著者の所属・活動拠点の国は、アメリカです。
掲載誌:Theoretical and Natural Science
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
なぜ三つの食事パターンを比べたのか
高血糖、脂質異常、高血圧といった代謝の病気は、高齢化や生活習慣の変化とともに世界で増えています。著者は世界疾病負荷研究(GBD 2023)を引き、主要な健康リスク要因の上位10項目のうち、2010年から2023年にかけて関連する健康損失が増え続けたのは高血糖と高い体格指数(BMI)の二つだけだったと紹介しています。治療は主に薬に頼っていますが、副作用や中止後の悪化、長く続けにくいことが課題です。従来の食事・運動指導も、個人に合わせた設計や継続の支えが不足しがちだと著者は指摘します。
そこで注目されているのが、個々の栄養素ではなく食事全体の組み立て方、つまり「食事パターン」による介入です。この論文は、代表的な三つのパターンである地中海食、DASH食(もともと高血圧対策として考案された食事法)、ケトジェニック食(糖質を極端に減らす食事法)について、血糖と脂質の代謝への影響を調べた既存研究を整理し、効果、安全性、限界を比べた文献レビューです。
地中海食とDASH食について報告された結果
地中海食は、オリーブオイルなどに多い一価不飽和脂肪酸、食物繊維、ポリフェノールが豊富な食事です。スペインの65歳以上の成人1,280人を対象とした横断研究(ある一時点での食事と健康状態の関係を調べる研究)では、地中海食をよく守っている人ほどメタボリックシンドローム(腹部肥満、高血糖、脂質異常、高血圧が重なった状態)のリスクがおよそ3分の1低いことが示されました。35〜74歳の3,417人を対象とした同じグループの研究でも、リスクは約44.5%低く、空腹時血糖、中性脂肪、血圧、腹囲とも一貫して逆向きの関連が見られました。ただし横断研究であるため因果関係は証明できず、対象もスペインの集団に限られると著者は注意を促しています。
介入研究としては、地中海式の食事にホエイたんぱく質の補給と運動を組み合わせた16週間の試験が紹介されています。空腹時血糖は前糖尿病の人で12.0 mg/dL、2型糖尿病の人で19.6 mg/dL下がり、2型糖尿病の人ではHbA1c(過去1〜2か月の平均的な血糖の状態を示す指標)が6.8%から6.0%に改善しました。対照群のない小規模な試験である点は限界です。一方、2型糖尿病の100人を対象に低糖質食と地中海食を16週間比べた非ランダム化試験では、BMI、空腹時血糖、HbA1cの改善は低糖質食の方が大きく、地中海食は比較的穏やかな効果でした。
DASH食は、カリウム、マグネシウム、カルシウムを多く、塩分を少なくし、全粒穀物、野菜、果物、低脂肪乳製品をバランスよく組み合わせる食事です。米国の全国健康栄養調査に参加した成人8,780人の分析では、DASH食への適合度が最も高いグループは最も低いグループに比べ、メタボリックシンドロームのリスクが40%低いと報告されました。ポーランドの成人535人の研究でも、DASH食のスコアが1点上がるごとにメタボリックシンドロームのリスクが5%、腹部肥満のリスクが7%低いという関連が示されています。
複数の研究結果を統合して分析するメタ解析も紹介されています。メタボリックシンドロームの患者2,255人を含む26件のランダム化比較試験を対象とした解析では、DASH食は通常の食事に比べ、腹囲を5.72 cm、収縮期血圧を5.99 mmHg多く下げていました。同じ解析では、空腹時血糖の改善では地中海食に強みがあり、DASH食は腹部肥満と血圧の改善で独自の位置を占めるという、食事ごとの得意分野の違いも見えてきました。ただし、これらの比較の多くは間接的なもので、介入期間も短いとされています。
ケトジェニック食の効果と懸念
ケトジェニック食は、糖質を1日50 g未満に抑え、エネルギーの70〜75%を脂質からとる食事です。体はブドウ糖の代わりに、脂肪から作られるケトン体を主なエネルギー源とするようになります。もともとは1921年に、治療の難しい小児てんかんの補助療法として提案されたものです。
ランダム化比較試験8件をまとめたメタ解析では、短期的に体重、腹囲、HbA1c、中性脂肪が減り、HDL(いわゆる善玉)コレステロールが増えるという、多方面の効果が示されました。また、2型糖尿病患者4,809人を含む42件の試験を対象とした解析では、ケトジェニック食はHbA1cを有意に下げた一方、空腹時血糖を下げる効果では、中程度の糖質制限食、低GI食、地中海食に及びませんでした。この解析では、血糖の改善が体重の変化と関連していたことから、食事による血糖改善の一部は減量を通じたものである可能性も示されています。
一方で、健康な成人を対象とした12週間のランダム化比較試験では、体脂肪は減ったものの、ブドウ糖を処理する力(耐糖能)が低下し、動脈硬化に関わるアポリポたんぱく質Bや、炎症の指標であるC反応性たんぱく質が増えていました。こうした結果から著者は、ケトジェニック食は短期の減量や血糖低下では最も目立つ効果を示すものの、長期の安全性、とくに心血管への影響は不確かであり、誰にでも勧められる長期的な食事法ではなく、期間を限り医療者の管理下で行う介入と位置づけるべきだとしています。
レビューから見えてきたこと
著者は、三つの食事パターンはいずれも血糖や脂質の改善に可能性を示すものの、効果が表れやすい項目、根拠の強さ、向いている状況はそれぞれ大きく異なると結論づけています。地中海食は最も根拠がそろっており、血糖の調節と血管の働きを幅広く改善する点に強みがあります。DASH食は腹部肥満と血圧の改善に、ケトジェニック食は短期間での減量と血糖低下に特徴があります。また、どの食事も効果は個々の栄養素の足し算を超えたものであり、どれだけ続けられるかと強く結びついていると著者は指摘しています。
ただし、対象者の多くは欧米の白人で、介入期間もおおむね16週間より短く、長期の効果や安全性、他の民族への当てはまりはまだ分かっていません。それを踏まえたうえで、この論文は「どの食事が一番良いか」を一律に決めるのではなく、その人の代謝の状態に合わせて食事法を選ぶという考え方の手がかりを示しています。
原著論文の著者・所属:Yupeng Ma(The Ohio State University)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Yupeng Ma. Effects of Specific Dietary Patterns on Glucose and Lipid Metabolism: Mediterranean Diet, DASH Diet, and Ketogenic Diet. Theoretical and Natural Science 2026-10-27. DOI: 10.54254/2753-8818/2026.38214. 原著ライセンス:CC BY.