著者の所属・活動拠点の国は、ポーランドです。

掲載誌:Animals

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

麻(Cannabis sativa L.)は、かつては主に茎から繊維を取るために栽培されてきました。現在は食品や家畜飼料の原料としても栽培が広がっています。論文によると、欧州連合(EU)で登録されている産業用の麻の品種は、乾物中の幻覚成分THC(デルタ-9-テトラヒドロカンナビノール)が0.3%未満であることが求められています。

麻の実には、カリウムやリン、マグネシウムといったミネラル、亜鉛や鉄などの微量ミネラルが含まれます。麻の実の油には、ビタミンEの仲間であるトコフェロールや、体内でビタミンAに変わるプロビタミンAも含まれます。一方、牛肉は亜鉛や鉄の供給源として知られています。そこで研究チームは、丸ごとの麻の実を若い雄牛に与えると、牛肉の筋肉内脂肪(いわゆるサシを含む、筋肉の中の脂肪)の脂肪酸組成が変わり、一部のビタミンやミネラルが増えるのではないかと考えました。あわせて、その変化が麻の実の配合量や筋肉の部位によって異なるかも調べました。

どのように調べたか

実験には、ポーランドの農業試験場で育てられたホルスタイン・フリーシアン種の若い雄牛24頭が使われました。牛は約719日齢、平均体重621.7kgの時点で、8頭ずつ3群に分けられました。比較対照となる群、飼料に麻の実を10%加えた群、17%加えた群の3つです。

研究チームは、体の部位が異なる2種類の筋肉について、筋肉内脂肪の量、脂肪酸の組成、ビタミンA(レチノール)とビタミンE(α-トコフェロール)の濃度、ミネラルの濃度を測定しました。そのうえで、飼料と筋肉の種類がこれらの値にどう影響するかを統計的に比較しました。

主な結果

著者らの報告によると、麻の実を与えた牛の筋肉では、亜鉛、マグネシウム、鉄、レチノール、α-トコフェロールの濃度が高くなりました。脂肪酸については、飽和脂肪酸の割合が下がり、不飽和脂肪酸の割合と、飽和脂肪酸に対する多価不飽和脂肪酸の比が上がりました。飽和脂肪酸の低下は、主にパルミチン酸(C16:0)とステアリン酸(C18:0)が減ったことによるものでした。一価不飽和脂肪酸の増加は、牛肉に最も多いオレイン酸が増えたためではありません。量の少ない複数の脂肪酸がそれぞれ少しずつ増えた結果でした。

多価不飽和脂肪酸のうち、n-6系の割合は5.44%から6.74%に増えました。一方、n-3系の割合には変化がありませんでした。n-6系の代表であるリノール酸は、対照群の4.45%から17%群では5.35%に増えています。ところが、麻の実に多く含まれるn-3系のα-リノレン酸は、筋肉中では0.581%から約0.42%に減りました。いわゆる魚油系の脂肪酸であるEPA・DPA・DHAも増えませんでした。著者らは、牛などの反芻動物では、飼料の不飽和脂肪酸の多くが吸収される前に胃(ルーメン)の微生物によって水素を付加され、性質が変わるためだと説明しています。そのため、飼料の脂肪酸組成がそのまま肉に反映されるわけではないといいます。

また、共役リノール酸(CLA)の材料となるトランス-バクセン酸は、1.62%から約1.01%に減りました。CLAの量そのものは変わりませんでした。著者らは、トランス-バクセン酸が減った仕組みはこの研究では明らかになっていないとしています。さらに、飼料の効果は筋肉の部位によって異なる場合がありました。

結果が示すこと

研究チームは、丸ごとの麻の実は肉牛の飼料成分として、牛肉の栄養面の特徴の一部を変えうると結論づけています。ただし、いくつかの項目では10%配合で見られた変化が17%に増やしても大きくならなかったと報告しています。また10%未満の配合量は試していないため、10%が最適量や必要最小量であるとは言えないとしています。各飼料群がそれぞれ1つの囲いで飼育されたため、囲いの影響と飼料の影響を切り分けられなかった点も、限界として挙げられています。

この研究から見えてくるのは、栄養豊富な飼料を与えれば、その成分がそのまま牛肉に移るわけではないということです。今回の条件では、ミネラルやビタミンのように増えた成分がある一方、麻の実に多いn-3系脂肪酸のように肉では増えなかった成分もありました。

原著論文の著者・所属:Paulina Pogorzelska-Przybyłek(Department of Animal Nutrition, Feed Science and Cattle Breeding, Faculty of Animal Bioengineering, University of Warmia and Mazury in Olsztyn, Oczapowskiego 5, 10-719 Olsztyn, Poland)、Zenon Nogalski(Department of Animal Nutrition, Feed Science and Cattle Breeding, Faculty of Animal Bioengineering, University of Warmia and Mazury in Olsztyn, Oczapowskiego 5, 10-719 Olsztyn, Poland)、Cezary Purwin(Department of Animal Nutrition, Feed Science and Cattle Breeding, Faculty of Animal Bioengineering, University of Warmia and Mazury in Olsztyn, Oczapowskiego 5, 10-719 Olsztyn, Poland)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Paulina Pogorzelska-Przybyłek, Zenon Nogalski, Cezary Purwin. Hemp Seeds (Cannabis sativa L.) in Cattle Nutrition: Effects on Beef Fatty Acid, Vitamin, and Mineral Profiles. Animals 2026-09-24. DOI: 10.3390/ani16193006. 原著ライセンス:CC BY.