著者の所属・活動拠点の国は、南アフリカ、フィンランドです。
掲載誌:International Journal of Gastronomy and Food Science
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
南アフリカでは、主に牛などの反芻動物の胃の内壁(トライプ)と腸を使った「マラ・モゴドゥ」という伝統料理が広く知られています。肉の中でも内臓は、文化によってごちそうにも敬遠される食材にもなってきました。近年は資源の有効活用の観点から、内臓などの副産物への関心が高まっています。一方で、人が内臓を食べたり避けたりする心理的な仕組みは十分に調べられていません。
研究チームによると、マラ・モゴドゥがどう受け入れられているかを扱った科学的な報告は、著者らの知る限りこれまでありませんでした。そこで著者らは、この料理の文化的な位置づけと食べられ方を明らかにし、食べる人(利用者)と食べない人(非利用者)の違いが何に根ざしているのかを探りました。
三つの調査で調べたこと
研究は三段階で行われました。第1の調査では、南アフリカ・リンポポ州の村に住み、料理に詳しい女性8人に自宅で聞き取りを行いました。使う胃袋の種類、正しく作ったときの味や見た目、文化が作り方や出し方にどう影響するかを尋ねています。
第2の調査は都市部の人を対象としたオンライン調査で、321人が回答しました。そのうちマラ・モゴドゥを知っていて食べる176人に、食べる頻度、好み、思い浮かぶ言葉などを質問しました。色の濃いものと、念入りに洗浄・漂白されたとみられる白っぽいものの写真を並べ、どちらを食べたいかも選んでもらいました。
第3の調査では、さらに604人がオンラインで回答し、411人の利用者と193人の非利用者を比較しました。「家族が作る」「知らない人が作る」「都市のショッピングモールの店」「タウンシップ(都市郊外の、歴史的に資源の乏しい居住地区)の店」「屋台」の五つの場面について、どれくらい好きになりそうかを予想してもらいました。料理の印象も評価してもらっています。加えて、伝統食への態度、食物新奇性恐怖(なじみのない食べ物を避けようとする傾向)、嫌悪感受性(ものごとに嫌悪を感じやすい性格傾向)を質問票で測りました。
主な結果
聞き取りでは、材料、調理、出し方について厳格な決まりがあることが語られました。たとえば「灰色がかった黒」が良い出来の特徴とされていました。これと呼応するように、第2の調査ではほぼ全員が白っぽいものより色の濃いものを選びました。利用者の好みの評価は全体に高く、特別な機会に食べるという人が約半数でした。
第3の調査では、利用者が予想した好ましさは非利用者よりはるかに高い結果でした。利用者が最も好ましいと予想したのは近しい家族が作る場合で、次がタウンシップの店、最も低かったのは知らない人が作る場合でした。非利用者も家族が作る場合を最も高く評価しましたが、全体の評価は低くとどまりました。
利用者はこの料理を「おいしい」「柔らかい」と捉え、「家を思い出させる」と感じていました。非利用者は比較的強く「気持ち悪い」と評価し、ゴムのような食感を予想する人も多くいました。それでも両グループとも、マラ・モゴドゥは文化遺産として大切だという点ではおおむね一致していました。
心理的な特徴では、利用者のほうが伝統食に好意的で、食物新奇性恐怖が低い傾向がありました。一方、著者らは非利用者のほうが嫌悪を感じやすいと予想していましたが、嫌悪感受性の平均はむしろ利用者のほうがわずかに高く、予想とは逆でした。利用者と非利用者の違いをどの程度説明するかを比べると、伝統食への態度は約17%と大きな効果を示したのに対し、食物新奇性恐怖と嫌悪感受性が説明する割合はそれぞれ1〜3%程度と小さいものでした。なお、この二つの特性どうしは互いに正の相関を示し、食物新奇性恐怖が強い人ほど嫌悪を感じやすい傾向があったと報告されています。
結果が示すこと
著者らは、嫌悪感受性の結果について、家庭で食習慣が形づくられる早い段階では、この性格傾向の役割は小さいのかもしれないと解釈しています。利用者にとっては、非利用者が嫌悪を感じる匂いや食感が、本物らしさや品質のしるしとして受け止められている可能性も挙げています。また、第3の調査では利用者の85%が黒人アフリカ系だったのに対し、非利用者の68%は「その他」の集団に属していました。そのため、心理的な仕組みに加えて、こうした回答者の構成の違いも利用者と非利用者の差を説明しうると著者らは述べています。
この研究は、同じ料理が一方にとっては「家の味」、他方にとっては「気持ち悪いもの」になりうることを描き出しました。その分かれ目には、個人の性格傾向よりも、伝統食への態度や、家庭・地域で積み重ねてきた経験と信頼が深く関わっている可能性があります。文化的に大切でありながら評価の分かれる伝統食の受け止められ方を理解するうえで、手がかりとなる報告です。
原著論文の著者・所属:Henrietta L. de Kock(Department of Consumer and Food Sciences, University of Pretoria, Pretoria, South Africa)、Vimbai Chakwizira(Department of Consumer and Food Sciences, University of Pretoria, Pretoria, South Africa)、Marise Kinnear(Department of Consumer and Food Sciences, University of Pretoria, Pretoria, South Africa)、Hennie J. Fisher(Department of Consumer and Food Sciences, University of Pretoria, Pretoria, South Africa)、Hely Tuorila(Department of Consumer and Food Sciences, University of Pretoria, Pretoria, South Africa; Department of Food and Nutrition, University of Helsinki, Finland)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Henrietta L. de Kock, Vimbai Chakwizira, Marise Kinnear, et al. Delicious or disgusting: contrary views of a traditional offal dish among users and non-users. International Journal of Gastronomy and Food Science 2026-10-06. DOI: 10.1016/j.ijgfs.2026.101694. 原著ライセンス:CC BY.