「ほうれん草とオレンジ、どちらが栄養的に近いか」——そんな問いを立てる人はほとんどいないでしょう。ところが、フェルラ酸という植物由来の成分に注目すると、この2種がほぼ同じ数値帯でずらりと並ぶのです。
フェルラ酸は、植物の細胞壁に含まれるポリフェノールの一種です。ポリフェノールとは、植物が紫外線や乾燥などの外的ストレスから自らを守るために合成する化合物の総称。フェルラ酸は抗酸化性を持つ成分として食品科学の分野で注目されており、とくに穀物のぬか(米ぬか・小麦ふすまなど)や果実、葉野菜に多く存在することが知られています。日本人の食事摂取基準には推奨量・目安量などの定量的な基準は設定されておらず、食品成分としての研究が進む途上にある成分です。
今回は、日本食品標準成分表(八訂)にフェルラ酸の値が収載されている17品の中から、100gあたりの含有量が多い上位5食品を読み解きます。収載されていない食品は比較に含まれていないため、「全食品中の順位」という意味ではありません。
フェルラ酸が多い上位5食品
第1位 ネーブルオレンジ 100gあたり8.9mg
オレンジ ネーブル 砂じょう 生(砂じょうとは、柑橘の薄皮の中にある、果汁を含んだ粒状の果肉部分のことです)が、100gあたり8.9mgで首位です。フェルラ酸のほかにβ-クリプトキサンチン(100gあたり210µg)やクエン酸(同0.8g)も含まれます。ネーブルオレンジ1個の可食部はおよそ150g前後が目安で、1個まるごと食べれば、100gあたりの値の約1.5倍にあたる量を摂る計算になります。
第2位 ほうれん草(通年平均) 100gあたり8.5mg(同値)
ほうれんそう 葉 通年平均 生は8.5mgで第2位。シュウ酸(100gあたり0.7g)やβ-カロテン(同4200µg)も豊富な、緑黄色野菜の定番です。
第3位 ほうれん草(夏採り) 100gあたり8.5mg(同値)
ほうれんそう 葉 夏採り 生も8.5mgで第3位。成分表では季節別に別品目として収載されており、夏採りのほうれん草でも通年平均と同じ値です。
第4位 ほうれん草(冬採り) 100gあたり8.5mg(同値)
ほうれんそう 葉 冬採り 生も8.5mgで第4位。「冬のほうれん草は栄養が豊富」とよく言われ、ビタミンCなど季節変動が大きい成分もありますが、フェルラ酸に関しては成分表上、夏採りと値に差は見られませんでした。
第5位 アサイー(冷凍・無糖) 100gあたり8mg
アサイー 冷凍 無糖が8mgで第5位。南米アマゾン原産の果実で、冷凍ペーストやスムージーボウルの素材として広く知られています。フェルラ酸のほかにクロム(100gあたり60µg)やマンガン(同5.91mg)も多く含まれており、クロムは女性30〜49歳の目安量(1日10µg)の600%、マンガンは同目安量(1日3mg)の197%に相当する密度です。ただし、アサイーを一食で100gそのまま食べることは多くなく、実際の一食量での摂取はこれより控えめになります。
データから見えてくること
今回の上位5食品のフェルラ酸値を並べると、首位のネーブルオレンジ(8.9mg)から第5位のアサイー(8mg)まで、差はわずか0.9mg。柑橘・葉野菜・熱帯果実という異なるカテゴリの食品が、ほぼ横一線に並ぶのは興味深い点です。フェルラ酸が植物の細胞壁に広く存在する成分であることが、この意外な共通点の背景にあると考えられます。
また、ほうれん草が通年・夏採り・冬採りの3品でまったく同じ値(8.5mg)として登場したことも注目です。ビタミンCのように季節によって大きく変動する成分と異なり、フェルラ酸はほうれん草に安定して含まれている可能性が、成分表の数値から読み取れます。
定量的な摂取基準がなく、成分表への収載食品もまだ17品と限られているフェルラ酸。それでも今回の上位5食品——ほうれん草・ネーブルオレンジ・アサイーはいずれもスーパーや青果店で手に入れやすいものばかりです。「植物が自らを守るために作り出した成分」という新しい視点を一つ加えるだけで、いつもの食材の棚が少し違って見えてくるかもしれません。
※本記事は日本食品標準成分表(八訂)および日本人の食事摂取基準(2025年版)のデータ等をもとに作成しました。