著者の所属・活動拠点の国は、イギリス、サウジアラビアです。

掲載誌:European Journal of Applied Physiology

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

運動中に筋肉がエネルギーをつくる仕組みは、細胞の中にある「ミトコンドリア」と呼ばれる小さな器官が担っています。そのミトコンドリアの働きに関わる成分として、近年注目を集めているのがコエンザイムQ10(CoQ10)です。体内で合成される脂溶性の成分で、エネルギー産生の代謝に関与するとされています。

2026年6月、ヨーロピアン・ジャーナル・オブ・アプライド・フィジオロジーに掲載された研究が、このCoQ10の「吸収されやすい形」に着目した興味深い報告を発表しました。

研究でわかってきたこと

CoQ10には大きく分けて2つの形があります。酸化型の「ユビキノン」と、還元型の「ユビキノール(UQH₂)」です。これまで多くの研究はユビキノンを対象としており、ミトコンドリアの呼吸機能や持久力への影響はほとんど見られなかったと報告されてきました。一方、ユビキノールはユビキノンに比べて体に吸収されやすいとされていますが、その効果については十分に明らかになっていませんでした。

今回の研究では、健康な成人男性54名を無作為に2グループに分け、一方には1日300mgのユビキノールを、もう一方には偽薬(プラセボ)を6週間摂取してもらい、二重盲検法(参加者にも担当者にもどちらを与えたか知らせない方式)で比較しました。

その結果、ユビキノールを摂取したグループでは、血液中のCoQ10濃度が上昇したことに加え、骨格筋のミトコンドリアにおける「酸化的リン酸化の共役効率」と呼ばれる指標が改善された可能性が示唆されました。これはざっくり言うと、ミトコンドリアが酸素を使ってエネルギーをつくる際の「変換効率」が上がった可能性を示す数値です。プラセボ群ではこの指標に変化がなかった一方、ユビキノール群では補充前の0.073±0.039から補充後に0.044±0.019へと低下(この指標は低いほど効率が高いことを意味します)しており、統計的に有意な差が報告されています。

ただし、注目すべき点もあります。高強度の自転車運動テストで測定した「限界までの持続時間(TLim)」や「酸素摂取量の変化」については、ユビキノール群とプラセボ群の間に差は見られませんでした。つまり、ミトコンドリアの効率を示す指標には変化が観察されたものの、それが実際の運動パフォーマンスの向上に直結するかどうかは、この研究では確認されていません。

研究者たちは、ミトコンドリア内のエネルギー輸送や熱産生に関わるたんぱく質(ANT1+2、UCP-3)の量も調べましたが、こちらは両グループ間で差がありませんでした。ユビキノールがミトコンドリア効率に関わるメカニズムの詳細は、今後さらなる研究で解明されていく段階にあります。

CoQ10を含む食品について

CoQ10は体内でも合成されますが、食事からも摂取できます。特に内臓肉や青魚などに含まれているとされています。今回の例示食品のうち、心臓(ハツ)や腎臓(じん臓)はCoQ10を豊富に含むとされる部位として知られています。ただし、ここで紹介する栄養データはあくまで日本食品標準成分表(八訂)に基づく各食品の主要成分であり、CoQ10の含有量はこの成分表には収載されていません。

にわとり心臓(ハツ)生は可食部100gあたりたんぱく質14.5gを含み、ビタミンB2(100gあたり1.1mg、女性30〜49歳の推奨量の92%相当)やパントテン酸(同4.41mg、目安量の88%相当)が多く含まれる食品です。パントテン酸はエネルギー代謝に関わるビタミンB群の一種で、日本人の食事摂取基準でも代謝への関与が示されています。

うし心臓(ハツ)生も可食部100gあたりたんぱく質16.5g、ビタミンB12(100gあたり12µg、女性30〜49歳の目安量4µg/日の300%相当)を含みます。ビタミンB12は赤血球の形成や神経機能の維持に関わる栄養素です。なお、これらの内臓肉はコレステロールを含むため、食べる量や頻度には注意が必要です。

青魚のまいわし生は、可食部100gあたりたんぱく質19.2g、n-3系多価不飽和脂肪酸(青魚などに多い脂の一種)を2.1g含みます。また、セレンを100gあたり48µg含み、これは女性30〜49歳の推奨量(25µg/日)の192%相当です。セレンには耐容上限量(過剰摂取に注意が必要な上限値)が設定されており、通常の食事の範囲では問題になることは少ないとされていますが、サプリメントとの組み合わせには注意が必要です。

日々の食事に取り入れるヒント

今回の研究はサプリメント(1日300mg)を使った介入試験であり、食事から同量を摂取することを意図したものではありません。食品からのCoQ10摂取量と今回の研究結果を直接結びつけることはできませんが、ミトコンドリアのエネルギー産生に関わる代謝を支える栄養素を、食事から幅広く摂ることは基本的な食生活の考え方として大切です。

焼き鳥のハツ(鶏心臓)は1串あたりおよそ30〜40g程度が目安です。食べやすい食材ですが、内臓肉全般は食べすぎに気をつけながら取り入れましょう。いわしは塩焼きや缶詰で手軽に使えます。また、糸引き納豆は1パック(約40〜50g程度が一般的な販売単位)で食物繊維(100gあたり9.5g)やたんぱく質(同16.5g)をとれる身近な食品です。数値はいずれも可食部100gあたりの値であり、実際の一食量で換算する際は量に応じて調整してください。

食事のバランスを基本に

ユビキノールとミトコンドリア機能の関係は、まだ研究の途上にあります。今回の報告はあくまで「健康な成人男性・6週間・300mg/日」という特定の条件のもとでの観察であり、どのような人にも同様の変化が見られるとは言えません。特定の成分やサプリメントに頼るのではなく、主食・主菜・副菜を組み合わせた食事を基本にしながら、エネルギー代謝を支える栄養素を食品からバランスよく摂ることが、日々の体づくりの土台になります。

「吸収のされ方の違いが、体の中でどんな変化をもたらすか」——そうした細かな問いが積み重なって、栄養科学は少しずつ前進しています。今後の研究で、より多くのことが明らかになるのが楽しみな分野です。

※本記事は日本食品標準成分表(八訂)および日本人の食事摂取基準(2025年版)のデータ等をもとに作成しました。出典(原著論文):Effect of six weeks ubiquinol supplementation on mitochondrial respiratory function and exercise capacity in healthy males(ヨーロピアン・ジャーナル・オブ・アプライド・フィジオロジー(2026-06-06))

栄養素のはたらきの記述は、次の公的資料に基づきます:厚生労働省・厚生労働省 e-ヘルスネット

著者:Jarred P. Acton(School of Sport, Exercise and Health Sciences, Loughborough University, Loughborough, UK)、Nehal S. Alsharif(Department of Clinical Nutrition, Faculty of Applied Medical Science, King Abdulaziz University, Jeddah, Saudi Arabia)、Jack W. Bond(School of Sport, Exercise and Health Sciences, Loughborough University, Loughborough, UK)、Stuart P. Cocksedge(Centre for Physical Activity, Sport and Exercise Sciences, Coventry University, Coventry, UK)、Abbie G. McLellan(School of Sport, Exercise and Health Sciences, Loughborough University, Loughborough, UK)、Donald L. Peden(David Greenfield Human Physiology Unit, School of Life Sciences, Nottingham NIHR Biomedical Research Centre, University of Nottingham, Nottingham, UK)、Mark P. Funnell(NIHR Applied Research Collaboration East Midlands, Diabetes Research Centre, University of Leicester, Leicester, UK)、Hannah F. Dugdale(School of Sport, Exercise and Health Sciences, Loughborough University, Loughborough, UK)、Lewis J. James(NIHR Leicester Biomedical Research Centre, University Hospitals of Leicester NHS Trust and the University of Leicester, Leicester, UK)、Richard A. Ferguson(School of Sport, Exercise and Health Sciences, Loughborough University, Loughborough, UK)、Tom Clifford(School of Sport, Exercise and Health Sciences, Loughborough University, Loughborough, UK)、Stephen J. Bailey(School of Sport, Exercise and Health Sciences, Loughborough University, Loughborough, UK. [email protected])