著者の所属・活動拠点の国は、クロアチアです。

掲載誌:Processes

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

燻製や焼き肉で生じる汚染物質を一つの枠組みで整理する

多環芳香族炭化水素(PAH)は、木材や石炭などの有機物が不完全に燃焼するときにできる化学物質の総称です。炭素と水素だけからなり、ベンゼン環が二つ以上つながった構造をしています。燻製、炭火焼き、ロースト、揚げ物などの加熱調理をした肉製品からたびたび検出され、食品の安全性で重要な汚染物質とされています。

本論文は新たな実験の報告ではなく、既存の研究をまとめた総説です。著者らによれば、肉製品のPAHに関する研究は数多くありますが、生成の仕組み、含有実態、分析法、健康影響、規制、低減策といった個別のテーマごとに分散していました。そこで研究チームは、これらを肉製品に焦点を当てた一つの枠組みにまとめ、PAH管理の全体像を示すことを目的としました。

食品汚染の評価では、ベンゾ[a]ピレン(BaP)、ベンズ[a]アントラセン、ベンゾ[b]フルオランテン、クリセンの4種の合計が指標としてよく使われます。この4種は「PAH4」と呼ばれます。

PAHができる三つの経路と、量を左右する条件

著者らは、肉製品でPAHが生じる主な経路を三つに整理しています。一つ目は、およそ200℃を超える高温で有機物が分解し、その断片が再び結合して環状の構造をつくる経路です。二つ目は、溶けた脂が炎や熱い炭に滴り落ちて分解し、その煙に含まれるPAHが肉の表面に付く経路です。三つ目は、炭や薪といった燃料自体の不完全燃焼で生じたPAHが、煙に運ばれて食品に付着する経路です。

生成量を左右する条件として、温度、燻製の時間、燃料の種類、肉の脂肪量、熱源からの距離が挙げられています。紹介された研究では、燻製に使う木の種類によってPAH量が大きく変わりました。トウヒでは多く、リンゴやハンノキでは少ないという結果です。また、炭火調理はガス調理よりPAH濃度が高くなる傾向があると報告されています。脂肪の多い牛肉や羊肉の炭火焼きでPAHが高い値を示した研究も挙げられています。

実際の製品については、伝統的な方法で燻製した製品や炭火焼きの製品で、生肉や加工の少ない製品よりPAH濃度が高い傾向がまとめられています。たとえば中国で販売されていた伝統的な燻製鶏肉では、皮のPAH4が1キログラムあたり30.43〜225.17マイクログラムに達した例がありました。ただし著者らは、地域間の比較について慎重な解釈を求めています。研究ごとに製品の種類、加工条件、試料の集め方、測定対象としたPAHの数、分析法が異なるためです。

健康影響と各国の規制

健康面について著者らは、PAHそのものの急性毒性は比較的低いと述べています。問題は、体内で酵素により変化してできる反応性の高い物質です。これがDNAに結合すると、変異やがんの発生につながりうると説明しています。BaPは国際がん研究機関(IARC)によって「ヒトに対して発がん性がある」グループ1に分類されています。食事からのBaP摂取と大腸腺腫などとの関連を報告した観察研究も紹介されています。ただし著者らは、摂取量の推定に誤差が入りやすいこと、肉由来の他の変異原物質にも同時にさらされていることから、これらの結果は慎重に解釈すべきだとしています。

規制について、EUの規則2023/915では、通常の燻製肉製品の上限をBaPで1キログラムあたり2マイクログラム、PAH4合計で12マイクログラムと定めています。一方、伝統的な燻製製品は風味を保ちながら基準を満たすのが難しい場合があります。そのため、指定された加盟国が自国市場向けに一部の伝統的燻製製品を認める特例があり、その上限はBaPで5マイクログラム、PAH4で30マイクログラムです。これに対し、国際的な食品規格であるコーデックスの実施規範は数値の上限を設けていません。著者らの整理では、米国、カナダ、オーストラリア・ニュージーランドにも肉製品に特化したPAHの上限はありません。

測る技術と減らす工夫

肉は脂質やたんぱく質、水分を多く含むため、微量のPAHを正確に測るには試料の前処理が重要になります。著者らは、成分を分離して蛍光で検出する高速液体クロマトグラフィー(HPLC–FLD)について、肉製品での検出下限が1キログラムあたり0.003〜0.200マイクログラムと報告されていることを示しています。こうした手法により、高感度での測定が可能だとしています。

PAHを減らす方法として既存研究から挙げられているのは、次のような工夫です。煙を別の室で発生させる間接燻製、適切な燃料の選択、煙の浄化、熱源への脂の滴下の防止、抗酸化成分の多いマリネ液の利用です。

著者らの結論は、肉製品のPAHを効果的に管理するには、加工技術の最適化、高感度な分析による監視、規制基準の遵守を組み合わせる必要があるというものです。あわせて、製品の品質や伝統的な製法を守ることとの両立も求められるとしています。燻製や焼き肉の風味と安全性をどう両立させるかという課題を、生成から規制まで通して見渡せる点が、本総説の特徴といえます。

原著論文の著者・所属:Krešimir Mastanjević(Faculty of Food Technology Osijek, University Josip Juraj Strossmayer Osijek, Franje Kuhača 18, 31000 Osijek, Croatia)、Martina Hederić(Faculty of Food Technology Osijek, University Josip Juraj Strossmayer Osijek, Franje Kuhača 18, 31000 Osijek, Croatia)、Silvio Halt(Faculty of Food Technology Osijek, University Josip Juraj Strossmayer Osijek, Franje Kuhača 18, 31000 Osijek, Croatia)、Kristina Habschied(Faculty of Food Technology Osijek, University Josip Juraj Strossmayer Osijek, Franje Kuhača 18, 31000 Osijek, Croatia)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Krešimir Mastanjević, Martina Hederić, Silvio Halt, et al. Polycyclic Aromatic Hydrocarbons in Meat Products: Formation, Detection and Regulatory Challenges. Processes 2026-08-07. DOI: 10.3390/pr14162532. 原著ライセンス:CC BY.