著者の所属・活動拠点の国は、ブラジルです。

掲載誌:Current Nutrition Reports

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

捨てられがちな部分と血管の健康をつなぐ問い

果物や野菜は傷みやすく、加工の過程でも皮や搾りかすなどの副産物が大量に出ます。こうした未利用部分から価値のある成分を取り出して活用する取り組みは、資源を循環させる考え方の柱のひとつになっています。この総説で著者らは、ビートの皮や搾りかす、スイカの皮という二つの副産物に注目し、心臓や血管の健康に関わる食品素材として使える可能性を、既存の研究をもとに比べました。

鍵となるのは一酸化窒素(NO)です。NOは血管の内側を覆う内皮細胞が血管を広げるために使う物質で、加齢や高血圧、肥満、2型糖尿病などではその働きが弱まることが知られています。論文によると、食事からNOを支える道筋は大きく二つあります。一つは野菜に含まれる硝酸塩が、口の中の細菌の働きで亜硝酸塩に変わり、さらにNOになる経路です。もう一つはアミノ酸のL-シトルリンが腎臓でL-アルギニンに変わり、内皮にあるNO合成酵素(eNOS)の材料になる経路です。ビートの副産物は前者の、スイカの皮は後者の候補として取り上げられています。

著者らは主要な文献データベースで関連研究を検索し、副産物そのものを調べた研究を優先して検討しました。通常のビート製品や硝酸塩、L-シトルリンに関する研究は、仕組みを解釈する補助として用いています。

ビートの皮と搾りかす:硝酸塩の量がまだ分かっていない

ビートジュースの製造では、加工したビートの重さの約15〜30%が搾りかすになると報告されています。ビートの皮や搾りかすについては、赤い色素であるベタレインやポリフェノール、食物繊維、試験管内での抗酸化力、菓子やパンなどへの配合のしやすさが主に研究されてきました。

一方で、NO経路にとって最も重要な硝酸塩の量は、これらの副産物ではほとんど測られていないと著者らは指摘します。ビートの根全体の硝酸塩量は品種、栽培地、年、収穫時期、保存によって変わることが示されていますが、それらの値を皮や搾りかすにそのまま当てはめることはできません。そのため、副産物から作った素材が1食あたりどれだけの硝酸塩を供給できるかは計算できず、血中の硝酸塩・亜硝酸塩や血管の働きへの影響も確かめられていない、というのが論文の整理です。抗酸化力が高いことも、人が食べたときにNOが増える証拠とは見なせないとしています。

スイカの皮:L-シトルリンの吸収と血管の反応を調べた小規模な研究がある

スイカの皮は果実全体の重さの約40%を占め、果肉よりもL-シトルリンを多く含みます。ただし含有量は一定ではなく、5品種の皮で生の重さ1グラムあたり約2.0〜7.2ミリグラムの幅があったと報告されています。このため著者らは、素材ごとに実際の含有量を測る必要があるとしています。

人を対象とした研究は限られていますが、著者らのグループによる研究では、L-シトルリン4グラムを含むよう微粒子状に加工したスイカの皮のジュースを健康な成人が1回飲むと、血中のL-シトルリンとL-アルギニンが増えました。プラセボと比べた別の研究では、腕の動脈が血流に応じて広がる度合い(FMD、内皮の働きの指標)が飲んで60分後に改善しましたが、細い血管の反応には有意な変化は見られませんでした。一方、過体重・肥満の成人6人が生のスイカの皮を含む食事(L-シトルリン約0.4グラム)をとった研究では、血中のアミノ酸は増えたもののFMDは改善しませんでした。著者らは量の違いが影響した可能性を挙げつつ、参加者や製品、手順も異なるため量だけが原因とは言えず、量と効果の関係を直接調べた研究もないと述べています。

二つの副産物で異なる証拠の段階

論文の結論は、二つの副産物は異なるNO経路と結びつくものの、裏づけの種類と強さに大きな差があるというものです。スイカの皮については、L-シトルリンが体内に吸収されることと、1回の摂取で太い動脈の内皮機能が改善しうることを示す予備的な人での証拠があります。しかし参加者が少なく、1回だけの摂取で、主に健康な成人を対象とした研究にとどまります。ビートの皮と搾りかすについては、硝酸塩を通じてNO経路に影響できるかはまだ示されていません。

著者らは、成分の含有量を実際に測り、摂取した量を報告し、きちんと管理された人での研究を重ねることが、これらの副産物が心血管の健康にどこまで関わるかを見極めるのに必要だとしています。捨てられがちな部分を健康に役立つ素材として生かす発想は有望である一方、現時点で言えることと、まだ分かっていないことを区別して整理した点に、この総説の意味があります。

原著論文の著者・所属:Thiago Silveira Alvares(Food and Nutrition Institute, Multidisciplinary Center UFRJ-Macaé, Federal University of Rio de Janeiro, Macaé, Rio de Janeiro, Brazil)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Thiago Silveira Alvares. Valorization of Beetroot and Watermelon by-Products as Functional Ingredients Targeting Nitric Oxide Pathways: Implications for Cardiovascular Health. Current Nutrition Reports 2026-10-17. DOI: 10.1007/s13668-026-00807-8. 原著ライセンス:CC BY.