この研究は、カナダ、チュニジアの研究機関の研究論文です。
掲載誌:Foods (Basel, Switzerland)
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: Europe PMC
研究の目的と背景
小麦などに含まれるグルテンを避ける必要がある人のための食品市場は拡大しています。研究チームによれば、セリアック病は世界人口のおよそ1%、非セリアック・グルテン過敏症は約6%に影響するとされ、現時点で有効な対処法は生涯にわたってグルテンを摂らないことだけだと説明されています。ところが従来のグルテンフリー製品は米粉などの精製でんぷんを主体とすることが多く、たんぱく質・食物繊維・ビタミン・ミネラルが不足しがちで、生地のまとまりや弾力に乏しく、もろい食感や早い老化(パサつき)といった品質上の課題も抱えていると論文は指摘します。
そこで着目されたのが豆の粉です。中でもクランベリービーン(Phaseolus vulgaris L.、いんげん豆の一種)は、乾燥重量100gあたり約22gのたんぱく質に加えて食物繊維、鉄・カルシウム・マグネシウムなどのミネラル、抗酸化性を示すフェノール化合物を含むと報告されています。しかし著者らは、この豆の粉をグルテンフリーの焼き菓子に使った研究はごく限られており、さらに豆特有の「豆くささ」を抑えつつ栄養を保つ加工法の比較も体系的に行われていないと述べています。本研究の目的は、あらかじめ加熱調理した豆を乾燥させる際の二つの方法、すなわち温風でじっくり乾かす熱風乾燥(オーブン乾燥)と、凍らせて真空下で氷を昇華させる凍結乾燥(フリーズドライ)を比べ、粉自体の性質と、その粉で作ったカップケーキの品質・官能評価にどう影響するかを明らかにすることでした。
何をどう調べたか
研究チームは同じ産地のクランベリービーンを二つに分け、浸漬・加熱調理からペースト化、粉砕、ふるい分け、包装まで前後の手順をそろえたうえで、乾燥工程だけを変えました。一方は40℃の対流式オーブンで12時間、もう一方は−50℃・1mbarの条件で凍結乾燥しています。分析はすべて同一施設で実施されました。
粉については、水や油をどれだけ抱え込めるかを示す吸水能・吸油能、粒の大きさ、水分量、たんぱく質・脂質・灰分・食物繊維・でんぷんなどの一般成分、ミネラル、総フェノール量を測定しました。次に、市販のグルテンフリー粉ブレンドを使った対照品、オーブン乾燥粉100%、凍結乾燥粉100%の3種類のカップケーキを焼き、生地内部の色、体積、水分、硬さや弾力などの物性、7日間保存後の変化を調べました。さらに20〜63歳の未訓練のパネル45名が、見た目・香り・食感・味・全体的な好ましさを9段階の嗜好尺度で、豆の風味の強さと後味を5段階のちょうどよさ尺度で評価しています。
報告された主な結果
粉の性質では、凍結乾燥が明確に優位でした。吸水能は2.80g/gから3.44g/gへ1.2倍に、吸油能は0.98g/gから2.10g/gへ2.1倍に増えたと報告されています。著者らはこれを、昇華によって水が抜けることで多孔質の構造ができ、水が入り込みやすくなるためと説明しています。水分は凍結乾燥品が2.99%と熱風乾燥品の6.69%より低く、粒径も445nmと1187nmより小さくなりました。総フェノール量も凍結乾燥品(1.23mg GAE/g)が熱風乾燥品(1.18mg GAE/g)より有意に高い値でした。
一方で成分面には逆の傾向もありました。カロリーは凍結乾燥品がやや高く、たんぱく質・脂質もわずかに高い数値でしたが、これらの差は統計的に有意ではありません。食物繊維、炭水化物、でんぷん、糖は両者で同程度でした。むしろミネラルはオーブン乾燥品の方が多く保たれ、カリウム、鉄、リン、亜鉛は有意に高い値だったと報告されています。なお食物繊維はどちらも100gあたり約21〜23gで、カナダで「食物繊維が非常に多い」と分類される1食6gという基準のおよそ4倍にあたると論文は述べています。
カップケーキでは、対照品が最も体積が大きく、明るい色調でした。豆粉を使った2種類は色が濃くなりましたが、その中では凍結乾燥品の方が明るく、焼き色の指標もオーブン乾燥品より低い値でした。焼いた翌日の水分量は両者で差がなく、7日保存後も27%以上の水分を保ち、柔らかさと弾力が維持されていました。硬さ・弾性回復・凝集性・咀嚼性に有意差はなく、乾燥方法で有意に違ったのは弾力性のみで、オーブン乾燥品の方が高い値でした。保存中の変化の仕方も両者で同様だったと報告されています。
官能評価では違いがはっきり出ました。香りは凍結乾燥品が6.84点と、オーブン乾燥品の5.64点を有意に上回り、しかも対照品(6.93点)との差は認められませんでした。著者らはこれを、凍結乾燥が豆特有の香りを効果的に抑えたことを示すと述べています。味も4.44点から5.40点へ改善しました。豆の風味の強さについては、凍結乾燥品では49%のパネリストが「ちょうどよい」と答え「強すぎる」は29%だったのに対し、オーブン乾燥品では73%が「強すぎる」と回答しています。
この研究が示すこと
著者らは本研究の限界も明示しています。二つの乾燥は装置の都合上それぞれ別の施設で行われたため、施設に由来する要因を完全には排除できないこと、対照品は生地の状態をそろえるために水分量が異なるため物性比較から除いたこと、保存試験が7日間・水分と物性のみであるため老化を防ぐ効果を主張することはできないこと、45名という限られた非代表的なパネルの結果を広い消費者層に一般化すべきでないことが挙げられています。
そのうえで論文は、乾燥方法という一工程の選択が、粉の機能的性質からミネラルの残り方、焼き上がりの色、そして食べ手が感じる香りや風味にまで及ぶことを示したと結論づけています。凍結乾燥は機能性と受け入れやすさで優れ、オーブン乾燥はミネラル保持で優れるという対照的な結果は、目的に応じた加工の選び方を考えるうえでの手がかりとなります。栄養に乏しくなりがちなグルテンフリー食品に、豆という身近で栄養密度の高い素材をどう活かすか——その問いに対して、素材そのものだけでなく「どう乾かすか」が答えの一部を握っていることを、この研究は具体的な測定値とともに示しています。
著者:Bouhlel NE(School of Nutrition Sciences, Faculty of Health Sciences, University of Ottawa, Ottawa, ON K1N 6N5, Canada.; Research Laboratory "Metabolic Biophysics and Applied Pharmacology" LR12ES02, Faculty of Medicine of Sousse, University of Sousse, Sousse 4002, Tunisia.)、Azeiez S(Research Laboratory "Metabolic Biophysics and Applied Pharmacology" LR12ES02, Faculty of Medicine of Sousse, University of Sousse, Sousse 4002, Tunisia.)、Gomaa A(School of Nutrition Sciences, Faculty of Health Sciences, University of Ottawa, Ottawa, ON K1N 6N5, Canada.)、Zourgui L(Research Laboratory BMA "Biodiversity, Molecules, Application", Higher Institute of Applied Biology Medenine, Gabes University, Gabes 6029, Tunisia.)、Power KA(School of Nutrition Sciences, Faculty of Health Sciences, University of Ottawa, Ottawa, ON K1N 6N5, Canada.; Department of Biochemistry, Microbiology and Immunology, Faculty of Medicine, University of Ottawa, Ottawa, ON K1H 8M5, Canada.)、Mansour W(Research Laboratory "Metabolic Biophysics and Applied Pharmacology" LR12ES02, Faculty of Medicine of Sousse, University of Sousse, Sousse 4002, Tunisia.)、Hammami R(School of Nutrition Sciences, Faculty of Health Sciences, University of Ottawa, Ottawa, ON K1N 6N5, Canada.; Department of Biochemistry, Microbiology and Immunology, Faculty of Medicine, University of Ottawa, Ottawa, ON K1H 8M5, Canada.)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Bouhlel NE, Azeiez S, Gomaa A, et al. Freeze-Drying Enhances Functional Properties and Sensory Acceptability of Cranberry Bean (<i>Phaseolus vulgaris</i> L.) Flour in Gluten-Free Cupcakes. Foods (Basel, Switzerland) 2026-09-17. DOI: 10.3390/foods15183282. 原著ライセンス:CC BY.