著者の所属・活動拠点の国は、中国です。

掲載誌:Veterinary Sciences

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

鉄、銅、マンガン、亜鉛、セレンなどの微量元素は、鶏の成長、代謝、免疫、胚の発達などに関わる栄養素です。動物は体内で作れないため、飼料から与える必要があります。母鶏が摂った微量元素は卵を通じて胚へ渡ります。そのため、繁殖用の種鶏は一般の採卵鶏より多くの微量元素を必要とすると論文は説明しています。

飼料には一般に無機塩の形の微量元素が加えられます。著者らによると、無機塩には次のような問題があります。湿気を吸って固まりやすいこと、腸内の環境やミネラル同士の干渉(イオン拮抗)で吸収されにくくなること、過剰に与えると環境への重金属排出が懸念されることです。有機ミネラル塩は無機塩より吸収されやすい面がありますが、イオン拮抗や安定性の問題を完全には解消できないとされます。アミノ酸キレートや小ペプチドキレート、ナノサイズのミネラルはさらに吸収されやすい可能性がありますが、製造工程の複雑さ、品質の不安定さ、製造コストの高さが大規模利用の妨げになっているといいます。

そこで研究チームが注目したのが「コーティング」技術です。これは、無機ミネラルの粒子を胃酸に強い素材(エチルセルロースやポリアクリル樹脂)で物理的に包むもので、ミネラルの化学的な形は無機のままです。研究の目的は、コーティングした無機複合微量ミネラルを従来より少ない量で与えた場合に、何が変わるかを調べることでした。具体的には、種鶏の産卵成績や卵質、抗酸化状態、さらにその雛の発育について、従来のコーティングなしの無機ミネラル配合剤と比べました。

どのように調べたか

実験には、40週齢のハイラインブラウン種の種鶏360羽を用いました。20羽を1単位とし、各群6単位ずつ、3つの群に無作為に分けました。対照群には、コーティングなしの無機微量ミネラル配合剤を飼料1kgあたり2000mg加えました。残る2群には、コーティングした無機微量ミネラル配合剤を1kgあたり500mgまたは1000mg加えました。いずれの群もミネラルは無機塩で、違いはコーティングの有無と配合量のみです。飼料のエネルギーやたんぱく質の量はそろえられました。

試験は、1週間の慣らし期間の後に10週間の本試験を行う形で進められました。母鶏については次の項目を測りました。 ・期間中の産卵率、割れ卵の割合、飼料効率 ・卵殻の強さと、電子顕微鏡で見た卵殻の微細構造 ・卵殻・卵黄・卵白に含まれる微量元素の量 ・血液中の抗酸化酵素や甲状腺ホルモン さらに種卵をふ化させ、ふ化率や生まれたばかりの雛の体重、筋肉・肝臓の重さ、血液成分、小腸の形態、腸の防御機能に関わる遺伝子の働きも調べました。

主な結果

10週間の本試験期間を通じて、コーティングしたミネラルを与えた2群は、対照群に比べて産卵率が高く、割れ卵の割合が低くなりました。一定の重さの卵を得るのに必要な飼料の量(飼料要求率)も低くなりました。平均卵重や1日あたりの飼料摂取量には差がありませんでした。500mg群と1000mg群の間では、産卵成績に有意な差は見られませんでした。

卵質では、45週齢の時点で、コーティング群の卵殻強度と卵黄の色が対照群より優れていました。ただし48週齢では、多くの指標で群間差は見られませんでした。卵殻の微細構造では、コーティング群のほうが、卵殻の内側にある乳頭状の構造がより均一で密に並んでいました。特に500mg群では、殻の強さを担う外側の層(有効層)が厚く、内側の乳頭層が薄くなっていました。

卵に含まれるミネラルについては、48週齢で、コーティング群のほうが卵殻のマンガン、亜鉛、セレン、卵黄のマンガンとセレンが対照群より多くなっていました。母鶏の血液では、コーティング群のほうが次の値が高くなりました。抗酸化酵素であるグルタチオンペルオキシダーゼ(GSH-Px)と銅・亜鉛スーパーオキシドジスムターゼ(Cu-Zn SOD)の活性、そして甲状腺ホルモンの一種であるT3の濃度です。

受精率、ふ化率、健康な雛の割合には群間で差がありませんでした。一方、コーティング群の母鶏から生まれた雛は、対照群の雛より体重、胸の筋肉、肝臓が重くなっていました。1日齢の雛の血液では、Cu-Zn SODの活性とT3濃度が、500mg群・1000mg群ともに対照群より有意に高くなりました。GSH-Pxの活性は、1000mg群でのみ対照群より有意に高くなりました。

小腸では、十二指腸・空腸・回腸のいずれでも、コーティング群のほうが栄養を吸収する突起である絨毛が高くなっていました。また、絨毛の付け根のくぼみ(陰窩)は浅くなっていました。腸の細胞同士のすき間を閉じる働きに関わる遺伝子(OccludinとZO-1)の発現は、1000mg群で他の2群より高くなりました。一方、粘液成分に関わるMUC2遺伝子などには差がありませんでした。著者らは、雛の形質の改善は1000mg群でより明確だったのに対し、母鶏の成績は2つのコーティング群で同程度だったと述べています。

研究が示すこと

著者らは、コーティングした無機微量ミネラルを500mgという少ない量で与えた場合でも、コーティングなしの2000mgと比べて改善が見られたと報告しています。改善が見られたのは、種鶏の産卵成績、卵殻構造、抗酸化状態、雛の腸の発達です。そのうえで、500mgが全体として最もバランスのよい反応を示したと結論づけています。また、卵へのミネラルの蓄積が増えたことが、こうした変化に関わっている可能性も論じています。

一方で著者らは、この研究の限界として次の点を挙げています。 ・調べた配合量が2水準のみであること ・1品種・1つの飼育環境での結果であること ・ふんへのミネラル排出を測っていないため、環境面の利点は確かめられていないこと ・商業規模での費用対効果は検証していないこと この研究は、ミネラルの化学的な形を変えずに包み方を工夫することで、より少ない配合量でも種鶏と雛の成績に違いが生じうることを、比較試験の結果として示したものといえます。

原著論文の著者・所属:Linfeng Zhou(College of Animal Science and Technology, Northeast Agricultural University, Harbin 150030, China)、Zhongyu Li(College of Animal Science and Technology, Northeast Agricultural University, Harbin 150030, China)、Ruicheng Han(College of Animal Science and Technology, Northeast Agricultural University, Harbin 150030, China)、Lubing Xu(College of Animal Science and Technology, Northeast Agricultural University, Harbin 150030, China)、Hao Sun(College of Animal Science and Technology, Northeast Agricultural University, Harbin 150030, China)、Liangmei Xu(College of Animal Science and Technology, Northeast Agricultural University, Harbin 150030, China)、Hongzhi Wu(Tropical Crop Genetic Resource Research Institute, Chinese Academy of Tropical Agricultural Sciences, Haikou 571101, China)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Linfeng Zhou, Zhongyu Li, Ruicheng Han, et al. Effects of Reduced-Level Coated Inorganic Compound Trace Minerals on Breeder Hen Performance, Eggshell Quality, Antioxidant Status, and Progeny Development Compared with an Inorganic Premix. Veterinary Sciences 2026-08-21. DOI: 10.3390/vetsci13080842. 原著ライセンス:CC BY.