著者の所属・活動拠点の国は、ルーマニアです。
掲載誌:Applied Sciences
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
なぜ肉製品の減塩を総合的に考えるのか
ハムやソーセージ、サラミなどの加工肉製品で、食塩(塩化ナトリウム)は味付けだけに使われているわけではありません。著者らによると、塩は肉のたんぱく質を溶かし出して加熱時に水分や脂肪を抱え込む網目構造を作らせ、食感やジューシーさを支えます。また、食品中で微生物が利用できる水分(水分活性)を下げて腐敗や食中毒菌の増殖を抑え、苦味を感じにくくして風味全体を引き立てる働きもあります。論文は、塩分がおよそ1.5%を下回ると、多くの伝統的な製品が本来の特徴を保てなくなると紹介しています。
一方で、塩分のとりすぎは公衆衛生上の大きな課題です。論文によると、欧州各国の平均食塩摂取量は1日8〜12gと推定され、世界保健機関(WHO)が推奨する1日5g未満の2〜3倍に当たります。加工肉製品は主要なナトリウム摂取源の一つです。また、34件のランダム化比較試験を統合した分析では、ナトリウム摂取を1日あたり平均75mmol(食塩で約4.4g)減らすと、収縮期血圧(上の血圧)が約4.18mmHg下がると推定されています。
研究チームは、肉製品の減塩をめぐる研究が「加工技術」「微生物学的な安全性」「心血管の健康への利益」「おいしさと消費者の受け入れ」という四つの側面で別々に進められてきた点に注目しました。この総説の目的は、四つの側面を一つの枠組みで整理し、栄養面では望ましい減塩が安全性を損なう場合があるといった、目標同士のせめぎ合いを明らかにすることです。
どのように研究を集めて整理したか
著者らは、実験研究から系統的レビューまで性質の異なる研究をまとめて扱える「統合的レビュー」という方法を採りました。四つの学術データベースで文献を検索し、293件の記録を見つけました。重複を除いた後、題名・要旨と本文を確認して対象を絞り込み、最終的に125件の研究を分析対象としています。
各研究からは、製品の組成や加工特性、微生物の指標、官能評価(人が実際に食べて味や食感を評価する試験)の結果などが抽出されました。ただし、論文が示す数値は元の研究に報告された値を傾向の説明のために整理したものです。複数の研究を統計的に統合したメタ分析の推定値ではない、と著者らは明記しています。
報告された主な結果
減塩の方法として最も単純なのは、代替物を使わずに少しずつ塩分を減らし、消費者の味覚を慣らしていく方法です。論文によると、15〜20%を超える減塩はすぐに気づかれやすく、味覚が慣れるまでには8〜12週間ほど継続して食べる必要があります。また、生ハムや発酵ソーセージのように微生物のリスクが高い製品では、補う対策なしに塩分だけを減らすのは受け入れられない選択肢だとしています。
最も研究が進み、産業でも広く使われている代替物は塩化カリウムです。塩化ナトリウムの30〜50%を塩化カリウムに置き換えると、ナトリウムを20〜38%減らしながら、加工上・微生物学上の機能を許容範囲に保てると報告されています。ただし、置き換えが30%を超えると苦味や金属的な後味が出やすくなります。これを和らげる方法として、塩化カリウムの結晶を膜で包む微粒子化(マイクロカプセル化)、アミノ酸のL-アルギニンの添加、うま味成分を多く含む酵母エキスやグルタミン酸ナトリウムとの組み合わせ、マグネシウムやカルシウムの塩を混ぜたミネラル混合物などが紹介されています。
物理的な工夫も取り上げられています。塩を表面に集中させるなど不均一に分布させると、同じ量でも塩味を強く感じやすくなります。また、非常に細かい塩の粒子は唾液に溶けやすく、20〜25%の減塩が報告されています。漬け込み時に超音波を当てると塩の浸透が速まり、20〜30%低い塩濃度の漬け液で同じ程度の浸透が得られたという報告もあります。発酵による風味づけや、たんぱく質同士を結びつける酵素の利用も、減塩で失われる機能の一部を補う手段として紹介されています。
安全性の面で著者らが特に重視しているのは、冷蔵温度でも増えるリステリア菌です。加熱ハムの塩分を2.5%から1.5%に下げると、4℃での増殖が速まり、増え始めるまでの期間も短くなったという研究が紹介されています。このほか、ボツリヌス菌や黄色ブドウ球菌、サルモネラにも注意が必要とされています。対策としては、乳酸ナトリウムや二酢酸ナトリウムの添加、包装後に高い圧力をかける高圧処理、乳酸菌がつくる抗菌物質の活用など、複数の防御策を組み合わせて強化する方法が挙げられています。さらに、条件ごとの菌の増え方をコンピューターで予測する「予測微生物学」が、安全な配合を事前に検討する道具になるとしています。
根拠の強さについて、著者らは減塩による心血管への利益を示す証拠は強いと評価しています。加工技術と微生物学的安全性に関する証拠は、製品の種類や技術によって中程度から強いとしています。一方、マイクロカプセル化や超音波などの新しい技術については、産業規模で検証した研究がまだ少なく、証拠は中程度にとどまると述べています。
この研究が示すこと
著者らは集めた証拠から、技術・味・微生物対策を補い合うように組み合わせ、それぞれの肉製品の特性に合わせて調整すれば、ナトリウムを25〜50%減らすことは達成可能だと結論づけています。同時に、あらゆる肉製品に一律に当てはまる単一の解決策は、証拠からは支持されないとしています。
塩が多くの役割を同時に担っているからこそ、減塩は味だけの問題ではなく、食感、保存性、安全性との釣り合いを取りながら進める必要があります。この総説は、製品ごとに異なるそのバランスを全体として見渡す視点を示しています。
原著論文の著者・所属:Ileana Cocan(Faculty of Food Engineering, University of Life Sciences “King Mihai I” from Timisoara, Aradului Street No. 119, 300645 Timisoara, Romania; “Food Science” Research Center, University of Life Sciences “King Mihai I” from Timisoara, Aradului Street No. 119, 300645 Timisoara, Romania)、Călin Jianu(Faculty of Food Engineering, University of Life Sciences “King Mihai I” from Timisoara, Aradului Street No. 119, 300645 Timisoara, Romania; “Food Science” Research Center, University of Life Sciences “King Mihai I” from Timisoara, Aradului Street No. 119, 300645 Timisoara, Romania)、Mihaela Cazacu(Faculty of Food Engineering, University of Life Sciences “King Mihai I” from Timisoara, Aradului Street No. 119, 300645 Timisoara, Romania; “Food Science” Research Center, University of Life Sciences “King Mihai I” from Timisoara, Aradului Street No. 119, 300645 Timisoara, Romania)、Monica Negrea(Faculty of Food Engineering, University of Life Sciences “King Mihai I” from Timisoara, Aradului Street No. 119, 300645 Timisoara, Romania; “Food Science” Research Center, University of Life Sciences “King Mihai I” from Timisoara, Aradului Street No. 119, 300645 Timisoara, Romania)、Ersilia Alexa(Faculty of Food Engineering, University of Life Sciences “King Mihai I” from Timisoara, Aradului Street No. 119, 300645 Timisoara, Romania; “Food Science” Research Center, University of Life Sciences “King Mihai I” from Timisoara, Aradului Street No. 119, 300645 Timisoara, Romania)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Ileana Cocan, Călin Jianu, Mihaela Cazacu, et al. Salt Reduction in Meat Products: An Integrative Review of Technology, Safety, Health, and Sensory Quality. Applied Sciences 2026-08-14. DOI: 10.3390/app16168114. 原著ライセンス:CC BY.