著者の所属・活動拠点の国は、チリ、スペインです。
掲載誌:Food Chemistry: X
ライセンス: CC BY 4.0 対象: 公開論文 確認元: Crossref
捨てられがちな搾りかすを保存するために
ブドウの搾りかす(ポマス)は、果汁を搾ったりワインを発酵させたりした後に残る皮や種などの固形物です。論文によれば、加工したブドウの重さの最大30%を占めます。食物繊維やポリフェノール(植物に含まれる色素や渋み成分などの総称)、油分の供給源として、食品や飼料、化粧品などの分野から関心を集めています。しかし実際には捨てられることが多いと著者らは指摘しています。
搾りかすを活用するには、劣化を抑えて保存する方法が必要です。ガンマ線照射は従来の加熱処理に比べて熱に弱い成分の分解を抑えやすい処理とされています。一方、搾りかすのポリフェノールやミネラルが照射でどう変わるかについての情報は限られていました。そこで研究チームは、性質の異なる2種類の市販の搾りかすに、殺菌(滅菌)を目的としない比較的穏やかな線量のガンマ線を当て、成分の保たれ方を調べました。
白と赤、2種類の搾りかすで比べる
材料は、チリのマウレ州で2024年の収穫期に得られた2種類の搾りかすです。一つは白ブドウ品種ソーヴィニヨン・ブランを圧搾した後に残った、発酵を経ていない搾りかすです。もう一つは赤ブドウ品種マルベックを果汁とともに発酵させた後の搾りかすです。赤ワインは果皮ごと発酵させ、白ワインは果汁だけを発酵させます。この製法の違いにより、搾りかすの成分にも差が生じます。
研究チームは、コバルト60を線源とする装置を使い、0(照射なし)、500、1000、1500、2000グレイの5段階でガンマ線を照射しました。試料は4℃で冷蔵し、照射の1日後と30日後に分析しました。調べた項目は、細菌とカビ・酵母の数、カリウムや鉄などのミネラル、個々のポリフェノールの量、抗酸化能です。ただし、それぞれの搾りかすは市販の1ロットずつに限られます。そのため著者らは、2種類の違いを品種や発酵だけの効果とは見なさず、今回調べた2つの材料の違いとして解釈しています。
主な結果:微生物、ミネラル、ポリフェノール
微生物については、照射しなかった白の搾りかすで、細菌数が1グラムあたり約10の7.5乗個でした。照射1日後には線量に応じて減り、2000グレイでは約10の4.5乗個になりました。しかし4℃で30日間保存した後には、最も高い線量でも細菌数が回復していました。この回復が照射を生き延びた細菌の増殖によるものか、処理後の再汚染によるものかは、今回の分析では区別できないと著者らは述べています。赤の搾りかすの細菌と、両方の搾りかすのカビ・酵母は、照射の有無にかかわらず検出限界を下回っていました。著者らは、今回の線量の照射だけでは、4℃・30日間の保存で白の搾りかすを微生物的に安定させられなかったとし、線量を上げるか他の保存処理と組み合わせる必要があると指摘しています。
ミネラルのうち、カリウムやカルシウムなど主要なミネラルの変化は小さいものでした。その中で照射の影響が最も明確だったのはカリウムで、線量が増えるほど回収される量が減る傾向があり、この傾向は白の搾りかすでより目立ちました。鉄や亜鉛などの微量元素では、調べたすべての元素で搾りかすの種類による差が見られ、照射は鉄、マンガン、銅に影響していました。変化の現れ方は元素ごとに異なり、搾りかすの種類や保存期間にも左右されました。著者らは、照射が元素そのものを変えたのではなく、組織の構造変化などによって、分析で取り出せる量(回収可能な濃度)が変わったと解釈しています。
ポリフェノールでは、赤い色素であるアントシアニンが赤の搾りかすだけで見つかりました。中でもマルビジン3-グルコシドが最も多く、照射なし・1日後で乾燥重量1グラムあたり約2004マイクログラムでした。ただし30日後にはアントシアニン全体が減少する傾向が見られました。一方、白の搾りかすでは多くの無色のポリフェノールが比較的安定に保たれました。たとえばケルセチン3-グルクロニドは、1000グレイ・30日後に約1372マイクログラムと最も高い値を示しました。
著者らは、調べたポリフェノールの多くでは、照射よりも搾りかすの種類と保存期間のほうが重要である可能性を示唆しています。中程度の線量では損失が比較的穏やかでしたが、赤の搾りかすでは2000グレイでポリフェノールの合計量の低下が見られました。著者らは、照射の影響は一様な分解ではなく、線量、搾りかすの種類、保存期間、成分ごとに増減の現れ方が異なっていたと強調しています。
この研究が示すこと
この研究では、今回の穏やかな線量の範囲で、多くのポリフェノールの変化には照射よりも搾りかすの種類と保存期間が関わっている可能性が示されました。ミネラルでは主要なミネラルの変化は小さく、カリウムが照射の影響を最も受けやすい元素でした。また、白の搾りかすでは照射直後に細菌が減ったものの、4℃・30日の保存で回復しており、この条件では照射だけで微生物的な安定は得られませんでした。照射による成分の変化は材料によって異なり、搾りかすごとの性質を踏まえて評価する必要があることを、この研究は伝えています。
原著論文の著者・所属:María Dolores López-Belchí(Departamento de Producción Vegetal, Facultad de Agronomía, Universidad de Concepción, 4030000 Concepción, Chile; Laboratorio de Bioactivos e Ingredientes Vegetales (BIOINVE), Centro de Biotecnología, Universidad de Concepción, 4030000 Concepción, Chile; Corresponding authors.)、Daniel Villegas(Laboratorio de Radiobiología Vegetal, Comisión Chilena de Energía Nuclear; Santiago, Chile)、Raúl Domínguez-Perles(Lab. Fitoquímica y Alimentos saludables (LabFAS). Dept. of Food Science and Technology, CSIC, CEBAS, Campus Universitario de Espinardo 25, 30100 Murcia, Spain)、Sonia Medina(Lab. Fitoquímica y Alimentos saludables (LabFAS). Dept. of Food Science and Technology, CSIC, CEBAS, Campus Universitario de Espinardo 25, 30100 Murcia, Spain)、Cristina García-Viguera(Lab. Fitoquímica y Alimentos saludables (LabFAS). Dept. of Food Science and Technology, CSIC, CEBAS, Campus Universitario de Espinardo 25, 30100 Murcia, Spain)、Bárbara Hormazabal(Departamento de Horticultura, Facultad de Ciencias Agrarias, Universidad de Talca, Chile)、V. Felipe Laurie(Departamento de Horticultura, Facultad de Ciencias Agrarias, Universidad de Talca, Chile; Centro de Investigación e Innovación VitiScience -CIA, 250013, Santiago, Chile; Corresponding authors.)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):María Dolores López-Belchí, Daniel Villegas, Raúl Domínguez-Perles, et al. Gamma irradiation as a grape pomace stabilisation treatment: Assessment of phenolic and mineral preservation. Food Chemistry: X 2026-10-01. DOI: 10.1016/j.fochx.2026.104435. 原著ライセンス:CC BY.