著者の所属・活動拠点の国は、タイ、アメリカです。

掲載誌:Foods (Basel, Switzerland)

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: Europe PMC

研究の目的

小麦などに含まれるたんぱく質「グルテン」を避ける必要がある人向けに、グルテンフリー食品は増えています。しかし、たんぱく質や食物繊維が少ない製品が多いことが課題とされています。タイの研究チームは、この点を補う素材として、世界最小の顕花植物とされる水草「ミジンコウキクサ」(ウォルフィア属、英名ウォーターミール)に着目しました。根を持たずに水面に浮かんで育つ植物で、たんぱく質や食物繊維を多く含むことが知られています。

ミジンコウキクサは水分が多く、食品に使うには乾燥させて粉末にする必要があります。ただし、乾燥方法によって成分や性質が変わる可能性があります。著者らによると、乾燥方法の違いが食品に加えたときの働きにどう影響するか、特に乾燥粉末の性質、パン生地の流動特性、グルテンフリーパンの品質の関係は十分に分かっていませんでした。そこで研究チームは、乾燥条件が粉末の性質に与える影響を調べ、選んだ粉末を米粉パンに加えたときの変化を評価しました。

乾燥条件による粉末の違い

研究チームは、タイ北部で入手した生のミジンコウキクサを、熱風で乾かすオーブン乾燥と、減圧下で乾かす真空乾燥の2方法で、それぞれ60℃と70℃で6時間乾燥しました。真空乾燥は圧力を下げて水の沸点を低くするため、熱に弱い成分を穏やかに扱える方法とされています。乾燥後は粉砕・ふるい分けし、成分、水への溶けやすさ、色、アミノ酸組成、分子構造、加熱時の安定性などを比較しました。

論文によると、70℃の真空乾燥で得た粉末は、水分が5.39%と最も低く、微生物の増殖などに使われる「自由な水」の指標である水分活性も0.40と最低でした。たんぱく質は100gあたり26.44gで4条件の中で最も多く、水への溶解性(49.71%)とポリフェノール類の量の指標である総フェノール含量も最も高い値でした。一方、水や油を保持する能力は、乾燥条件による差が統計的に認められませんでした。

アミノ酸の総量と必須アミノ酸の割合は、60℃の真空乾燥が最も高いという結果でした。赤外分光法による分析では、どの乾燥条件でも多糖類やたんぱく質に関わる構造に大きな変化は見られませんでした。また、加熱して重さの減り方を調べる分析では、真空乾燥した粉末のほうが分解の始まりが遅く、熱に対して安定な傾向が示されました。研究チームは、水分の少なさ、たんぱく質量、総フェノール含量、溶解性を総合して、70℃の真空乾燥粉末をパン作りに用いました。

米粉パンに加えたときの変化

研究チームは、米粉に対して0、5、10、15、20%の割合でこの粉末を加えたグルテンフリー米粉パンを作りました。焼く前の生地を調べると、どの配合でも、弾性的な性質が粘性的な性質を上回る「弱いゲル状」の性質を示しました。粉末を加えた生地は、力を加えたときの変形が小さく、内部の構造がより強固になったと報告されています。著者らは、粉末由来のたんぱく質や食物繊維が水と結びつき、生地成分どうしの相互作用を高めたためと考えています。

焼き上がったパンでは、粉末の配合が増えるにつれて、たんぱく質、脂質、灰分(ミネラル分の目安)、粗繊維が有意に増え、水分と炭水化物は減りました。総フェノール含量は、無添加パンの100gあたり262.86mg(没食子酸当量)から、20%配合では427.20mgまで上がりました。

一方で、粉末が増えるほどパンの膨らみ(重さあたりの体積)と高さは小さくなりました。ただし著者らは、体積と高さが既存研究で報告された許容範囲内にあり、20%配合までは品質を保ったパンになったと述べています。パンの中身の明るさを示す値は、無添加の69.99から20%配合では34.04に下がり、外皮・中身とも色が濃くなりました。また、粉末が多いほどパンは硬くなり、まとまりや弾力は低下しました。研究チームは保存中の硬化(老化)や、50人による官能評価も行いました。

研究が示すこと

この研究は、ミジンコウキクサを粉末にする際の乾燥方法と温度が、水分や成分、溶けやすさ、色といった粉末の性質を左右することを示しました。さらに、その粉末を米粉パンに加えると、たんぱく質や食物繊維、フェノール類を増やせる一方で、膨らみの低下、色の濃さ、硬さの増加といった品質面の変化も伴うことが分かりました。著者らは、水分量や増粘剤の量を調整すれば、粉末の高い吸水性を補える可能性があると述べています。水草由来の素材をグルテンフリーパンに活かす際に、乾燥工程と配合の両方が重要になることを示した研究といえます。

原著論文の著者・所属:Juaming S(Division of Product Development Technology, Faculty of Agro-Industry, Chiang Mai University, Chiang Mai 50100, Thailand.)、Clarica C(Division of Product Development Technology, Faculty of Agro-Industry, Chiang Mai University, Chiang Mai 50100, Thailand.; Department of Food Technology, Indonesia International Institute for Life Sciences, Jl. Pulomas Barat Kav. 88, Jakarta 13210, Indonesia.)、Phimolsiripol Y(Division of Product Development Technology, Faculty of Agro-Industry, Chiang Mai University, Chiang Mai 50100, Thailand.)、Jadeja R(Robert M. Kerr Food & Agricultural Products Center, Department of Animal and Food Sciences, Oklahoma State University, Stillwater, OK 74078, USA.)、Tridtitanakiat PC(Division of Product Development Technology, Faculty of Agro-Industry, Chiang Mai University, Chiang Mai 50100, Thailand.; Lanna Rice Research Center, Chiang Mai University, Chiang Mai 50200, Thailand.; Sensory Evaluation and Consumer Testing Unit, Faculty of Agro-Industry, Chiang Mai University, Chiang Mai 50100, Thailand.)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Juaming S, Clarica C, Phimolsiripol Y, et al. Thermal Processing of Watermeal for High-Protein Gluten-Free Rice Bread: Effects on Functional and Quality Properties. Foods (Basel, Switzerland) 2026-10-21. DOI: 10.3390/foods15203755. 原著ライセンス:CC BY.