著者の所属・活動拠点の国は、ロシアです。

掲載誌:Medical alphabet

ライセンス: CC BY 4.0 対象: 公開論文 確認元: 論文掲載ページ

栄養状態がリハビリの成否を左右するという視点

脳梗塞(脳の血管が詰まって起こる脳卒中)の後は、再発を防ぐために血液を固まりにくくする薬や、血圧・コレステロールの管理が重視されてきました。本論文の著者らは、こうした治療に加えて、患者の栄養状態も回復の度合いを大きく左右すると指摘しています。肥満が世界的に増える一方で、脳卒中後の患者では、栄養不足と筋肉量の減少がリハビリテーションの成果を妨げる主な要因になっているといいます。

論文が紹介する報告では、脳卒中後に飲み込みの障害(嚥下障害)が起こる割合は8.1〜45%とされています。飲み込みにくさは脱水や栄養不足、誤って気管に入った食べ物などによる肺炎(誤嚥性肺炎)の危険につながります。さらに、うつ状態、認知機能の低下、体を動かしにくくなることも栄養不足の原因になります。加えて、脳卒中への全身的な反応として代謝が過剰に高まり、炎症が起きることで、筋肉の量と力が急速に失われる「二次性サルコペニア」が進みやすいとされています。

この総説の目的は、脳梗塞後のリハビリテーションで重要な栄養素について既存の研究知見を整理することです。そのうえで著者らは、その知見を根拠に、患者向けの特別な栄養食品にどのような成分を含めるべきか、どのような患者が対象になるかを示しています。

たんぱく質とロイシン:筋肉を守る土台

論文によると、脳梗塞の急性期には体が必要とするエネルギーが通常より7〜26%増えるとの報告があります。この時期にエネルギーや体をつくる材料が不足すると、筋肉が急速に失われます。アミノ酸の不足は、脳卒中後少なくとも76日間にわたって筋肉の減少が続く重要な要因とされています。

著者らは、欧州臨床栄養代謝学会(ESPEN)が高齢者の低栄養やその危険がある人に勧めるたんぱく質摂取量(体重1kgあたり1日1.2〜1.5g、重い身体的ストレスがある場合などは2.0gまで)が、脳卒中後の患者にも当てはまると考えています。とくに注目しているのが、必須アミノ酸の一つであるロイシンです。ロイシンは筋肉のたんぱく質をつくる材料になるだけでなく、その合成を促す信号としても働きます。論文が引用する研究では、サルコペニアのある脳梗塞患者がロイシンを補給したところ、握力と骨格筋の指標が統計的に意味のある水準で改善したと報告されています。

同時に著者らは、たんぱく質が十分に生かされるには、食事全体のエネルギー量も足りている必要があると強調しています。肥満のある患者についても、炭水化物や飽和脂肪は控えつつ、たんぱく質の量は削らない食事が望ましいとしています。

ミネラル、ビタミン、植物や微細藻類の成分

著者らは、脳卒中後にはカリウム、マグネシウム、セレン、亜鉛の血中濃度の低下が見られるとし、これらの役割を整理しています。たとえば疫学データでは、マグネシウムの摂取量が1日100mg多いことが、脳卒中リスクの8%低下と関連していました。一方で、マグネシウムを投与した大規模な臨床試験(FAST-MAG)では、90日後の障害の程度に有利な効果は確認されませんでした。このため著者らは、マグネシウムの神経保護作用については慎重な解釈が必要だと述べています。セレンについては、抗酸化成分の組み合わせにセレンが含まれる場合に限って、心血管死や全死亡のリスク低下との関連が見られたとする解析を紹介しています。亜鉛については、動物実験で脳卒中後の神経機能の改善が報告されていることを取り上げています。

ビタミンでは、葉酸、B6、B12などのビタミンB群が重視されています。これらは、血中で増えると脳梗塞の危険因子となるホモシステインという物質の代謝に必要です。論文によれば、食品への葉酸添加が義務化されていない中国の地域で行われた試験(CSPPT)では、1日0.8mgの葉酸の摂取で脳卒中リスクが24%低下しました。ビタミンDについても、急性期の脳梗塞患者にビタミンDを投与したランダム化比較試験で、認知機能の改善と死亡率の低下が報告されたと紹介しています。

さらに著者らは、イチョウ葉やトマトのリコピンなどに含まれるフラボノイドやカロテノイドに加え、スピルリナやドナリエラといった微細藻類にも注目しています。微細藻類はアスタキサンチン、フィコシアニンなど多様な抗酸化成分を含むためです。ただし、微細藻類の神経保護作用に関するデータの多くは、動物や細胞を使った実験から得られたものです。著者らは、これらを臨床試験を行うための根拠と位置づけ、製品に用いる場合は菌株の安全性や重金属・細菌毒素の厳しい管理が必要だとしています。

特別な栄養食品の設計目標と総説の意味

こうした知見をもとに、著者らはリハビリ期向けの特別な栄養食品について目標値を示しています。対象は、嚥下障害や食欲低下、代謝の亢進によって栄養不足が確認された患者と、体重が1週間に2%、または1か月に5%を超えて減っている患者です。成分としては、1回分あたりたんぱく質15g以上(1日の総摂取量は体重1kgあたり1.2〜1.5g)でロイシンを必ず含むこととしています。ほかに、ビタミンDは1日必要量の50%以上(約7.5〜10µg)、葉酸は200〜400µg以上、ビタミンB12は1.5µg以上が挙げられています。セレン、マグネシウム、亜鉛、カリウムは1日推奨量の50%程度とされています。腎機能が低下している可能性のある患者でも、過剰摂取を避けながら不足を補うための配慮だと説明されています。

著者らは結論として、脳卒中後の栄養支援は補助的な選択肢ではなく、治療に欠かせない要素になりつつあると述べています。この総説は、脳梗塞後の回復を薬や運動だけでなく、筋肉を守るたんぱく質と不足しやすい微量栄養素の補給という面からも捉え直しています。そして、その知見を具体的な栄養食品の設計目標として整理した点に特徴があります。

原著論文の著者・所属:T. S. Zaletova(Federal Research Centre of Nutrition, Biotechnology and Food Safety)、T. B. Feofanova(Federal Research Centre of Nutrition, Biotechnology and Food Safety)、Z. M. Zainudinov(Federal Research Centre of Nutrition, Biotechnology and Food Safety; National Research Ogarev Mordovia State University)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):T. S. Zaletova, T. B. Feofanova, Z. M. Zainudinov. Nutritional support and biologically active components in comprehensive rehabilitation of patients after ischemic stroke. Medical alphabet 2026-10-23. DOI: 10.33667/2078-5631-2026-16-40-44. 原著ライセンス:CC BY.