「青魚はn-3系脂肪酸が豊富」と語られるとき、たいてい「EPAとDHA」がセットで名前を挙げられる。だが実際に数値を並べてみると、この二つは対等な相棒ではない。まいわし 生もくろまぐろ 天然 脂身 生もまさば 生もまあじ 皮つき 焼きも、可食部100gあたりの個別脂肪酸の内訳を見ると、四魚種そろって同じ顔ぶれが一位に立つ。ドコサヘキサエン酸である。イコサペンタエン酸は、どの魚でも二番手止まりだ。
四魚種、すべてでDHAが一位
まいわしはDHAが870mgに対してEPAは780mg。くろまぐろはDHA3200mgに対してEPA1400mg、まさばはDHA970mgに対してEPA690mg、まあじ(皮つき焼き)はDHA820mgに対してEPA430mg。魚の種類も脂の量もまったく違うのに、DHAが上・EPAが下という順番だけは崩れない。n-3系脂肪酸は、EPAとDHAの「二本柱」というより、DHAを主役にEPAが脇を固める構図で成り立っていると言える。
それぞれの魚が持つ、もう一つの強み
まいわし 生はビタミンDが32µgと際立つ。ビタミンDはカルシウムの吸収を促し、骨の形成に関わるとされる栄養素で、ビタミンDの目安量(成人30〜49歳)は男性9µg・女性9µg。さらにビタミンB12も16µgあり、これはアミノ酸や核酸の代謝に関わり、赤血球の形成を助けるとされる。ビタミンB12の目安量(成人30〜49歳)は男性4µg・女性4µg。丸ごと1尾を食べれば、これらの栄養素も脂肪酸とあわせて摂りやすい魚だ。
ここで「では脂身の少ない白身魚に移ればEPA・DHAの差は縮まるのでは」と思うところだが、話はそう単純ではない。くろまぐろ 天然 脂身 生はDHAが3200mgと四魚種で最も大きい数値を示し、EPAとの差はむしろ広がる。くろまぐろの脂身はレチノール270µg、ビタミンB6は0.82mgも目立ち、レチノールは視覚の維持や成長・生殖、皮膚・粘膜の健康に関わるとされる(ビタミンAとして)。ビタミンAの推奨量(成人30〜49歳)は男性900µg・女性700µg。ビタミンB6はアミノ酸の代謝に関わり、たんぱく質からのエネルギー産生と皮膚や粘膜の健康維持を助けるとされる。ビタミンB6の推奨量(成人30〜49歳)は男性1.5mg・女性1.2mg。脂ののった部位なので、刺し身なら少量を重ねる食べ方が向く。
まさば 生もDHA970mg・EPA690mgと同じ並びを保ちつつ、セレンが70µgと際立つ。セレンは抗酸化に関わる酵素の成分とされる。セレンの推奨量(成人30〜49歳)は男性35µg・女性25µg。1尾がかなり大きい魚なので、切り身として一部を食べる形が現実的だ。まあじ 皮つき 焼きはDHA820mg・EPA430mgで、他の三魚種に比べるとEPAとの開きがやや小さいものの、順位は変わらない。ビタミンDも12µgとしっかり含まれている。
脂の質という軸で魚を見る
「n-3系を摂るために魚を選ぶ」という発想自体は間違っていないが、EPAだけを基準に魚を選ぶと、実は各魚の脂の質を支えているもう一つの成分を見落とすことになる。四魚種を貫く共通項は、n-3系の量の多さそのものより「DHAが主役でEPAが脇を固める」という一貫した並び方にある。魚によって脂の総量や随伴する栄養素は変わっても、この脂肪酸の順位構造だけは変わらない。
毎日の食卓での取り入れ方
まいわしなら丸ごと1尾を塩焼きや煮付けで、まぐろなら刺し身を少しずつ重ねる形で、さばなら切り身として、あじなら塩焼きにして、それぞれの魚をそのままの形で食べるとDHA・EPAの両方が一度に摂れる。ビタミンDは脂溶性のため油脂と一緒にとると吸収率が高まるとされ、油を使った調理法とも相性がよい。魚の種類を変えるだけで、DHAを軸にしたn-3系の摂取に加えて、ビタミンDやビタミンB12、セレンといった随伴成分も入れ替わる点が、青魚を数種類ローテーションする意味になる。
次に成分表が改訂されたとき、この「DHAが常に一位」という並びがどの魚まで貫かれるのか、今度は青魚以外の魚でも確かめてみたくなる。
※本記事は特定の食品の効果・効能を示すものではありません。
※本記事は日本食品標準成分表(八訂)のデータ等をもとに作成しました。
栄養素のはたらき・摂取基準の記述は、次の公的資料に基づきます:厚生労働省 食事摂取基準