いわしは「骨まで食べられる魚」というイメージが強い魚です。ですが実際に骨ごと力を発揮するのは、生のいわしではなく干したいわしです。まいわし 生は水分が多いのですが、まいわし 丸干しは塩水に浸してから乾燥させた食品で、干す過程で水分が抜けます。水分が減ったぶん、同じ100gあたりで見たときの成分が濃くなり、カルシウムは大きく増えます。これが「丸干しでカルシウムが跳ね上がる」いちばんの理由です。乾燥によってカルシウムを多くとれるようになるのは、切り干し大根など干した食品に共通して見られる傾向とされます。
生・水煮・丸干し、加工段階で変わる骨の栄養
夏の郷土鍋には、いわしを丸干しにして煮込んだり焼いたりする料理が各地に伝わります。まいわしの加工段階を追うと、水分と栄養の関係が見えてきます。まいわし 水煮のカルシウムは82mg、そして丸干しはカルシウム440mgです。
骨の栄養はカルシウムだけではありません。ビタミンDも生の32µgから丸干しでは50µgへと伸びます。ビタミンDはカルシウムの吸収を促し、骨の形成に関わるとされる栄養素で、カルシウムと並べて見ると丸干しの「骨への貢献」がより具体的に見えてきます。ただしビタミンDは水煮では13µgといったん下がっており、加工が進むほど一本調子に増えるわけではありません。
ビタミンB12は生16µg、水煮18µg、丸干し29µgと加工が進むごとに増えていきます。ビタミンB12はアミノ酸や核酸の代謝に関わり、赤血球の形成を助けるとされる栄養素です。ナイアシンも生7.2mg、水煮6.3mgといったん下がったのち、丸干しは16mgと際立ちます。ナイアシンは酸化還元酵素の補酵素として、皮膚や粘膜の健康維持を助けるとされます。ナイアシンの推奨量(成人30〜49歳)は男性16mgNE・女性12mgNEです。
ここで、流れを裏切る数字があります。n-3系脂肪酸であるドコサヘキサエン酸とイコサペンタエン酸は、実は生や水煮のほうが多いのです。ドコサヘキサエン酸は水煮910mg・生870mgに対し丸干しは510mg、イコサペンタエン酸も生780mg・水煮700mgに対し丸干しは540mgと、むしろ干すことで数値が下がります。干せば干すほど何でも増えるわけではなく、骨に関わる成分の一部が丸干しで高い値を示す一方、脂の成分は生や水煮のほうが高いというのが、今回の3種の実態でした。脂の摂取を重視するなら、丸干しよりも生や水煮を選ぶという使い分けができます。
丸干しが背負う代償、食塩相当量という数字
ただし丸干しには代償もあります。食塩相当量は生の0.2gに対し丸干しは3.8g(いずれも100gあたり)です。食塩相当量の目標量(成人30〜49歳)は男性7.5g以下・女性6.5g以下ですから、丸干しを少量ずつ食べる程度なら大きな負担にはなりにくいものの、毎食のように食べる食品ではありません。丸干しは「骨に関わる栄養を多くとれるが、塩気も一緒に背負う」食品だと考えると扱いやすくなります。カルシウムは骨や歯の主要な構成要素で、細胞の働きにも欠かせない栄養素です。カルシウムの推奨量(成人30〜49歳)は男性750mg・女性650mg。丸干しのリンは100gあたり570mgで、リンはカルシウムとともに骨をつくり、ATPなどエネルギー代謝に関わるとされます。リンの目安量(成人30〜49歳)は男性1000mg・女性800mgです。
薬味とこんにゃくで、丸干しを鍋の主役に
丸干しの塩気を生かしつつ重く感じさせないコツは、さっぱりとした薬味を添えることです。みょうが 花穂 生は水分95.6gで食塩相当量0g、葉しょうが 根茎 生も食塩相当量0gと、どちらも丸干しの塩気を口の中で流してくれる存在です。葉しょうがはマンガンを100gあたり4.73mg含み、マンガンはいくつかの酵素の構成成分として働くとされます。マンガンの目安量(成人30〜49歳)は男性3.5mg・女性3mgです。薬味を効かせれば、丸干しの量は少なめでも満足感のある一皿に仕上がります。
鍋の具材にはこんにゃく 板こんにゃく 精粉こんにゃくも相性がよい食材です。エネルギーは100gあたり5kcalとごく低く、水分97.3gで食べ応えを足しながらも全体のエネルギーを抑えられます。丸干しの濃い味とこんにゃくの淡白さを合わせることで、鍋全体のバランスが整います。
まとめ
まいわしは生のままでは水分が多いのですが、塩水に浸して乾燥させ丸干しにすると水分が抜けて成分が濃縮され、100gあたりでカルシウム440mg、ビタミンD50µg、ビタミンB12 29µgという骨に関わる栄養の数値が上がります。これが丸干しでカルシウムが跳ね上がる理由です。ただし食塩相当量3.8gという代償も同時に背負うため、量と頻度を意識し、みょうがや葉しょうがのようなさっぱりした薬味と合わせるのが賢い食べ方です。
【摂取量の目安】まいわし 丸干しのビタミンDは100gあたり50μgで、これはビタミンDの耐容上限量100μg(成人)の約50%にあたります。多めの一食で上限に近づくこともあるため、量には気をつけたい食品です。 ビタミンA・Dは脂溶性で体に蓄積しやすいため、多量・連日の摂取やサプリメント併用、妊娠中は過剰摂取に注意が必要とされます(通常の食事で時折とる分には問題になりにくいとされます)。
※本記事は特定の食品の効果・効能を示すものではありません。
※本記事は日本食品標準成分表(八訂)のデータ等をもとに作成しました。
栄養素のはたらき・摂取基準の記述は、次の公的資料に基づきます:厚生労働省 食事摂取基準