著者の所属・活動拠点の国は、スウェーデンです。
掲載誌:Journal of Texture Studies
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的:とろみの性質の違いに注目する
飲み込みに困難がある状態は「嚥下障害」と呼ばれます。論文によると、65歳以上の人の10〜30%が影響を受けており、加齢に伴うものは治すことが難しいため、食べ物の形態を調整したり、飲み物にとろみを付けたりして対応します。とろみによって液体がゆっくり流れると、衰えたのどの働きでも安全に飲み込むための時間を確保できます。
このとき重要とされるのが、口の中でひとまとまりになった飲み物や食べ物(食塊)がばらばらの滴に分かれず、まとまったまま流れることです。食塊が崩れると、液体が気管へ入り込む「誤嚥」が起こりやすくなると考えられています。ただし、この「まとまりやすさ」は直感的には理解しやすいものの、物理的にはまだはっきり定義されていないと著者らは述べています。
とろみ剤が液体に与える性質はひとつではありません。単に粘り気が増すだけの性質、ゴムのように伸びて元に戻ろうとする「弾性」、かき混ぜたり速く流れたりすると粘り気が下がる「ずり流動化(シェアシニング)」などがあります。研究チームは、とろみのこうした性質のうち、食塊のまとまりと誤嚥の防止にとって何が最も重要なのかを明らかにすることを目的としました。
性質の異なる3種類のとろみ液と、のどの模型による実験
研究チームは食品用の材料を使い、性質を分けた3種類のモデル液をつくりました。でんぷん由来の糖質であるマルトデキストリンだけで粘り気を出した、流れる速さに関係なく粘り気がほぼ一定の液(ニュートン流体)、マルトデキストリンにごく少量のキサンタンガムを加えて粘り気をほぼ保ちつつ弾性を持たせた液(ボーガー流体)、そしてキサンタンガムだけでとろみを付けた、弾性とずり流動化の両方を持つ液です。液体はいずれも薄めた無糖のレモネードに溶かしています。
3種類の液は、飲み込みでよく基準にされる流れの条件で同じ粘り気になるよう調整され、国際的なとろみの段階基準であるIDDSIでも、いずれも同じ「レベル2」に当たることが確認されました。つまり、一般的なとろみの目安では同じ扱いになる液体どうしを、性質の違いに絞って比べられるように設計されています。
飲み込みの実験には「ゴーテンバーグ・スロート」と呼ばれる、人ののどを機械で再現した装置が使われました。舌が食塊を押し出す動きを注射器のようなポンプで再現し、気管や鼻への入り口、喉頭蓋(飲み込むときに気管にふたをする部分)、食道の入り口に当たる部品を動かします。一口の量はごくごくと飲むときに相当する30ミリリットル、押し出す速さは秒速0.3メートルとしました。
健康な飲み込みでは喉頭蓋がすぐに閉じ、気管がふさがるように設定しました。一方、障害のある飲み込みを再現するときは、喉頭蓋が閉じるのを1秒遅らせ、気管も開いたままにしました。食塊の流れはカメラで撮影するとともに、超音波で流れの速さの分布を測定して詳しく調べています。
主な結果:同じ粘り気でも誤嚥の起こりやすさが異なった
障害のある飲み込みの条件では、水は流れが乱れて滴に分かれ、気管の側へ入り込みました。マルトデキストリンで粘り気を水の100倍以上に高めたニュートン流体は、水よりはまとまって流れ、滴に分かれることはありませんでしたが、それでも気管への流れ込みが見られました。粘り気を増すだけでは誤嚥を防ぐのに十分ではなかったことになります。
これに対し、同じ粘り気を持ちながら弾性を加えたボーガー流体では、気管への流れ込みは見られませんでした。超音波による測定では、ボーガー流体のまとまりの改善はわずかでしたが、それでも気管への流れ込みを避けるのに十分だったと著者らは報告しています。キサンタンガムだけでとろみを付けた液も気管への流れ込みを防ぎ、食塊のまとまりはさらに良好でした。著者らは、この液がゆっくり流れる部分で粘り気が高くなる性質を持つことが、その理由として考えられるとしています。
研究チームはさらに、流れの性質を表す複数の指標を組み合わせ、粘り気や弾性による力と、表面張力や流れの勢いによる力の釣り合いから「食塊のまとまり数」と名付けた値を提案しました。この値は弾性のある2種類の液で高く、ニュートン流体や水では低くなり、観察された気管への流れ込みの違いとよく対応していました。ただし著者ら自身、これはまだ予備的な仮説であり、より多くの液体を使った検証が必要だと述べています。
研究が示すこと
著者らは、とろみはさまざまな方法で付けられるものの、どのような仕組みでとろみを付けるかによって誤嚥を防ぐ効果が変わると結論づけています。栄養の面では、マルトデキストリンでとろみを付ければ炭水化物としてエネルギーを多く加えられるため魅力的に見えますが、この方法では粘り気が一定のニュートン流体になり、弾性やずり流動化によるとろみに比べて誤嚥を避ける効果が低いことが示されました。
この研究はのどの機械模型と限られた種類のモデル液を使ったもので、唾液で薄まる影響は加えておらず、著者らもデータをさらに広げる必要を認めています。それでも、一般的な基準で同じ「とろみの段階」に分類される飲み物でも、液体の性質によって飲み込みの安全性が異なりうることを示した点に、この研究の意味があるといえます。
原著論文の著者・所属:Mats Stading(Chalmers University of Technology Gothenburg Sweden; RISE Research Institutes of Sweden Gothenburg Sweden)、Johanna Eckardt(RISE Research Institutes of Sweden Gothenburg Sweden)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Mats Stading, Johanna Eckardt. Effect of Thickener Rheology on Bolus Cohesivity in Dysphagia Management. Journal of Texture Studies 2026-08-01. DOI: 10.1111/jtxs.70107. 原著ライセンス:CC BY.