この研究は、サウジアラビアの研究機関の研究論文です。
掲載誌:Foods
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
食物繊維やミネラル、抗酸化性をもつ植物成分を、人工的な強化剤ではなく自然由来の素材から補う試みが、穀物加工食品の分野で関心を集めています。焼き菓子は日常的に食べられ、配合を調整しやすいため、こうした素材を取り入れる場として適していると著者らは述べています。
この研究で著者らが取り上げたのは、ドゥームヤシ(Hyphaene thebaica L.)の果実です。エジプトやアフリカの乾燥地域に分布する在来の果樹で、果肉は生のままか乾燥させて、あるいは飲料として伝統的に食べられてきました。先行研究では食物繊維、ミネラル、フラボノイドやフェノール化合物に富むことが報告されています。研究チームは、この果実を粉末にしたもの(以下、ドゥーム果実粉末)を、グルテンフリーのオーツ麦クッキーの機能性素材として使えるかどうかを調べることを目的としました。
何をどう調べたか
著者らはドゥーム果実を洗浄したうえで果肉部分を取り出し、60℃の熱風乾燥機で6時間乾燥させて粉砕し、80メッシュのふるいを通して粉末にしました。この粉末でオーツ麦粉の5%、10%、15%、20%を置き換えた4種類の生地を作り、直径60mm・厚さ6mmに成形して180℃で15分焼成しています。甘味料には精製糖の代わりにナツメヤシ果実のペーストを用い、比較のために精製糖を使った対照と、ナツメヤシペーストを使った対照の2種類も用意されました。
評価項目は多岐にわたります。水分・タンパク質・脂質・粗繊維・灰分といった一般成分、カルシウムやカリウムなどのミネラル、総フェノール量や総フラボノイド量、DPPH法による抗酸化活性、HPLCによる個々のフェノール化合物の同定、生地の物性(ファリノグラフによる吸水率や安定度など)、クッキーの体積・密度・色、そして訓練された10名のパネルによる10点尺度の官能評価です。得られたデータには分散分析に加え、相関分析と主成分分析が適用されました。
ここでいう抗酸化活性は、試験管内で特定のラジカルを消去する能力を測った指標です。フェノール化合物は植物に広く含まれる成分群で、この抗酸化性に関わるとされています。いずれも化学的な性質の測定であり、人での健康効果を直接調べたものではありません。
報告された主な結果
まず原料同士の比較では、ドゥーム果実粉末はオーツ麦粉より粗繊維が多く(15.43対9.84 g/100g)、灰分は約4倍、総フェノール量は128.32対86.34 mg GAE/100g、抗酸化活性は49.89%対32.48%と高い値を示しました。カリウム、カルシウム、マグネシウム、ナトリウム、鉄もドゥーム果実粉末のほうが多かった一方、タンパク質、脂質、総フラボノイド、β-カロテン、亜鉛・銅・マンガン・リンはオーツ麦粉が上回っています。必須アミノ酸の合計はオーツ麦粉が40.18、ドゥーム果実粉末が12.62 g/100g タンパク質で、著者らはオーツ麦粉がタンパク質の主な供給源であると位置づけました。HPLCではオーツ麦粉の主要フェノールがフェルラ酸、ドゥーム果実粉末ではE-バニリン酸、次いでエラグ酸やp-ヒドロキシ安息香酸が検出されました。
クッキーでは、ドゥーム果実粉末の配合を増やすほど粗繊維が5.81%から8.69%へ、総フェノール量が37.08から50.04 mg GAE/100gへ、抗酸化活性が15.67%から24.11%へと有意に増加しました。ミネラルも同様の傾向で、カリウムは284.22から434.28 mg/100gへ、カルシウムは48.12から132.14 mg/100gへ増えています。一方でエネルギー値は477.74から440.04 kcal/100gへ、タンパク質は17.81%から13.76%へ低下しました。
技術的な面では代償も報告されています。生地の吸水率は64.40%から71.45%へ上がり、生地の形成時間は2.80分から6.00分へ延びましたが、安定度は3.50分から1.80分へ短くなり、混合中の生地の弱化は148BUから196BUへ増加しました。焼き上がったクッキーは配合量が多いほど色が濃くなり、体積は小さく密度は高くなりました。官能評価の点数も配合量の増加とともに下がりましたが、著者らはすべての試作品が許容範囲にとどまったと報告しています。
相関分析と主成分分析では、食物繊維、フェノール類、抗酸化活性、ミネラル含量が互いに強く結びついている一方、栄養面の向上と官能品質のあいだにはトレードオフが見られました。これらを総合して著者らは、5〜10%の配合が栄養価の向上と消費者の受容性の折り合いとして最も良いと結論づけています。
この研究が示すこと
著者らの報告は、地域で伝統的に食べられてきた果実の粉末が、グルテンフリーのクッキーに食物繊維やミネラル、フェノール化合物を持ち込む素材として機能しうることを、成分と物性の両面から具体的に示しています。同時に、加えれば加えるほど良いわけではないことも明らかになりました。生地の扱いやすさ、見た目、味わいは配合量に応じて変化し、どこまで栄養面を優先できるかには限度があります。
素材の可能性と作りやすさ・おいしさのあいだで、どの配合が現実的な着地点になるのか。それを一連の測定から数値として示したことが、この研究の中身だと言えます。
著者:Amal Matar(Food and Nutrition Sciences Department, College of Agricultural and Food Sciences, King Faisal University, Al-Ahsa 31982, Saudi Arabia)、Alaa S. Alharbi(Food and Nutrition Sciences Department, College of Agricultural and Food Sciences, King Faisal University, Al-Ahsa 31982, Saudi Arabia)、Maisa Bushra(Food and Nutrition Sciences Department, College of Agricultural and Food Sciences, King Faisal University, Al-Ahsa 31982, Saudi Arabia)、Dina Ali(Food and Nutrition Sciences Department, College of Agricultural and Food Sciences, King Faisal University, Al-Ahsa 31982, Saudi Arabia)、Nahed M. Rashed(Department of Arid Land Agriculture, College of Agricultural and Food Sciences, King Faisal University, Al-Ahsa 31982, Saudi Arabia)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Amal Matar, Alaa S. Alharbi, Maisa Bushra, et al. Nutritional Enhancement and Quality Evaluation of Oat-Based Cookies Enriched with Doum Fruit (Hyphaene thebaica L.) Powder: A Comprehensive Assessment of Functional, Rheological, Physicochemical, Sensory, and Multivariate Characteristics. Foods 2026-09-28. DOI: 10.3390/foods15193467. 原著ライセンス:CC BY.