掲載誌:Zenodo (CERN European Organization for Nuclear Research)
ライセンス: CC BY 4.0 対象: 公開論文 確認元: DataCite
研究の目的
うつ病、不安障害、双極性障害、統合失調症、摂食障害などの精神疾患は、世界的な公衆衛生上の大きな課題です。著者らは、食事や栄養が心の健康にどのように関わるのかについて、これまでに発表された研究を整理しました。
このレビューは、特にうつ病と不安障害に焦点を当てています。食事の要因と心の状態を結びつける生物学的・心理社会的な仕組みを検討し、一般的な精神疾患の予防や対処で栄養面の取り組みが果たしうる役割を示すことを目的としています。
どのように調べたか
著者らは、Google Scholar、PsycINFO、Scopus、PubMedなどのデータベースを使い、2000年から2024年までに英語で発表された査読付き論文を検索しました。「栄養とメンタルヘルス」「食事パターンと不安」「食事とうつ」などの語を組み合わせて文献を集めています。未発表原稿、学会抄録、論説、査読を経ていない文献は除外し、最終的に40本の論文を取り上げました。
対象には、参加者をくじ引きのように無作為に分けて効果を比べるランダム化比較試験、ある時点の集団を調べる横断研究、複数の研究をまとめた系統的レビューが含まれます。著者らは、栄養と心の状態が互いに影響し合う双方向の関係を検討し、食事パターン、三大栄養素、ビタミンやミネラルなどの微量栄養素、超加工食品の摂取、腸と脳のつながり(腸脳相関)と腸内細菌、遺伝子の働き方の調節(エピジェネティクス)といった分野を整理しました。
主な報告内容
レビューによると、食事の質と心の健康状態には強い相関があることが多くのデータで示されています。超加工食品、精製された炭水化物、飽和脂肪、添加糖を多くとる「西洋型」の食事パターンは、不安やうつのリスクの高さと繰り返し関連づけられてきました。一方、地中海食や植物性中心の食事は、心の健康の良さや抑うつ症状の少なさと関連していると報告されています。また、ランダム化比較試験では、栄養面の介入によって抑うつ症状が大きく軽減したと示されていることも紹介されています。
不安障害については、未加工の食品や脂肪の少ないたんぱく質、不飽和脂肪を重視した質の高い食事は不安のリスクの低さと関連し、加工食品、砂糖入り飲料、精製炭水化物の多い食事は不安症状の増加と関連していました。後者の関連は特に女性で見られたとされています。
栄養素の役割として、著者らは次のような点を挙げています。たんぱく質に含まれるアミノ酸の一種トリプトファンは、気分の安定に関わる神経伝達物質セロトニンの材料になります。青魚などに含まれるオメガ3脂肪酸(EPAやDHA)は、神経細胞の膜の健全さや炎症の調節に関わります。ビタミンB群、ビタミンD、亜鉛、マグネシウムなどが不足すると、うつや不安を起こしやすくなることとの関連が報告されています。
妊娠中や出産前後の栄養についても検討されています。母親の栄養不足は胎児の脳の発達の障害や、子どもが後に気分障害を起こすリスクの上昇と関連しているとされ、葉酸、ビタミンB12、コリンなどがDNAメチル化と呼ばれる遺伝子の働きの調節を通じて関わる可能性が示されています。
腸内細菌については、乳酸菌やビフィズス菌を含むプロバイオティクスが腸内細菌の構成を変え、抑うつや不安の症状の改善に寄与しうることを示す研究が紹介されています。ただし長期的な効果はまだ分かっておらず、最も効果的な菌株、量、期間、年齢別の推奨を確立するには、より質の高い研究が必要だと著者らは述べています。
さらに、運動を習慣的に行う人は抑うつや不安が少ない傾向があること、食料の確保が不安定な状態、体重に関する偏見、否定的な体のイメージといった心理社会的な要因も心の不調に関わることが取り上げられています。
この研究が示すこと
著者らは、栄養は精神医療の中でまだ十分に活用されていない要素だとまとめています。食事の見直しや栄養補給は、手頃で取り入れやすく、薬物療法や心理療法を補う予防的・補助的な手段になりうると論文は位置づけています。
そのうえで、研究の知見を実際の場で生かすには、栄養士、心理士、精神科医、公衆衛生の専門家が協力することが必要だと結論づけています。食事と心の健康を切り離さずに考える視点を、多くの研究を通して示したレビューといえます。
原著論文の著者・所属:Priyanka, Kumari(IGNOU, New Delhi)、Shalini, Kushwaha(Discipline of Nutritional Sciences, IGNOU, New Delhi)、Kannappa V., Shetty(School of Social Work, IGNOU, New Delhi)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Priyanka, Kumari, Shalini, Kushwaha, Kannappa V., Shetty. Nutrition and Depression: A Comprehensive Review of Dietary Influences on Mental Health. Zenodo (CERN European Organization for Nuclear Research) 2026-09-15. DOI: 10.5281/zenodo.23725998. 原著ライセンス:CC BY.