この研究は、タイの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Food Science & Nutrition

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

クリームチーズは、なめらかな口当たりと穏やかな酸味をもつ、熟成させない乳製品です。パンに塗るほか、ソースや焼き菓子の材料としても広く使われています。しかし、著者らによれば、乳糖不耐症は世界の成人の65%以上にみられ、東アジアの集団では90%に達すると報告されています。クリームチーズには6〜8%の乳糖が含まれるため、少量でも消化器症状の原因になりうると論文は述べています。牛乳タンパク質へのアレルギーも、感受性のある人にとっては臨床的に重要です。

こうした背景から植物性の代替品が求められていますが、現在よく使われる大豆・ナッツ類・ピーナッツは、いずれも代表的な食物アレルゲンでもあります。そこで研究チームが着目したのが、スイカ(Citrullus lanatus)の種です。論文によれば、スイカの種は果肉を切り分けた重量の3〜4%を占め、毎年大量の農業廃棄物として発生しています。一方で栄養価は高く、タンパク質を22〜28%、不飽和脂肪酸を27〜44%含み、マグネシウムやカリウムなども多いと報告されています。この研究の目的は、スイカの種を原料とする植物性クリームチーズ(WCC)を開発し、その性質を市販の乳製クリームチーズおよび市販の植物性クリームチーズと比べることでした。

何を、どのように調べたか

研究チームはまずスイカの種を湯通ししてから水と一緒に砕き、布で搾って「スイカ種ミルク」を得ました。これを加熱して固める工程で、配合の設計を三段階に分けています。添加物を一切加えず自然に凝固させた試作品(P1)、七つの配合要素をふるい分けるための試験配合(P2)、そして統計的手法で条件を最適化した配合(P3)です。最終的な最適配合では、スイカ種ミルク74%、食塩3%、マルトデキストリン9%が主要な要素として選ばれました。マルトデキストリンはでんぷんを分解してつくる粉末状の糖質で、食品のつなぎや質感の調整に使われます。

これら三つの試作品に加えて、市販の乳製クリームチーズ(DC)と市販の植物性クリームチーズ(VC)を比較対象とし、複数の方法で分析しました。走査型電子顕微鏡(SEM)で内部の微細な構造を観察し、香りの成分は「電子鼻」と呼ばれる装置で、味の成分は「電子舌」と呼ばれる装置で測定しています。電子舌は、塩味や酸味のもとになるイオンに反応するセンサーで味の傾向を数値化する装置です。さらに高速液体クロマトグラフィーで17種類のアミノ酸を定量し、訓練を受けたパネルによる官能評価(実際に人が食べて特徴の強さを評価する方法)も行いました。官能評価では、大学の倫理委員会の承認を得たうえで、選抜されたパネリスト12名が8週間にわたる訓練を受け、12項目の評価用語を合意によって定めています。

主な報告結果

顕微鏡による観察では、添加物を使わないP1の表面は比較的なめらかで均一でしたが、P2、P3と進むにつれて表面が粗く、より入り組んだ構造になったと報告されています。論文は、食塩がタンパク質同士の結びつきを助け、マルトデキストリンが隙間を埋めることで、P3では密で多孔質な構造が形成されたと説明しています。市販のDCとVCはいずれも粗く多孔質な構造を示し、P3の微細構造はP1やP2よりもこれら市販品に近かったとされています。

香りの分析では、七つの化学グループにまたがる30種類の揮発性成分が検出されました。乳製のDCでは、乳酸菌がクエン酸を代謝して生じるアセトイン(5.52 μg/100 g)や2,3-ブタンジオール(3.48 μg/100 g)といったバターのような香りの成分、そしてチーズ様・脂肪様の香りに結びつくブタン酸(42.48 μg/100 g)が最も多く検出されました。一方、添加物のないP1ではエタノール(978.23 μg/100 g)とヘキサナール(8.52 μg/100 g)が最も高く、ヘキサナールは種に含まれる多価不飽和脂肪酸の酸化に関連すると述べられています。P2とP3ではエタノールがそれぞれ491.57、609.62 μg/100 gに下がり、アルデヒド類も減少しました。論文は、増粘多糖類やマルトデキストリンがゲルの網目をつくって成分を閉じ込め、また酸素の侵入を妨げたためと説明しており、検出量の低下が必ずしも生成量の低下を意味するわけではないと注意を促しています。市販のVCは全体として揮発性成分が最も少なく、これは発酵工程がないことや、原料段階での精製・脱臭処理によるものと考察されています。

アミノ酸の分析では、DCの含有量が最も高く、グルタミン酸(140.26 mg/100 g)とチロシン(611.96 mg/100 g)が主成分でした。スイカ種を使ったP1〜P3ではいずれもアルギニン(42.73〜51.35 mg/100 g)が最も多く、これはスイカ種タンパク質の特徴と一致すると述べられています。ただしリシンやロイシンなどの必須アミノ酸はDCより少なく、うま味や香りのもとになるグルタミン酸・チロシンも少なめでした。電子舌による測定では、DCで甘味と苦味が最も高く塩味が最も低い、VCでは酸味とうま味が高く苦味が低いという違いが見られ、P3は試料の中で塩味が最も高く、酸味はVCに次ぐ二番目でした。

官能評価の結果を主成分分析で図示したところ、第1・第2主成分で全体の変動の79%と21%が説明されました。添加物のないP1は「スイカ種の香り」「ナッツ様の香り」「穀物様の香り」と強く結びついていましたが、P2ではこれらが弱まり、最適化したP3ではさらに減って、「ミルクの香り」「ミルクの風味」に近い位置に移りました。DCとVCは図の同じ領域に位置し、ミルクの香り・風味、黄色み、酸味と関連づけられていました。

この研究が示すこと

研究チームの報告は、廃棄されがちなスイカの種を原料としたクリームチーズでも、増粘多糖類・食塩・マルトデキストリンの配合を整えることで、微細構造と官能特性の両面で市販のクリームチーズに近づけられることを示しています。同時に、香り成分やアミノ酸の組成には乳製品との明確な違いが残っており、それは発酵の有無やタンパク質そのものの組成に由来すると論文は説明しています。原料が変われば味や香りの成り立ちも変わる、という当たり前に見える事実を、複数の分析手法で具体的に描き出した点に、この比較研究の意味があります。

著者:Hiran Janpeng(Division of Food Science and Technology, Faculty of Agro‐Industry Chiang Mai University Chiang Mai Thailand)、Natthanicha Banpacha(Division of Food Science and Technology, Faculty of Agro‐Industry Chiang Mai University Chiang Mai Thailand)、Gerry Renaldi(Division of Food Science and Technology, Faculty of Agro‐Industry Chiang Mai University Chiang Mai Thailand)、Rajnibhas Sukeaw Samakradhamrongthai(Division of Product Development Technology, Faculty of Agro‐Industry Chiang Mai University Chiang Mai Thailand)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Hiran Janpeng, Natthanicha Banpacha, Gerry Renaldi, et al. Comparative Study on Morphology, Flavor, and Taste Profile, and Descriptive Sensory Analysis of Conventional Cream Cheese and Non‐Dairy Cream Cheese. Food Science & Nutrition 2026-09-01. DOI: 10.1002/fsn3.72301. 原著ライセンス:CC BY.