著者の所属・活動拠点の国は、パキスタン、台湾です。
掲載誌:Zenodo (CERN European Organization for Nuclear Research)
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
私たちの腸には、細菌をはじめとする多くの微生物がすみついています。この微生物の集まりとその遺伝情報や働きを合わせて「腸内マイクロバイオーム」と呼びます。腸と脳は神経やホルモン、免疫などを通じて互いに情報をやり取りしており、この双方向のつながりは「腸脳相関」と呼ばれています。
著者らによると、食事、腸内細菌、心の健康は、これまでそれぞれ別々に研究されることが多く、三つの関係をまとめて検討した文献は限られていました。そこで研究チームは、成人を対象に、食事のパターンと腸内マイクロバイオームの特徴、そして不安や抑うつといった心の状態との関係を既存の研究から整理しました。あわせて、これらの情報を一人ひとりに合わせた栄養指導、いわゆる個別化栄養に生かせる可能性も検討しています。
どのように調べたか
この研究は、新たに参加者を集めて実験や調査をしたものではなく、すでに発表された研究を集めて統合する「統合的レビュー」です。統合的レビューは、ランダム化比較試験(参加者をくじ引きのように無作為に分けて比べる試験)や観察研究など、種類の異なる研究をまとめて検討できる方法です。著者らは、問題の特定から文献検索、評価、分析、結果の提示までの五段階からなる既存の枠組みに沿ってレビューを進めました。
文献は医学系データベースのPubMed/MEDLINEとGoogle Scholarで検索され、2019年から2025年に発表された研究が対象とされました。地中海食、西洋型の食事、植物中心の食事、超加工食品、腸内細菌、うつ、不安、ストレス、腸脳相関などのキーワードが使われています。動物実験や試験管内の実験、論説や意見記事は除外されました。集めた研究は研究デザインに応じた評価ツールで質が確認され、結果は文章による統合(ナラティブ統合)でまとめられました。
主な結果
論文によると、地中海食や果物・野菜が豊富な食事、食物繊維の多い食事といった健康的な食事パターンは、望ましい腸内細菌の特徴や、より良い心の健康と関連していました。一方で、西洋型の食事や加工度の高い食品を多く含む食事は、心の健康の悪化、腸内細菌のバランスの乱れ(ディスバイオシス)、炎症と関連していたと報告されています。
レビューで取り上げられた研究の中には、新鮮な果物や野菜の摂取が少なく、菓子や砂糖、デザート、バター、脂肪の多いチーズなどの摂取が多いことが、不安や抑うつ症状の起こりやすさと関係していたとする報告がありました。また、地中海食が腸の軽い炎症の減少と関連し、その関係の一部に腸内細菌が関わっていたとする報告も紹介されています。
こうした関係を説明しうる体の仕組みとして、著者らはいくつかの経路を挙げています。腸内細菌が食物繊維を発酵させてつくる短鎖脂肪酸という物質、腸の壁の透過性(いわゆるバリア機能)、免疫反応や炎症、ストレスに反応するホルモン系(視床下部・下垂体・副腎の系)、神経伝達物質の働き、そして腸と脳を結ぶ迷走神経の活動です。食事、腸内細菌、心の健康は、こうした複数の経路を通じてつながっているように見えるとされています。
この研究が示すこと
著者らは、食事、腸内細菌、心理面の情報を組み合わせることが、個別化栄養の有望な土台になりうると述べています。食事への反応は、体質や普段の食事、腸内細菌の構成、服薬などによって人ごとに異なりうるためです。
ただし論文は、根拠の限界もはっきり示しています。集められた研究の多くは関連を見た観察研究で、食事が腸内細菌を通じて心の健康を変えるという因果関係は確かめられていません。研究ごとに食事や腸内細菌、心の状態の測り方がばらばらで、特定の細菌についての結果には食い違いもあります。食事から腸内細菌、心の健康までの一連の流れを一つの研究で調べた例も十分ではありません。
このレビューは、植物性食品や食物繊維の多い食事が腸内細菌の特徴や心の健康と結びついている可能性を整理しつつ、それが原因と結果の関係なのか、個人に合わせた栄養に実際に役立てられるのかは、まだ確かめられていない段階にあることを伝えています。
原著論文の著者・所属:Eesha Abdul Ghafar(National Institute of Food Science and Technology, University of Agriculture, Faisalabad, Pakistan)、Amna(Rashid Latif Medical College, Lahore, Pakistan)、Irsa Ali(Bahauddin Zakariya University, Multan, Pakistan)、Huda Mureed(The University of Faisalabad, Pakistan)、Laiba Tariq(Government College University, Faisalabad, Pakistan)、Shan Muzamail(Department of Nutrition, China Medical University, No.100, Sec.1, Jingmao Rd., Beitun Dist., Taichung City 406040, Taiwan)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Eesha Abdul Ghafar, Amna, Irsa Ali, et al. Dietary Patterns, Gut Microbiome, and Mental Health in Adults: Investigating the Gut–Brain Axis and Its Implications for Personalized Nutrition. Zenodo (CERN European Organization for Nuclear Research) 2026-10-26. DOI: 10.5281/zenodo.23663777. 原著ライセンス:CC BY.