お浸しにしようと束を手に取ると、葉の緑が濃く、茎はきりっと張っています。ほうれんそう 葉 夏採り 生は本来、寒さに強い冬野菜で、旬は冬とされています。ただし播種の時期や産地をずらすことで、今では一年を通じて店先に並ぶようになりました。8月に出回っているのは、そうして季節をずらして届けられている夏採りのもの。冬の盛りとは少し顔つきが違う、いわば旬から外れた時期の顔です。

ほうれんそうには、葉の切れ込みが浅く厚みがあってアクが強い西洋種と、切れ込みが深く葉柄が短く根が鮮紅色でアクが少なく甘みのある東洋種、そして両者を掛け合わせた交配種があります。生食用に改良され、シュウ酸を微量に抑えたサラダほうれんそうも今では手に入るようになりました。廃棄するのは株元のみで、廃棄率は10%。根元の赤い部分にも味があるので、思い切って捨てずに使ってみるのもよさそうです。

アクの正体はシュウ酸、だから下茹でする

シュウ酸は可食部100gあたり0.7g(推定値)含まれます。同じ有機酸リンゴ酸0.1g(推定値)の7倍、フェルラ酸8.5mg(推定値)のおよそ80倍です(0.7g=700mg、リンゴ酸0.1g=100mg)。このシュウ酸がカルシウムの吸収を妨げるとされているほか、尿路結石などを誘発するともされています。だからこそ、ほうれんそうは生で大量に食べるのは控え、ゆでてアクを抜いてから使うのが基本の扱い方になっています。ゆでる際は、ビタミンCが流れ出てしまうので、切らずに丸ごと熱湯に入れるのがコツです。

アクの強さと引き換えに、ほうれんそうは栄養面でも見どころの多い野菜です。β-カロテンは100gあたり4200µgと豊富で、体内でビタミンAに変わる性質を持つ色素成分です。ビタミンKは270µgで、女性30〜49歳の目安量150µg/日を上回る量が含まれ、血液を固める働きや骨の形成に関わるとされています。葉酸も210µgと多く、同世代の推奨量240µg/日の約88%にあたり、赤血球の形成などに関わる栄養素です。エネルギーは100gで18kcalと控えめです。

ここで気になるのがビタミンCの量です。実は夏採りと冬採りとで差があり、成分値は平均で夏どりが20mg、冬どりが60mgと3倍もの開きがあります。今食べている夏のほうれんそうは、冬本番のものに比べるとビタミンCは控えめになっています。だからこそ冬に出回る旬の盛りが、また違った顔を見せてくれる楽しみになります。

ゆでて、冷凍して、無駄なく楽しむ

ほうれんそうは、かために下茹でしてから冷蔵・冷凍しておくと扱いやすい野菜です。生のままならペーパーで包んで冷蔵、アク抜きしてゆでたものは冷蔵で5日、冷凍なら1カ月ほど保存がききます。冷凍したものは解凍せず、凍ったまま調理に使えるのも手軽さのひとつです。ゴマ和えやお浸しはもちろん、下茹でしたものをバターでさっと炒めれば、青菜特有の香りが立って食も進みます。硝酸塩をやや多く含む葉菜類ではありますが、茹でることで3〜4割ほど減るとされており、FAO/WHO合同専門家会議(JECFA)や欧州食品安全機関(EFSA)は、野菜を食べる有益性のほうが勝るとしています。下茹でというひと手間は、アク抜きと同時に、そうした安心も一緒に手に入れる作業といえそうです。

主産地としては群馬13.0%、埼玉11.2%、千葉10.7%、茨城10.4%、宮崎6.4%が名を連ね、関東近郊の畑から食卓へと届けられています。旬のピークはまだ先の冬になります。今の夏採りは、いわば名残でも走りでもない"合間"の顔ですが、ゆでてアクを抜けば、甘みと栄養をきちんと味わえる一皿になります。ひと手間かけた分だけ、冬にまた出会うほうれんそうの違いにも気づけるかもしれません。

栄養素の摂取基準については日本人の食事摂取基準もあわせてご覧ください。

※本記事は特定の食品の効果・効能を示すものではありません。

※本記事は日本食品標準成分表(八訂)および日本人の食事摂取基準(2025年版)のデータ等をもとに作成しました。

栄養素のはたらき・摂取基準の記述は、次の公的資料に基づきます:厚生労働省 食事摂取基準e-ヘルスネット「葉酸とサプリメント ‐神経管閉鎖障害のリスク低減に対する効果」(厚生労働省)