この研究は、ポーランドの研究機関の研究論文です。
掲載誌:Applied Sciences
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
アスパラガス、ブロッコリー、ホウレンソウ、ケールといった緑色の野菜には、ポリフェノールやミネラルなど、体内のはたらきに関わる成分が多く含まれています。ただしこうした成分の量や性質は、加熱などの調理工程によって変化します。
この研究で著者らが取り上げたのは「スーヴィード(sous vide)」と呼ばれる調理法です。食品を専用の袋に入れて空気を抜いて密封し、100℃より低い温度で加熱したあと、すぐに冷却する方法で、論文では耐熱性のある食品用袋の使用、真空密封、おおむね70〜90℃での加熱、加熱後の急速冷却という四つの柱で説明されています。もともとは肉などの動物性食品で使われてきましたが、近年は野菜など植物性の材料にも応用が広がってきたと述べられています。
研究チームが設定した目的は、現在のスーヴィード調理でよく使われる80℃・85℃・90℃という三つの温度のうちどれが適切かを見極め、さらにそれらを蒸し調理と比較することでした。比較の指標として、ミネラル含量、総ポリフェノール量、選んだ個々のポリフェノールの構成、そして抗酸化能(酸化を抑える力の測定値)を調べています。
何をどのように調べたか
材料は2025年にポーランドのスーパーマーケットチェーンで購入した4種類の野菜——ブロッコリー、アスパラガス、ホウレンソウ、ケール——です。それぞれ同一のロットから、成熟した新鮮なものを使っています。よく洗って乾かしたあと、同等の5つに分け、茎や葉の太い葉脈といった部位の割合が偏らないように配分したと説明されています。
5つのうち4つには、80℃・85℃・90℃のスーヴィードと蒸し調理をそれぞれ施し、残る1つは加熱せずにそのまま凍結乾燥して「生」の対照としました。加熱時間は事前の予備実験で決め、どの試料も同程度のやわらかさになるまで、1分ごとに官能評価(触った感触による9段階評価)で確認しながら続けています。表として示された処理時間では、たとえばブロッコリーは80℃のスーヴィードで37分、蒸し調理では10分とされており、低い温度で行うスーヴィードのほうが長い時間を要することがわかります。加熱後の試料はいずれも凍結乾燥して粉末にし、分析まで冷凍保存されました。
分析では、酸性にしたメタノールを使い超音波をあてて成分を抽出し、フォリン–チオカルト法で総ポリフェノール量を、HPLC-UV-VISで個々のポリフェノール(没食子酸、クロロゲン酸、カフェ酸、ロスマリン酸の4種の「フェノール酸」と、ルチン、ケルセチンなど6種の「フラボノイド」)を測定しています。ミネラルはICP-MSという機器で、ナトリウム、マグネシウム、リン、カリウム、カルシウム、マンガン、銅、亜鉛、鉄、モリブデン、セレンの11元素を定量しました。抗酸化能は、原理の異なる二つの方法(ABTS法とCUPRAC法)で測っており、いずれも結果はトロロックスという基準物質に換算して表されています。数値はすべて凍結乾燥した野菜100g(または1g)あたりで示されている点も、結果を読むうえで大事な前提です。
報告された主な結果
著者らの報告によれば、調べた緑色野菜の多くで、蒸し調理などの他の加熱法に比べ、スーヴィードのほうがポリフェノール類やミネラルの含量、そして抗酸化能の保持が最もよく、場合によっては測定値の増加もみられました。
総ポリフェノール量では、生の状態で最も多かったのはアスパラガス、最も少なかったのはブロッコリーでした。加熱後の変化は野菜と処理法によって異なり、ホウレンソウは85℃のスーヴィード後、ケールとブロッコリーは80℃のスーヴィード後、アスパラガスは90℃のスーヴィード後に、統計的に有意に高い値を示しています。一方でアスパラガスは、80℃・85℃のスーヴィードと蒸し調理では生より有意に低くなった唯一の野菜だったと述べられています。
個々の成分では、没食子酸とクロロゲン酸が比較的多く検出され、多くの場合、とくに85℃と90℃のスーヴィード後に生より高い値になりました。ロスマリン酸はケールだけで検出され、80℃のスーヴィードで最も多くなっています。ミネラルについては、多くの野菜で80℃または85℃のスーヴィード後に測定値が生より高く、90℃のスーヴィードと蒸し調理では低くなる傾向が報告されました。どの野菜でもカリウムが最も多く、ホウレンソウでは乾燥品100gあたり10g程度に達し、ナトリウムはその約100分の1の水準でした。
抗酸化能では、ABTS法でブロッコリーの85℃スーヴィードが最も高く(4806 µmol TEAC/g)、生のブロッコリー(2174 µmol TEAC/g)の2倍を超えました。ホウレンソウとアスパラガスは80℃スーヴィードで最も高い値でしたが、生より有意に高かったのはホウレンソウのみです。ケールでは90℃スーヴィードが最も高い結果でした。原理の異なるCUPRAC法では全体として低い値が得られ、ケールに限っては生の試料が最も高く、加熱のなかでは85℃スーヴィードが抗酸化能の維持に最も好ましいとされています。つまり、二つの測定法で必ずしも同じ順位にはならなかったことも、著者らは結果として記しています。
この結果が示していること
著者らは、加熱によって測定値が上がる背景として、熱で細胞壁がゆるみ、ヘミセルロースやペクチン、リグニンと結びついていたポリフェノールが遊離して溶媒に出やすくなること、またスーヴィードでは真空包装によって酸素が少なく、酸化を進める酵素のはたらきが抑えられることを挙げています。ミネラルについては、高温そのものが壊すわけではなく、組織構造の変化によって加熱媒体へ移る分と、乾物中の他の成分が失われて相対的に濃度が上がる分の両方が測定値に反映されると説明されています。逆に温度が高すぎると、matrixから放出される前に分解が進んで最終的な濃度が下がりうるとも述べられています。さらに、フォリン–チオカルト試薬はポリフェノール以外の還元性物質にも反応するため、加熱後の増加は一部が過大評価されている可能性にも触れています。
こうした報告からうかがえるのは、「加熱すれば成分は減る」という単純な図式では説明しきれない、ということです。同じスーヴィードでも温度によって結果が変わり、野菜の種類によって最適な条件も異なりました。この研究は、調理の温度と方法という条件設定が、緑色野菜に含まれる成分の測定値と抗酸化能に無視できない影響を与えることを、4種類の野菜と複数の測定法を通して具体的に示したものといえます。
著者:Grzegorz Kosewski(Chair and Department of Bromatology, Collegium Pharmaceuticum, Poznan University of Medical Sciences, 3 Rokietnicka St., 60-806 Poznań, Poland)、Justyna Chanaj-Kaczmarek(Department and Division of Practical Cosmetology and Skin Diseases Prophylaxis, Collegium Pharmaceuticum, Poznan University of Medical Sciences, 3 Rokietnicka St., 60-806 Poznań, Poland)、Krzysztof Dziedzic(Department of Food Technology of Plant Origin, Poznan University of Life Sciences, Wojska Polskiego 31, 60-624 Poznań, Poland)、Natalia Lisiak(Department of Clinical Chemistry and Molecular Diagnostics, Collegium Pharmaceuticum, Poznan University of Medical Sciences, 3 Rokietnicka St., 60-806 Poznań, Poland)、Zofia Wojciechowska(Department of Analytical Chemistry, Faculty of Chemistry, Adam Mickiewicz University, Uniwersytetu Poznańskiego 8, 61-614 Poznań, Poland)、Przemysław Niedzielski(Department of Analytical Chemistry, Faculty of Chemistry, Adam Mickiewicz University, Uniwersytetu Poznańskiego 8, 61-614 Poznań, Poland)、Juliusz Przysławski(Chair and Department of Bromatology, Collegium Pharmaceuticum, Poznan University of Medical Sciences, 3 Rokietnicka St., 60-806 Poznań, Poland)、Sławomira Drzymała-Czyż(Chair and Department of Bromatology, Collegium Pharmaceuticum, Poznan University of Medical Sciences, 3 Rokietnicka St., 60-806 Poznań, Poland)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Grzegorz Kosewski, Justyna Chanaj-Kaczmarek, Krzysztof Dziedzic, et al. Assessment of Antioxidant Potential and Polyphenol and Mineral Content in Selected Green Vegetables Subjected to Sous Vide Cooking and Steaming. Applied Sciences 2026-09-25. DOI: 10.3390/app16199525. 原著ライセンス:CC BY.