著者の所属・活動拠点の国は、イタリアです。

掲載誌:Beverages

ライセンス: CC BY 4.0 対象: 公開論文 確認元: Crossref

捨てられてきたコーヒーの副産物に注目する理由

私たちが飲むコーヒーには焙煎した豆だけが使われます。しかしコーヒーの実を生豆、焙煎豆へと加工し、抽出するまでの過程では、大量の副産物が生まれます。主なものは三つあります。コーヒーの実の果肉や外皮を乾燥させた「コーヒーハスク・パルプ」(カスカラとも呼ばれます)、焙煎時にはがれ落ちる薄皮「シルバースキン」、そして抽出後に残る「コーヒーかす」です。

これらは長く廃棄物として扱われてきました。ところが近年、食物繊維や多糖類、メラノイジンを多く含むことが分かってきました。メラノイジンは焙煎中の加熱反応(メイラード反応)でできる褐色の高分子です。こうした成分の多くは胃や小腸でほとんど消化されずに大腸まで届き、腸内細菌のえさになる可能性があります。腸内細菌に選択的に利用されて健康に役立つ物質は「プレバイオティクス」と呼ばれます。

著者らによると、副産物の作用を調べた研究は試験管内の実験や動物実験に分かれていて、安全性や人での効果、規制までを結びつけて整理した研究は少ないのが現状です。そこで研究チームは、資源を循環させる経済への移行という流れも踏まえ、三つの副産物を腸の健康を意識した食品・飲料の素材として捉え直しました。そして既存の知見を幅広くまとめることを目指しました。

四つの観点から文献を整理

この論文は、新しい実験を行った研究ではありません。既存の研究を読み解いてまとめる「ナラティブレビュー(叙述的総説)」です。研究チームは主要な学術データベースで、コーヒーの副産物、腸内細菌、短鎖脂肪酸、食物繊維などに関する論文を検索しました。欧州食品安全機関(EFSA)など食品安全当局の報告書も参照しています。

整理の観点は四つです。一つ目は化学成分と機能性成分、二つ目は腸内細菌への作用を示す試験管内・動物・人の研究、三つ目は毒性や汚染物質、四つ目は欧州連合(EU)と米国での規制上の位置づけです。食品として使えない化学分画や、元の素材の性質を大きく失った抽出物を扱う研究は対象から外しました。また、細胞や動物で見られた仕組みと、人で確かめられた結果を区別して記述しています。

成分の特徴と腸内細菌への作用

報告によると、三つの副産物は成分の構成がそれぞれ異なります。シルバースキンは食物繊維が非常に多く、乾燥重量の52〜70%ほどを占めますが、その大半は水に溶けない不溶性繊維です。コーヒーハスク・パルプは、繊維のほかに発酵しやすい糖類、クロロゲン酸、カフェインを含みます。コーヒーかすは多糖類が乾燥重量の45〜60%ほどを占め、その中心はガラクトマンナンなどの多糖です。

成分は違っても、三つの副産物には共通点があると著者らは述べています。不溶性繊維やオリゴ糖、メラノイジンは消化されずに大腸へ届き、腸内細菌によって発酵されます。その結果、酢酸・プロピオン酸・酪酸といった短鎖脂肪酸がつくられ、大腸内が酸性に傾くという筋道です。

この筋道を支える報告として、論文は試験管内の研究を紹介しています。たとえば、コーヒーかすのガラクトマンナンを酵素で分解して得たマンノオリゴ糖は、消化に強く、腸内細菌によく発酵されました。シルバースキン由来の成分は、ビフィズス菌や乳酸菌の仲間の増殖を促したと報告されています。動物実験では、高脂肪・高炭水化物食を与えたラットにコーヒーハスク・パルプやコーヒーかすを5%加えたところ、腸内細菌の構成が変わり、体重や中性脂肪の低下などが見られた研究が紹介されています。

ただし、こうした仕組みは主に試験管内と動物の研究から導かれたものです。すべての副産物で人への効果が確かめられたわけではない、と論文は注意を促しています。原料のコーヒーの種類や焙煎の度合いによって成分が大きくばらつくことも、素材として品質をそろえるうえでの大きな課題に挙げられています。

安全性と規制の地域差

安全性については、カビ毒の一種であるオクラトキシンAや、加熱でできるアクリルアミドが混入する可能性があります。それでも濃度は多くの場合、EUの規制値の範囲内にとどまっていると報告されています。一方で、残留カフェインや成分のばらつきは管理すべき点とされています。

規制の状況は副産物ごと、地域ごとに大きく異なります。EUでは、コーヒーハスク・パルプの浸出液が、2022年のEFSAの評価で提案された使用条件のもとで安全と判断されました。その結果、「新規食品」として認められています。これに対し、シルバースキンは個別に判断される段階にあり、コーヒーかすはそのまま食品に使うことが認められていません。米国では、コーヒーの実に由来する素材が「一般に安全と認められる(GRAS)」扱いを受けています。また、EUではプレバイオティクス効果や腸内細菌に関する健康強調表示は、原料にかかわらず一つも認められていません。

この総説が示すこと

著者らは、コーヒーの副産物が、腸の健康を意識した食品を持続可能な形でつくるための素材になりうると結論づけています。同時に、人を対象とした標準化された介入研究が不足しており、実験室の知見と実際の健康効果の間には隔たりがあることも示しました。この隔たりを埋めるため、論文では無作為化比較試験の設計例を示しています。廃棄物とされてきた資源の可能性と、それを食品として役立てるために残る課題の両方を、一つの見取り図として整理した点に、この総説の意味があります。

原著論文の著者・所属:Francesco Leonforte(Department of Integrated Hygiene, Organizational, and Service Activities (Structural Department), Health Management, University Hospital Polyclinic “G. Rodolico–San Marco”, 95130 Catania, Italy)、Agnese Santanatoglia(Chemistry Interdisciplinary Project (ChIP), School of Pharmacy, University of Camerino, Via Madonna delle Carceri 9/B, 62032 Camerino, Italy)、Vito Nicosia(Department of Medical, Surgical Sciences and Advanced Technologies “G.F. Ingrassia”, University of Catania, 95123 Catania, Italy)、Giovanni Caprioli(Chemistry Interdisciplinary Project (ChIP), School of Pharmacy, University of Camerino, Via Madonna delle Carceri 9/B, 62032 Camerino, Italy)、Gianni Sagratini(Chemistry Interdisciplinary Project (ChIP), School of Pharmacy, University of Camerino, Via Madonna delle Carceri 9/B, 62032 Camerino, Italy)、Antonio Mistretta(Department of Medical, Surgical Sciences and Advanced Technologies “G.F. Ingrassia”, University of Catania, 95123 Catania, Italy)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Francesco Leonforte, Agnese Santanatoglia, Vito Nicosia, et al. The Role of Coffee By-Products in Preventive Gut-Health Strategies: A Narrative Review of Bioactive Composition, Safety and Regulatory Pathways. Beverages 2026-10-01. DOI: 10.3390/beverages12100124. 原著ライセンス:CC BY.