フェルラ酸という成分をご存じでしょうか。米ぬかなど穀物に多いフェノール酸の一種で、ポリフェノールに分類される成分です。ポリフェノールには抗酸化作用があるとされますが、名前は聞き慣れなくても、日本食品標準成分表を見ると、私たちの身近な野菜や果物にしっかり含まれていることが分かります。この成分に食事摂取基準の推奨量のような基準値は設定されていませんが、「どの食品に多いのか」を数字で見ていくと、意外な共通点が浮かび上がってきます。

上位はかんきつ類1つとほうれんそう3品

可食部100gあたりのフェルラ酸量で並べると、第1位はオレンジ ネーブル 砂じょう 生の8.9mg(48kcal)。そして第2位タイに並ぶのが、ほうれんそう 葉 通年平均 生ほうれんそう 葉 夏採り 生ほうれんそう 葉 冬採り 生で、いずれも8.5mg(夏採り・冬採りは推定値)。全17件というこの成分の収載食品のうち、上位5食品中3つを同じ野菜が占めている計算です。5位にはアサイー 冷凍 無糖が8.0mgで続きます。ネーブルはかんきつ類らしくビタミンCも100gあたり60mg含み、これは女性30〜49歳のビタミンC推奨量100mg/日の60%にあたります。脂質ナトリウムもほぼゼロで、皮をむくだけで食べられる手軽さが特徴です。

有機酸の主役はシュウ酸——下茹でとセットで考える

ここで注意したいのは、ほうれんそうの有機酸の中身です。シュウ酸0.7g、リンゴ酸0.1g、そしてフェルラ酸8.5mg——単位が違う点に気をつけてください。シュウ酸の0.7gは700mgにあたり、フェルラ酸8.5mgの80倍以上です。有機酸の総量0.9gの大半はシュウ酸が占めており、フェルラ酸はそのごく一部にすぎません。「フェルラ酸が多い食品」の上位に並ぶ野菜でも、その有機酸の主役はあくまでシュウ酸なのです。シュウ酸はほうれんそうのえぐ味・アクのもとになる有機酸で、カルシウムの吸収を妨げるとされ、尿路結石などとの関連も指摘されています。水に溶けやすい性質があるため、下茹でしてアクにさらすと減らせるとされ、生のまま大量に食べるのは控えたい成分です。またほうれんそうは硝酸塩を比較的多く含む葉菜類でもありますが、茹でるなどの調理で3〜4割程度減るとされています。つまり「フェルラ酸が多い野菜」であると同時に「下茹でとセットで扱う野菜」でもあるわけです。ちなみにビタミンCは茹でる前に切ると流れ出やすいため、切らずに丸ごと茹でるのがポイントとされています。

同じほうれんそうでも、夏と冬でビタミンCは3倍違う

同じ第2位タイのほうれんそうでも、夏採りと冬採りで中身がすべて同じというわけではありません。葉酸はどちらも210µg(女性30〜49歳の推奨量240µg/日の88%)で揃いますが、ビタミンCは夏採り20mg・冬採り60mgと3倍の開きがあります。成分表が夏採りと冬採りを分けて収載しているのは、まさにこの差があるからです。一方でアサイーはクエン酸0.2gを併せ持ち、フェルラ酸の顔ぶれの中では果実らしい酸味の系統として独自の立ち位置にあります。

まとめ

フェルラ酸の上位食品を眺めると、皮をむくだけのネーブルと、下茹でというひと手間が必要なほうれんそうという、対照的な2つのタイプが見えてきます。同じ「フェルラ酸が多い」でも、扱い方まで含めて覚えておくと、日々の食卓での選び方に少し幅が出そうです。もっとも、フェルラ酸そのものはどの食品でもミリグラム単位のごく微量な成分です。数字の大小だけでなく、その成分が食品全体の中でどれだけの位置を占めるのかまで見ておきたいところです。

出典:食品安全委員会ファクトシート(硝酸塩)、日本食品標準成分表(八訂)、日本人の食事摂取基準(2025年版)

※本記事は特定の食品の効果・効能を示すものではありません。

※本記事は日本食品標準成分表(八訂)および日本人の食事摂取基準(2025年版)のデータ等をもとに作成しました。