この研究は、トルコ、サウジアラビアの研究機関の研究論文です。
掲載誌:Frontiers in Nutrition
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
お酢は昔から保存食や調味料として親しまれてきましたが、近年は原料由来のポリフェノール(抗酸化作用があるとされる植物由来の成分)を含む「機能性発酵食品」としても注目されています。黒イチジクを原料にした黒イチジク酢もそのひとつで、フェノール化合物や抗酸化成分を豊富に含むとされています。ただし、一般的な加熱殺菌(パスチャライゼーション)は、こうした有用成分を減少させてしまう可能性があるといわれています。そこで注目されているのが、非加熱で処理できる「超音波処理」という技術です。今回紹介する研究は、この超音波処理の条件を機械学習の力も借りて最適化し、黒イチジク酢の成分や抗酸化能、さらには体内での「使われやすさ」にどう影響するかを調べたものです。
研究でわかったこと
研究チームは、伝統的な製法でつくられた黒イチジク酢を対象に、未処理・加熱殺菌処理・超音波処理という3種類のサンプルを比較しました。超音波処理については、処理時間と振幅(超音波の強さ)という2つの条件を「応答曲面法」という統計的な手法で最適化しています。さらに、実験データを人工的に増やす「データ拡張」を行ったうえで、Extra Trees、CatBoost、Gradient Boosting、AdaBoostという4種類の機械学習モデルを用いて、総フェノール含量(TPC)や抗酸化能の指標であるFRAP値を予測するモデルを構築しました。その結果、Extra Treesというモデルが最も予測精度が高く、決定係数(R²、予測のあてはまりの良さを示す指標)は0.998を超え、予測精度は99%以上に達したと報告されています。
この機械学習による分析を通じて見出された最適な超音波処理条件は「処理時間8分・振幅58%」でした。この条件で処理したサンプルは、総フェノール含量が79.77±3.69 mg GAE/100 mL、FRAP値が8.87±0.24 mmol TE/Lとなり、未処理品や加熱殺菌品と比べて有意に高い値を示したとされています(p<0.05)。総フラボノイド含量についても同様に高い値が確認されたということです。また、カフェ酸、カテキン水和物、クリシン、バニリン、p-クマル酸、o-クマル酸、トランス-フェルラ酸といった個別の成分についても、超音波処理によって濃度が有意に増加したと報告されています。
さらにこの研究では、胃や腸での消化を模した実験(模擬消化試験)も行われました。どのサンプルも消化の過程で有用成分は減少したものの、超音波処理された酢は、消化後も総フェノール含量、総フラボノイド含量、FRAP値がほかのサンプルより高い水準を維持し、体内で実際に利用可能と考えられる割合(生体アクセス性)はおよそ30〜32%だったとされています。加えて、ピアソン相関分析と主成分分析という統計手法により、カフェ酸、トランス-フェルラ酸、ルチン、o-クマル酸が抗酸化能への寄与が大きい成分として挙げられています。
この研究の位置づけ・読むうえでの注意
この研究は、超音波処理の条件最適化、応答曲面法、データ拡張、複数の機械学習モデル、フェノール成分の詳細な分析、そして模擬消化による生体アクセス性の評価までを組み合わせた取り組みとして報告されています。ただし、これは一つの研究であり、結論が確定したわけではありません。ここで示された数値や効果は、あくまで今回の実験条件・サンプルにおける結果です。ヒトが実際にこの酢を摂取した場合にどのような影響があるかについては、要旨の中では言及されておらず、今後さらなる検証が必要と考えられます。
まとめ
今回紹介した研究では、機械学習を活用して黒イチジク酢の超音波処理条件を最適化することで、加熱殺菌処理や未処理の酢と比べてポリフェノール量や抗酸化能が高まったこと、また模擬消化後もその効果がある程度維持されたことが報告されました。非加熱で成分を保ちやすい加工技術と、条件最適化のための機械学習という組み合わせは、今後の機能性食品の開発における一つのアプローチとして興味深い事例といえそうです。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。出典(原著論文):機械学習ガイド型グリーン超音波処理が黒イチジク酢のポリフェノール、抗酸化能、in vitro生体アクセス性を向上させる(フロンティアーズ・イン・ニュートリション・2026年08月)
著者:Burcu Çakmak Sancar(Department of Nutrition and Dietetics, Faculty of Health Sciences, Istanbul Esenyurt University, Istanbul, Türkiye)、Deniz Aktaran Bala(Department of Food Processing, Vocational School of Veterinary Medicine, Istanbul University-Cerrahpaşa, Istanbul, Türkiye)、Selinay Demirel(Department of Nutrition and Dietetics, Faculty of Health Sciences, Tekirdağ Namık Kemal University, Tekirdağ, Türkiye)、Remzi Gürfidan(Isparta Vocational School of Information Technologies, Isparta University of Applied Sciences, Isparta, Türkiye)、Seydi Yıkmış(Department of Food Technology, Tekirdağ Namık Kemal University, Tekirdağ, Türkiye)、Oğuzhan Kilim(Department of Software Engineering, Faculty of Engineering and Natural Sciences, Bandırma Onyedi Eylül University, Bandırma, Türkiye)、Enes Açıkgözoğlu(Isparta Vocational School of Information Technologies, Isparta University of Applied Sciences, Isparta, Türkiye)、Mehmet Ali Şimşek(Department of Software Engineering, Faculty of Engineering and Natural Sciences, Bandırma Onyedi Eylül University, Bandırma, Türkiye)、Nazan Tokatlı Demirok(Department of Nutrition and Dietetics, Faculty of Health Sciences, Tekirdağ Namık Kemal University, Tekirdağ, Türkiye)、Marwa Ezz El-Din Ibrahim(Department of Food and Nutrition Sciences, College of Agricultural and Food Sciences, King Faisal University, Al-Ahsa, Saudi Arabia)、Nazlı Tokatlı(Department of Computer Engineering, Faculty of Engineering and Natural Sciences, Istanbul Health and Technology University, Istanbul, Türkiye)