著者の所属・活動拠点の国は、南アフリカ、ウルグアイです。
掲載誌:Archives of Environmental Contamination and Toxicology
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
路上で売られる魚に目を向けた理由
マイクロプラスチックは、一般に5ミリメートルより小さいプラスチック粒子を指します。海や川、陸上のさまざまな環境で見つかっており、魚の消化管やえら、場合によっては食べる部分の筋肉からも検出された例が報告されています。ただし、これまでの研究の多くは、養殖場や水揚げ場、スーパーマーケットなど、正規の流通経路の魚を対象にしてきました。
一方、多くの低・中所得国では、道路沿いの露店で売られる魚が、手頃な動物性たんぱく質の重要な供給源になっています。こうした露店では冷蔵設備や覆いのない状態で魚が並べられることが多く、交通量の多い道路の粉じんや周囲のプラスチックごみにさらされる可能性があります。著者らは、魚が水中で取り込んだ汚染に加えて、販売の過程で付く汚染もありうるとして、この場面での調査が不足している点に注目しました。
研究チームの目的は、路上で売られている焼き魚の食べる部分(筋肉)に、マイクロプラスチックと各種元素がどの程度含まれているかを測ること、粒子の形・色・材質を調べること、そして露店ごとに汚染の程度が違うかを確かめることでした。あわせて、食事から取り込む粒子の量を、ふるい分けの目安として推定しています。
調べた魚と方法
調査は2025年8月、南アフリカ・リンポポ州のトホヤンドウ周辺で行われました。幹線道路R524とその周辺道路沿いで当日営業していた魚の露店9軒すべてから、それぞれ4匹ずつ、合計36匹を購入しています。魚は南部アフリカで「ブラーイ」と呼ばれる、薪や炭の直火で焼いた調理済みのもので、主にナイルティラピアとモザンビークティラピアの交雑種でした。
研究チームは魚の背側の筋肉を一定の位置から切り取り、2つに分けて分析しました。マイクロプラスチック用の試料は、アルカリ性の薬品で肉の組織を溶かしたうえで粒子を分離し、顕微鏡で形と色を分類しました。さらに一部の粒子は、赤外線の吸収の仕方から材質を判別する分析にかけています。実験室内で混入する粒子の量は、試料を入れない空試験で確かめ、その分を差し引いています。
元素については、ナトリウム、マグネシウム、リン、カリウム、カルシウムといった多量に含まれる元素と、クロム、マンガン、鉄、銅、亜鉛、セレン、モリブデンといった微量元素の計12種類を測定しました。著者らは、これらが自動車の排気や道路の粉じんから放出されやすい元素だとして選んでいます。
主な結果
マイクロプラスチックは、9軒すべての露店の魚の筋肉から検出されました。量は露店によって大きく異なり、平均値が最も高かった露店では湿重量1キログラムあたり約470個、最も低い露店では約105〜110個でした。粒子の形は繊維状とフィルム状が中心で、色は透明なものが大半を占めました。材質を判別した粒子では、ポリエチレンが40.5%、ポリプロピレンが23.8%、ポリスチレンが18.3%、ポリ塩化ビニルが7.4%でした。
この測定値をもとにした推定では、最も値の高かった露店の魚を1食分食べると約790個、体重1キログラムあたり約11個の粒子を取り込む計算になりました。最も低い露店群では1食あたり200個未満でした。ただし、マイクロプラスチックには健康影響を判断するための基準となる摂取量がまだ定められていないため、著者らはこれを健康リスクの評価ではなく、目安としての推定値と位置づけています。
元素では、微量元素の中で鉄が最も多く、次いで亜鉛が多く含まれていました。クロム、マンガン、鉄、セレン、モリブデン、ナトリウムなどは露店ごとに有意な差が見られました。魚に対する法的な上限値はこれら12元素のいずれにも定められていないため、論文では一般に用いられる目安値と比較しています。その比較では、マンガンの平均濃度は9軒すべてで目安値を上回り、亜鉛は1軒で目安値を超え、クロムは1軒で目安値に達しました。
また、ナトリウムやカルシウムなどの多量元素は、汚染されていない淡水魚の筋肉について報告されている範囲より10〜100倍高い値でした。著者らは、この露店の魚100グラムで1.0〜2.2グラムのナトリウムをとることになると報告しています。
結果が示すこと
この研究は、南アフリカの道路沿いで売られる焼き魚の食べる部分に、マイクロプラスチックと元素が測定可能な量で含まれ、その程度が露店によって異なることを示しました。一方で著者らは、露店ごとの販売の仕方は測定しておらず、魚が育った水域での汚染と、捕獲後の扱いや展示、調理の過程で加わった汚染とを、今回の調査設計では区別できないと述べています。
それでも、暮らしの栄養を支える路上の食品販売という、これまで十分に調べられてこなかった場面で汚染の実態を数値で示した点に、この研究の意味があります。著者らは、体重あたりの取り込み量で見ると、子どもなど体重の小さい人ほど相対的な負担が大きくなりうることも指摘しています。
原著論文の著者・所属:Alice R. Tshifura(Aquatic Systems Research Group, School of Biology and Environmental Sciences, University of Mpumalanga, Nelspruit, South Africa)、Nombuso N. Themba(Centre for Invasion Biology, School for Climate Studies, Stellenbosch University, Stellenbosch, South Africa)、Franco Teixeira-de-Mello(Departamento de Ecología y Gestión Ambiental, Centro Universitario Regional Este, Universidad de la República-Uruguay, Tacuarembó s/n, entre Av. Artigas y Aparicio Saravia, Maldonado, CP 20000, Uruguay)、Linton F. Munyai(Aquatic Systems Research Group, Department of Water and Sanitation, University of Limpopo, Sovenga, South Africa)、Farai Dondofema(Aquatic Systems Research Group, Department of Geography and Environmental Sciences, University of Venda, Thohoyandou, South Africa)、Ncumisa Y. Matam(Centre for Invasion Biology, School for Climate Studies, Stellenbosch University, Stellenbosch, South Africa)、Tatenda Dalu(Centre for Invasion Biology, School for Climate Studies, Stellenbosch University, Stellenbosch, South Africa. [email protected])
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Alice R. Tshifura, Nombuso N. Themba, Franco Teixeira-de-Mello, et al. Assessment of Microplastic and Element Contamination in Fish Sold by Informal Roadside Vendors in Limpopo Province, South Africa. Archives of Environmental Contamination and Toxicology 2026-10-01. DOI: 10.1007/s00244-026-01223-3. 原著ライセンス:CC BY.