この研究は、バングラデシュ、アメリカの研究機関の研究論文です。
掲載誌:PLoS ONE
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
何を明らかにしようとしたのか
バングラデシュでは、子どもの低身長(年齢に対して身長が低い状態)や低体重が減ってきた一方で、体に必要な微量栄養素が足りていない状態が今も残っていると著者らは述べています。妊娠中の女性や出産可能な年齢の女性ではビタミンA不足や貧血が多く、カルシウム、葉酸、鉄、亜鉛などの不足も珍しくないとされています。さらに近年は、栄養不足・微量栄養素の不足・過剰栄養という三つの問題が同時に存在する状況が懸念されている、と論文は指摘しています。
こうした状況に対し、研究チームは「年齢や性別、そして妊娠中・授乳中といった生活段階ごとに、人々が実際にどれだけのエネルギーや栄養素をとっているのか」を数値で把握しようとしました。目的は、エネルギーと三大栄養素・微量栄養素の摂取量を推定し、11種類の微量栄養素について「必要量を満たしている可能性の高さ」を計算することです。著者らは、これまでの研究では脆弱な立場にある集団を横断的にそろえて評価したものが乏しく、また充足度を左右する社会人口学的な要因の検討も十分ではなかったと説明しています。
二つの全国調査を使った方法
研究チームは、バングラデシュで行われた二つの調査の食事データを分析しました。一つはバングラデシュ統合世帯調査(BIHS)2015で、農村部を代表する13,086人分のデータです。もう一つはバングラデシュ栄養調査(NSB)2017〜2018で、都市部と農村部の全地域を含む3,116人分のデータにあたります。両者は別々のデータとして扱われ、一つに統合はされていません。著者らは、NSBが個人の摂取量を詳しく把握できる全国代表データである一方、BIHSは世帯の食品入手・消費と社会経済的な情報を結びつけられるため、二つを併用することで見え方が補い合うと説明しています。
食事の記録方法は調査ごとに異なります。NSBでは食品を実際にはかりで量る「秤量記録法」が用いられ、BIHSでは24時間思い出し法(前日に食べたものを聞き取る方法)が使われました。調理後の料理の重さは、換算によって材料の生の重量に置き換えられ、栄養素量はバングラデシュの食品成分表をもとに計算されています(表に見つからない食品には他の成分表が使われました)。世帯単位で得られた食事量を個人の量に割り振る際には「成人男性換算」という考え方が用いられています。ただし著者らは、この方法では世帯の中で性別や年齢、役割によって食事の配分に差がある場合をとらえられず、女性や子どもの推定値に影響しうると自ら注記しています。
「充足の確率」は、推定した習慣的な摂取量を推定平均必要量(EAR=ある集団の半数の人の必要量を満たす量)と比べて計算されました。バングラデシュには独自の必要量の基準がまだないため、食事内容や食料システムが近い地域の値としてインド(ICMR-NIN)のEARが使われています。11種類の微量栄養素それぞれの確率を平均した値が「平均充足確率(MPA)」であり、これが高いか低いかと社会人口学的な特徴との関係が統計的に調べられました。
報告された主な結果
まず食事の中身についてです。どちらの調査でも、穀類が食事の中心を占めていました。NSB 2017〜2018では、19〜60歳の成人で穀類の平均摂取量は1日435g、60歳以上で365g、10〜18歳で332gと報告されています。エネルギー摂取量の中央値は成人(19〜60歳)で1日2,119kcal、60歳以上で1,846kcal、10〜18歳で1,599kcalでした。一方で、果物、葉物野菜、豆類、牛乳、ナッツの摂取は少ないという結果でした。食品群ごとの寄与を見ると、穀類が1日のエネルギーの70%、炭水化物の90%、たんぱく質の53%を供給しており、脂質は食用油が74%を占めていました。微量栄養素では、穀類が鉄の44%、葉酸の32%の供給源となっていたと報告されています。
次に栄養素の充足度です。著者らによれば、カルシウム、リボフラビン、ビタミンB12、葉酸、亜鉛、ビタミンAの充足度が低く、例外的にナイアシンとビタミンB6は高い水準でした。NSBのデータでは、亜鉛の充足確率の中央値はわずか1%、鉄は13%にとどまり、11種類の微量栄養素をまとめた平均充足確率の中央値は20%でした。BIHSのデータでも同じ平均値は30%にとどまり、いずれの年齢層・生活段階でも低い水準だったとされています。とくに2歳未満の子どもは、ほぼすべての微量栄養素で他の集団より充足確率が低いという結果でした。
どのような人で充足度が低いのかについても報告があります。NSBのデータでは、女性は男性に比べて平均充足確率が高くなりにくく(調整オッズ比0.58、95%信頼区間0.49〜0.70)、10〜18歳の思春期の人は1〜5歳の子どもに比べて低い傾向(同0.57、0.37〜0.88)でした。世帯人数が4人を超える家庭の人は、それより小さい世帯の人に比べて充足度が高くなりにくい(同0.70、0.57〜0.86)という結果も示されています。BIHSのデータでは、2歳未満の子どもは出産可能年齢の女性に比べて充足度が低く(同0.51、0.41〜0.64)、逆に10〜14歳の前思春期の人(同1.20)や授乳中の女性(同1.78)は高い傾向にありました。なお「オッズ比」は、ある特徴をもつ人が別の人と比べてその状態になりやすいかどうかを表す指標で、1より小さければなりにくいことを意味します。これらは統計的な関連であり、原因と結果を確かめたものではありません。
この研究が示すこと
研究チームの結論は、バングラデシュの食事が穀類に偏り、果物・葉物野菜・豆類・牛乳・ナッツの摂取が少ないことが、すべての年齢層に広がる微量栄養素の不足につながっている可能性がある、というものです。そして著者らは、豆類、果物、ナッツと種実、葉物野菜、乳製品といった栄養密度の高い食品の生産や価格、手に入れやすさ、実際の消費を後押しする政策と戦略が必要だと述べています。
エネルギーの量が足りているかどうかだけを見ていると、食事の質の問題は見落とされます。この研究は、年齢や性別、妊娠・授乳といった段階ごとに必要量と実際の摂取量を突き合わせることで、「どの集団のどの栄養素が足りていないか」を具体的に描き出した点に意味があります。数値は調査当時の状況を反映したものであり、世帯内での食事の配分など推定上の限界も著者らが明示していますが、食事の偏りがどの世代にも及んでいるという姿は、栄養政策が誰に向けて何を優先すべきかを考える手がかりになります。
著者:Md. Hafizul Islam(University of Dhaka)、Nazma Shaheen(BRAC University)、Masum Ali(Emory University)、Abira Nowar(University of Dhaka)、Saiful Islam(University of Dhaka)、Syed Shahadat Hossain(University of Dhaka)、Md. Ruhul Amin(University of Dhaka)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Md. Hafizul Islam, Nazma Shaheen, Masum Ali, et al. Food consumption patterns and nutrient adequacy across lifecycle stages in Bangladesh. PLoS ONE 2026-09-28. DOI: 10.1371/journal.pone.0359205. 原著ライセンス:CC BY.