食品に何かを「足す」とき、どこまで足せば豊かさを損なわずに済むのか。この問いを、マンゴーピューレと食物繊維の組み合わせで科学的に探った研究が近年報告されました。

現代の食生活では食物繊維の摂取量が不足しがちとされており、日本人の食事摂取基準でも目標量が設定されています。そこで研究者たちが目をつけたのが、イソマルトオリゴ糖(IMO)と呼ばれる難消化性オリゴ糖の一種。オリゴ糖とは、砂糖より少し長い鎖を持つ糖の総称で、消化されにくく腸まで届きやすい性質があるとされています。これをマンゴーピューレに加えたらどうなるか、というのが研究の出発点でした。

研究でわかってきたこと

研究チームはマンゴーピューレにIMOを複数の濃度で添加し、粘度・水分活性・溶存固形分・色・pHといった物理的・化学的性質と、味・香り・色・テクスチャーなどの官能評価、さらに抗酸化活性を同時に測定しました。その結果、IMOの添加量を増やすほど粘度は上がり、色は明るくなり、抗酸化活性は高まることが示された一方で、高い濃度では色・風味・香り・総合的な好ましさが低下することも確認されました。

どの濃度が「最もバランスが良いか」を決めるために、研究ではTOPSIS(トプシス)という多基準意思決定法を用いました。これは複数の評価項目を同時に考慮し、理想解に最も近い選択肢を数学的に選び出す手法です。その結果として導き出された最適濃度が、5%でした。この濃度では、風味や見た目の変化を最小限に抑えながら、抗酸化活性の向上も確認されるバランスが得られると報告されています。もちろんこれはある実験条件での結果であり、すべての食品や製造環境に直接あてはまるわけではありません。しかしこの発見が示唆するのは、「栄養を足すなら多ければ多いほど良い」ではなく、「壊さない量がある」という考え方の重要性です。

マンゴーという素材のポテンシャル

この研究の主役であるマンゴーは、素材としても栄養的に興味深い果物です。生のマンゴーは可食部100gあたり食物繊維1.3g、エネルギー68kcal。南国の果物らしい濃厚な甘みと、やわらかな果肉が特徴です。国産品は宮崎県・沖縄県・鹿児島県などで4月〜9月ごろに出回り、完熟させたものはなるべく早めに食べるか冷凍保存するのがおすすめ。冷凍後は、冷蔵庫内でゆっくり解凍するか、食べる直前に短時間だけ常温に出すと甘みが戻ります。品種やサイズによって大きく異なるため、あくまで目安としてお読みいただきたいのですが、1個の可食部が200〜300g程度であれば、食物繊維は約2.6〜3.9g摂れる計算になります。

研究で用いられたのは生マンゴーのピューレですが、素材としてのマンゴーの多様な利用形態を知る参考として、水分が抜けたドライマンゴーの成分も見てみましょう。生マンゴーと同じ100gあたりで換算すると、食物繊維は6.4gまで凝縮されます。エネルギーも339kcalと高くなるため、1食あたり30〜40g程度を目安に少量ずつ楽しむのが現実的です。ドライマンゴーには100gあたりクエン酸2.3gも含まれており(日本食品標準成分表(八訂)収載の有機酸より)、果物特有の爽やかな酸味のもとになる有機酸の一種です。またドライマンゴー100gあたりβ-クリプトキサンチン280µgも含まれています。これはβ-カロテンなどと同じプロビタミンAカロテノイドの一種で、体内でビタミンAに変換される可能性があるとされています(ただし変換効率は摂取量や個人の代謝状態によって異なります)。

ただし、これらのデータはあくまで「素材そのものの成分」。今回の研究はマンゴーを加工したピューレにIMOを添加した際の話であり、ドライマンゴーや生のマンゴーを食べることで特定の健康効果が得られるという意味ではありません。

「足す量を科学で探る」という発想を日常へ

この研究が面白いのは、「何を足すか」だけでなく「どれだけ足すか」を丁寧に検証した点です。食物繊維を増やしたい、抗酸化成分を保ちたい、でも風味は損ないたくない——これらは一見バラバラな要求ですが、科学的に整理すれば最適な落としどころが見えてきます。その答えが今回の研究で明示されました。

日々の食事でも、似たような感覚は役に立ちます。たとえばスムージーに野菜を混ぜる量、ヨーグルトにフルーツを足す割合など、「ちょうど良い加減」を意識することで、食べる楽しさと栄養のバランスを両立しやすくなります。食品開発の現場で積み上げられた知見は、家庭の食卓での「塩梅を探る目」にもそっとつながっています。

栄養を足すことと、おいしさを守ること。この二つは対立ではなく、「壊さない量」を知ることで同時に手に入れられる——そんな視点を、一粒のマンゴーから広げてみてください。

※本記事は日本食品標準成分表(八訂)および日本人の食事摂取基準(2025年版)のデータ等をもとに作成しました。参考文献:A physicochemical, sensory, and nutritional properties of mango puree enriched with isomaltooligosaccharide and formulation optimization using a multicriteria decision-making approach(Food Research誌(掲載日:2026-06-13))

栄養素のはたらき・摂取基準の記述は、次の公的資料に基づきます:厚生労働省 食事摂取基準