この研究は、マレーシアの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Springer Link (Chiba Institute of Technology)

ライセンス: CC BY 4.0 対象: 公開論文 確認元: Crossref

何を目的とした研究か

近年、食品に「基本的な栄養の供給」だけでなく「健康状態を改善し、病気のリスクを下げる生理的な働き」も期待する機能性食品という考え方が広がってきました。著者らは、その背景として、脂質の摂取が多い現代の食習慣と、肥満・糖尿病・消化器系の障害といった疾患の増加との関連が指摘されてきたことを挙げています。

著者らが注目したのは、ナツメヤシの実(学名 Phoenix dactylifera L.)、いわゆるデーツです。デーツは消化されやすい糖質に富み、食物繊維やタンパク質、ビタミン、ミネラル、さらにポリフェノールやカロテノイド、ステロール、タンニンなどの生体活性成分(体内で何らかの生理的な働きをもつ成分)を含むことが知られています。ただし著者らは、栄養成分や植物化学成分、一般的な健康効果についてはすでに詳しくまとめられている一方で、消化の健康に関する現時点の根拠と、機能性食品素材としての応用可能性を結びつけて整理した総説は限られていると述べています。そこでこの論文は、デーツの栄養組成と生体活性成分を分析し、消化の健康を保つうえでどのような役割を果たしうるかを評価することを目的としています。

どのように調べたか

著者らが用いたのは、新たな実験や被験者試験ではなく、文献レビューという手法です。デーツの栄養プロフィールと生理的な作用について報告している既存の科学的な文献を集め、その内容を分析してまとめ上げるという進め方になっています。したがってこの論文で紹介される数値や作用は、著者らが自ら測定したものではなく、既発表の報告を整理したものとして示されています。

報告された主な内容

栄養組成について著者らは、糖質が最も多い成分で乾燥重量の65〜88%を占め、その大部分がブドウ糖と果糖、わずかにショ糖であると整理しています。熟していく過程で水分が減り、酵素の働きで多糖類が単糖に変わるため、甘さとエネルギー量が高まり、100グラムあたり約307〜354キロカロリーになるとされます。一方でタンパク質は乾燥重量の約1.2〜6.5%、脂質は0.12〜2%、ミネラルは1.4〜2%と、いずれも比較的少ない割合です。ミネラルではカリウムが最も多く、報告では100グラムあたり684ミリグラムに達するとされています。ビタミンについては、B群(チアミン、リボフラビン、ナイアシン、パントテン酸、ピリドキシン、葉酸など)が主に含まれ、ビタミンAのもとになるβ-カロテンやルテイン、ネオキサンチン、少量のビタミンCも含まれるとまとめられています。ただしビタミンCは、完熟に向かう過程で分解され減る傾向があるとされています。

消化の健康との関わりで著者らが中心に据えているのは食物繊維です。デーツの食物繊維は乾燥重量の約1.9〜20.25%を占め、水に溶ける水溶性繊維と溶けない不溶性繊維の両方からなります。報告では食物繊維全体の84〜94%が水溶性で、ヘミセルロースやペクチンなどから構成され、消化管内で粘り気のあるゲルをつくることで胃から内容物が送り出される速さをゆるやかにし、栄養素の吸収を調整するとされています。不溶性繊維は便のかさを増やし、腸の動きを助けて規則的な排便に寄与するとまとめられています。水溶性繊維のうちペクチンは水を抱え込む力が強く、ゲルを形成して腸内容物の粘度を高め、満腹感を高めることにつながると説明されています。ペクチンの量は熟度によって変わり、半熟の段階では約7〜14.3%、完熟すると酵素の働きで1.3〜1.9%まで減ると報告されています。

著者らはまた、デーツにはプレバイオティクスとしての性質があると述べています。プレバイオティクスとは、ビフィズス菌や乳酸菌(ラクトバチルス)といった有益な腸内細菌の増殖を促す物質のことです。大腸では、ペクチンなどの食物繊維成分が有益な細菌によって発酵され、酢酸・プロピオン酸・酪酸を主とする短鎖脂肪酸がつくられるとされます。これらの短鎖脂肪酸は腸の上皮のバリアを強め、水分と電解質の吸収を改善し、大腸の細胞にとって主要なエネルギー源となると整理されています。さらにポリフェノールなどの抗酸化成分については、腸の粘膜を傷つけて慢性的な炎症を招きうる酸化ストレスを抑える働きが論じられています。総合すると著者らは、水溶性繊維が腸の動きを改善し、便秘を防ぎ、腸内細菌のバランスを整えること、加えて生体活性成分が抗酸化の働きを高め、消化管の機能を支えうることを報告結果としてまとめています。

食品素材としての応用面では、デーツが天然の甘味料、保湿剤(フムクタント)、食感を整える素材、有益な菌の担体、天然の安定剤として用いられることが紹介されています。果肉はブドウ糖・果糖・ペクチンを多く含むため製菓・製パンで水分を保つ役割を果たし、パンやマフィン、ケーキを柔らかく保ち日持ちをよくするほか、水と結びつく性質によって脂肪の一部代替としても使えるとされています。シロップは還元糖に富み、カラメルのような風味をもたらす天然甘味料として、またポリフェノールが比較的熱に安定なため生体活性成分の担い手としても働くと述べられています。シロップを搾ったあとに残るプレスケーキも、ペクチンやヘミセルロース、ポリフェノールを含み、増粘剤・安定剤や低脂肪製品での脂肪代替として利用しうると整理されています。

この整理が示すこと

この論文は、デーツがもともと持つ栄養組成と生体活性成分、そして大腸での発酵という三つの側面を手がかりに、消化の健康を支える天然の機能性食品素材としての可能性を、既存の文献から一つの筋立てにまとめたものです。著者らの結論は、デーツにはそうした素材としての大きな可能性があり、新たな機能性食品へと発展させうるというものです。日常的になじみのある甘い果実が、エネルギー源としてだけでなく、腸の働きという観点からも検討に値する食材として位置づけられることを示した整理といえます。

著者:Miyuko Laurell Wijaya(Food Technology Department, Faculty of Engineering, Bina Nusantara University)、Steven Suryoprabowo(Food Technology Department, Faculty of Engineering, Bina Nusantara University)、Eddy Seong Guan Cheah(Department of Biological Science, Faculty of Science, Universiti Tunku Abdul Rahman, Jalan Universiti)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Miyuko Laurell Wijaya, Steven Suryoprabowo, Eddy Seong Guan Cheah. Date Fruits (. Springer Link (Chiba Institute of Technology) 2026-09-10. DOI: 10.1051/bioconf/202625304002. 原著ライセンス:CC BY.