コーヒーの酸味をつくる有機酸のひとつに、キナ酸というものがあります。豆や抽出液に多く含まれ、非フェノール性の有機酸のなかでは最も量が多く、あの酸味に大きく関わっているとされています。個別の有機酸は日本人の食事摂取基準の対象にならないため推奨量のような基準はありませんが、基準がないことと成分の面白さは別の話です。日本食品標準成分表でキナ酸の値が収載されている食品は全部で18件あり、そのうち上位に並ぶ7食品を見ていくと、「酸味」という言葉だけでは片づけられない顔ぶれが見えてきます。
果実の酸味を支える顔ぶれ
100gあたりの値で最も多いのは、キウイフルーツ 緑肉種 生とぶどう 干しぶどうで、いずれも0.8gと同程度です。キウイフルーツはエネルギー51kcalに対し、有機酸の顔ぶれではクエン酸1.0gに次ぐ量のキナ酸を持ち、ビタミンCも71mg(100gあたり。30〜49歳女性の推奨量100mg/日の71%に相当)含んでいます。一方の干しぶどうは324kcalとエネルギー密度が高く、果糖31.7g(推定値)やぶどう糖28.6g(推定値)といった糖の多さが目立ちますが、有機酸の内訳ではキナ酸0.8g(推定値)がリンゴ酸0.4g(推定値)を上回り、この食品の酸味の主役になっています。生の果実と乾燥させた果実、水分量も食べ方もまるで違う2つの食品が、同じ0.8gという値で並ぶのは興味深いところです。
単独3位はマンゴー、しかし主役は別の酸
マンゴー ドライマンゴーは0.3gで単独の3位です。ただしこの食品の有機酸の顔ぶれを見ると、クエン酸2.3gが最も多く、キナ酸はその次に位置する存在にとどまります。むしろ目を引くのはβ-クリプトキサンチン280µgで、体内でビタミンAに変わるプロビタミンAカロテノイドの一種です。339kcalというエネルギーの高さは、乾燥によって水分が9.3gまで減り、糖や酸が凝縮された結果と見ることができます。
思いのほか幅広い顔ぶれの4位タイ
4位タイには、なす2品とさつまいも2品という、果物とは縁遠い4食品が並びます。いずれもキナ酸は0.2gで、優劣のない同程度の値です。ここでもう一段見えてくるものがあります。べいなす 果実 素揚げは177kcalで、α-リノレン酸1300mg(推定値)というn-3系の脂肪酸を多く含み、揚げ油を吸ったことによる脂質の多さが際立ちます。なす 果実 油いためは73kcalとこちらは控えめで、有機酸の中ではリンゴ酸0.3g(推定値)がキナ酸をわずかに上回ります。いも類ではむらさきいも 塊根 皮なし 蒸しが122kcal、さつまいも 蒸し切干が277kcalで、後者は乾燥によって水分が22.2gまで減り、糖やミネラルが凝縮されています。果物、揚げ野菜、干しいもという水分量も調理法もばらばらな4つが同じ値で並ぶところに、この成分の分布の広さが表れています。
まとめ
キナ酸はコーヒーの酸味に関わる成分として知られていますが、成分表を見渡すと、キウイフルーツや干しぶどうといった酸味の強い果実だけでなく、揚げたなすや干したさつまいもにも同程度の値で存在していました。水分を飛ばして味を凝縮させた乾物や、油で仕上げた料理にも顔を出すという広がりが、この成分の見え方を少し変えてくれます。今のところキナ酸の値が載っている食品は18件にとどまっており、成分表に新しく加わる食品が増えれば、この顔ぶれもまた違って見えてくるかもしれません。
※β-クリプトキサンチンのプロビタミンA作用については、日本人の食事摂取基準に基づきます。
※α-リノレン酸のn-3系必須脂肪酸としての性質については、日本人の食事摂取基準に基づきます。
※本記事は日本食品標準成分表(八訂)および日本人の食事摂取基準(2025年版)のデータ等をもとに作成しました。
栄養素のはたらき・摂取基準の記述は、次の公的資料に基づきます:厚生労働省 食事摂取基準