この研究は、ベトナムの研究機関の研究論文です。

掲載誌:PLOS Global Public Health

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

自閉症スペクトラム障害(ASD)のある子どもは、偏食や感覚過敏などの影響で食生活が偏りやすいことが知られています。とはいえ、こうした子どもたちが実際にどのような栄養状態にあるのか、特に所得水準が高くない地域でのデータは限られていました。今回紹介する研究は、ベトナム中部の子どもたちを対象に、食事内容と血液中の微量栄養素の状態を詳しく調べたものです。栄養に関心のある方にとっては、ASD児支援における「食」の課題を具体的な数字で示す興味深い報告といえます。

どんな調査が行われたのか

研究チームは、ベトナム中部にある5つの療育・介入センターから、ASDと診断された2〜9歳の子ども48人を集めました。保護者への聞き取りにより、直近24時間に食べたものを振り返る「24時間思い出し法」と、過去1か月の食品摂取頻度を尋ねる質問票を実施。あわせて身長・体重などの身体計測を行い、世界保健機関(WHO)の基準に基づく指標に変換しました。さらに空腹時の採血により、貧血の指標であるヘモグロビン、鉄の貯蔵量を示す血清フェリチン、血清亜鉛の濃度を測定しています。これらの結果は、5歳未満の未就学児と5〜9歳の子どもとで比較されました。

わかったこと

身体計測の結果では、低体重(やせ)が16.7%、低身長(発育不良)が20.8%の子どもに見られた一方で、6.3%は過体重・肥満に該当したと報告されています。つまり、栄養不足と栄養過多が同じ集団の中に併存していたことになります。

血液検査では、亜鉛欠乏が45.8%と半数近くの子どもに見られ、フェリチン低値(鉄不足の兆候)が16.7%、貧血が10.4%で確認されました。また、2つの微量栄養素欠乏を同時に抱えていた子どもは16.7%に上ったとされています。

食事内容については、エネルギー摂取量の中央値は国の推奨量の84.6%にとどまっていました。食物繊維の摂取はすべての子どもで推奨量を下回っており、ヨウ素(97.0%)、亜鉛(64.6%)、ビタミンC(64.6%)、カルシウム(56.3%)についても、推奨量に届かない子どもが多数を占めていたと報告されています。特にカルシウムについては、5歳以上の子ども(73.9%)のほうが5歳未満の子ども(40.0%)よりも摂取不足の割合が有意に高かったとされています。食事の中心は穀物系の食品で、豆類、野菜、乳製品、動物性食品の摂取頻度は少なかったと述べられています。

この研究を読むうえでの注意

この調査はベトナム中部の5施設に通う48人という限られた人数を対象にした横断研究であり、ある一時点の状態を捉えたものです。そのため、原因と結果の関係を明らかにするものではなく、また他の地域や集団にそのまま当てはまるとは限りません。研究チーム自身も、この結果を今後の栄養介入を設計するための「ベースラインデータ」と位置づけており、これをもとにした介入の効果を検証する研究は今後の課題として示唆されています。

まとめ

この研究では、ベトナム中部のASD児において、栄養不足・微量栄養素欠乏・過体重という「三重の栄養課題」が同時に存在する可能性が示されました。亜鉛やカルシウム、食物繊維などの摂取不足も広く見られたとされ、早期の栄養スクリーニングや食事改善の必要性が指摘されています。今後、こうした知見をもとにした介入研究の広がりが期待されるところです。

※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。出典(原著論文):ベトナム中部の自閉症児における微量栄養素状態と食事パターン:標的介入のための横断的ベースライン調査(プロス・グローバル・パブリック・ヘルス)

著者:Huyen Thu Doan(Hanoi Medical University, Hanoi, Vietnam)、Ngoc Thi Dieu Phan(Hanoi Medical University, Hanoi, Vietnam)、Hoa Thi Ho(Institute of Nutrition Research and Development, Hanoi, Vietnam)、Lieu Thi Thu Nguyen(Hanoi Medical University, Hanoi, Vietnam)、Khanh Nam Do、Oanh Thi Phuong Nguyen(Hanoi Medical University, Hanoi, Vietnam)、Ngoc Bao Trinh(Institute of Nutrition Research and Development, Hanoi, Vietnam)