掲載誌:Zenodo (CERN European Organization for Nuclear Research)
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
捨てられがちなメロン類の種を「パニール」に
パニールは、牛乳を酸などで固めて作るインドの伝統的なフレッシュチーズです。たんぱく質が多く、菜食の人にとって重要なたんぱく源とされています。著者らは、インドなどで低栄養や微量栄養素の不足が続いていること、乳製品の価格上昇によって低所得層がパニールを手に入れにくくなっていること、乳糖不耐症の人やビーガン食を選ぶ人が増えていることを背景に挙げています。そのうえで、手頃で環境に配慮した植物性のたんぱく源が必要だと述べています。
研究チームが着目したのは、スイカやマスクメロンなどウリ科の果実の種です。果実の加工では副産物として捨てられることが多いものの、著者らによれば、こうした種はたんぱく質や脂質、食物繊維、ミネラルを含む栄養豊富な素材です。大豆、アーモンド、落花生を使った代替パニールはこれまでにも研究されてきましたが、アレルギーの起こりやすさや風味の強さ、製造コストといった課題が指摘されてきました。そこで研究チームは、スイカの種とマスクメロンの種からそれぞれパニールに似た食品を作り、その栄養成分や性質を調べました。
種から「ミルク」を作って固める
製法では、まず種を洗浄・乾燥して殻を除き、軽く焙煎しました。これを水とともにすりつぶし、綿布でこして種のミルクを抽出しました。水分量を調整して濃さをそろえたあと、70〜80℃に加熱しながらかき混ぜ、酢やレモン汁などの食品用凝固剤で固めました。生じた凝固物を布で漉して水分を絞り、ブロック状に成形してから4℃で冷蔵し、均一な角切りにして分析に用いました。
評価は大きく四つの観点で行われました。一つ目は水分、たんぱく質、脂質、炭水化物、灰分、粗繊維、エネルギーなどの基本的な成分組成とミネラル量です。二つ目は抗菌活性の試験です。寒天培地に食中毒の原因となる細菌を塗り、パニールの抽出液を入れた穴の周りで菌の増殖が抑えられた範囲(阻止円)の直径を測りました。三つ目は官能評価で、教職員と学生から選ばれた訓練を受けていない10人が、見た目、色、香り、食感、味、総合的な好ましさを9段階(9が「非常に好き」、1が「非常に嫌い」)で採点しました。四つ目として、冷蔵保存中の見た目、食感、においの変化も観察しました。
種類ごとに異なる栄養の特徴と、高い官能評価
論文の報告では、マスクメロンの種のパニールはたんぱく質が28.22%で、スイカの種のパニール(22.22%)より多くなりました。灰分(ミネラル分の目安)、リン(100gあたり380.4mg)、カリウム(同305.2mg)も、マスクメロンの種のパニールのほうが高い値でした。一方、スイカの種のパニールは脂質(32.80%)と粗繊維(58.4%)がやや多く、マグネシウム(100gあたり221.6mg)、亜鉛(同5.1mg)、カルシウム(同52.4mg)もわずかに上回りました。
抗菌試験では、どちらのパニールの抽出液も、セレウス菌、黄色ブドウ球菌、大腸菌、サルモネラ菌の4種すべてに対して増殖を抑える範囲を示しました。最も大きな阻止円は、マスクメロンの種のパニールでは黄色ブドウ球菌に対する16.5mm、スイカの種のパニールではセレウス菌に対する15.8mmでした。大腸菌とサルモネラ菌に対する抑制は、どちらのパニールでも比較的小さかったと報告されています。なお、これは実験室の培地上での試験結果であり、食べたときの効果を調べたものではありません。
官能評価では、ほとんどの項目で平均点が8点を超えました。総合的な好ましさはマスクメロンの種のパニールが8.5、スイカの種のパニールが8.4で、味はどちらも8.5でした。見た目と食感はスイカの種のパニール、色と香りはマスクメロンの種のパニールのほうがやや高い評価でした。
冷蔵保存の観察は0日目、5日目、10日目に行われました。どちらのパニールも10日目まで見た目に変化はなく、食感も柔らかいままでした。においは5日目までは異臭がありませんでしたが、10日目にはやや好ましくないにおいと酸敗臭が確認され、著者らはこの時点で劣化が始まったと見ています。
副産物を栄養のある植物性食品に生かす可能性
研究チームは、スイカとマスクメロンのどちらの種からも、栄養面と食味の両方で十分な特徴を持つ植物性パニールを作れたと結論づけています。たんぱく質を重視するならマスクメロン、脂質や一部のミネラルではスイカというように、種の種類によって成分の傾向が異なることも示されました。普段は捨てられがちな果実の種を、乳製品に代わる植物性食品の素材として生かせる可能性を示した研究といえます。
原著論文の著者・所属:Nithesh J. D., Navya Raj M. P.*, Thanushree K. R., Spoorthi Nagesh
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Nithesh J. D., Navya Raj M. P.*, Thanushree K. R., Spoorthi Nagesh. Formulation And Characterization Of A Plant-Based Paneer Analogue Using Underutilized Melon Seeds. Zenodo (CERN European Organization for Nuclear Research) 2026-07-30. DOI: 10.5281/zenodo.21702346. 原著ライセンス:CC BY.