdoba (IUCBC), Centro de Investigación en Medicina Traslacional "Severo R. Amuchástegui" (CIMETSA) U.A. Consejo Nacional de Investigaciones Científicas y Técnicas (CONICET), Córdoba, Argentina)、Pablo A. Romagnoli(Instituto Universitario de Ciencias Biomédicas de Córdoba (IUCBC), Centro de Investigación en Medicina Traslacional "Severo R. Amuchástegui" (CIMETSA) U.A. Consejo Nacional de Investigaciones Científicas y Técnicas (CONICET), Córdoba, Argentina)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Victoria Lambert, Victoria Lambert, Leonela Tantucci, et al. Dietary intake and nutritional profiles characterize patients with Inflammatory Bowel Disease from Argentina. Frontiers in Nutrition 2026-10-01. DOI: 10.3389/fnut.2026.1913858. 原著ライセンス:CC BY.