この研究は、スロバキアの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Biological Trace Element Research

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

クマ肉と聞くと、多くの人にとってなじみの薄い食材かもしれません。しかしヨーロッパの一部地域では、野生動物の肉(ジビエ)として実際に消費される場面があります。では、ヒグマの肉は栄養面でどのような特徴を持ち、口にする上で気をつけるべき点はあるのでしょうか。今回紹介する研究は、スロバキアに生息する野生のヒグマ(Ursus arctos)の筋肉を対象に、脂肪酸の構成やミネラル含量、さらに重金属汚染の状況を分析し、人が食べた場合の健康リスクを評価したものです。

研究でわかったこと

研究チームは、野生下で生息する個体10頭から採取した筋肉(半膜様筋と上腕三頭筋)を、確立された分析手法を用いて調べました。その結果、ヒグマの筋肉はタンパク質含量が約22.5g/100gと高く、筋肉内脂肪は1g/100g未満と低いことが確認され、いわゆる「高タンパク・低脂肪」な栄養特性を持つことが示されました。

脂肪酸組成については、一価不飽和脂肪酸が最も多く、次いで飽和脂肪酸、多価不飽和脂肪酸の順であったと報告されています。脂質の質を評価する指標(動脈硬化指数や血栓形成指数など)は良好な値を示し、多価不飽和脂肪酸と飽和脂肪酸の比率も、栄養学上推奨される基準を上回っていたとされています。一方で、n-6系脂肪酸とn-3系脂肪酸の比率は比較的高く、これは分析対象となったヒグマが雑食性であることや、季節による生理状態の違いを反映していると考察されています。

ミネラルに関しては、鉄と亜鉛が主要な微量元素として検出され、この筋肉組織が栄養面で価値を持つことが示されました。重金属汚染については、ヒ素・クロム・カドミウム・水銀といった有害元素の多くが、分析上の検出限界または定量限界を下回っており、記述的な扱いにとどめられています。一方で鉛については、平均濃度自体は低いものの、個体間でのばらつきが大きく、一部の個体では高い値が検出されました。この鉛の変動は、弾丸の破片による二次的な汚染が関係している可能性が高いと論文では指摘されています。

100gのヒグマ肉を摂取した場合を想定した曝露評価では、検出限界未満のデータの扱いに厳しめの手法(上限値を仮定するアプローチ)を用いた場合でも、カドミウムと水銀による曝露は毒性学的に無視できる程度と評価されました。一方で、鉛については、最大曝露のシナリオを想定した場合に曝露量がかなり増加することが示されたとされています。

この研究の位置づけ・読むうえでの注意

この研究は、スロバキアで得られた10頭のヒグマ由来の筋肉サンプルを対象とした分析結果に基づくものであり、他地域や他の個体群にそのまま当てはまるとは限りません。また、鉛濃度に見られた個体差の大きさは、狩猟に伴う汚染など特定の状況を反映している可能性が論文内で示唆されており、すべてのヒグマ肉に一様に当てはまる結果ではない点に留意が必要です。一つの研究であり、ヒグマ肉の安全性について結論が確定したわけではありません。

まとめ

今回の研究では、野生ヒグマの筋肉が高タンパク・低脂肪で、一価不飽和脂肪酸や鉄・亜鉛に富むという栄養的な特徴を持つことが示されました。カドミウムや水銀による健康リスクは無視できる程度と評価された一方、鉛については個体差が大きく、一部で高い値が見られたことから、ジビエとしてのクマ肉における鉛汚染については今後も継続的な監視が必要だと論文では結論づけられています。

※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。出典(原著論文):ヒグマ(Ursus arctos)筋肉における脂肪酸プロファイル、ミネラル組成、重金属汚染:ヒト健康リスク評価への示唆(バイオロジカル・トレース・エレメント・リサーチ・2026年08月)

著者:Peter Hascik(Institute of Food Sciences, Faculty of Biotechnology and Food Sciences, Slovak University of Agriculture in Nitra, Tr. A. Hlinku 2, Nitra, 949 76, Slovak Republic)、Matúš Rajský(Institute of Nutrition, Research Institute for Animal Production Nitra, National Agricultural and Food Centre, Hlohovecká 2, Lužianky, 951 41, Slovak Republic)、Miroslava Kačániová(Institute of Horticulture, Faculty of Horticulture and Landscape Engineering, Slovak University of Agriculture in Nitra, Tr. A. Hlinku 2, Nitra, 949 76, Slovak Republic)、Adriana Pavelková(Institute of Food Sciences, Faculty of Biotechnology and Food Sciences, Slovak University of Agriculture in Nitra, Tr. A. Hlinku 2, Nitra, 949 76, Slovak Republic. [email protected]