日本主導:この研究は、筆頭著者・責任著者、または著者の主要所属が日本の研究機関である研究です。
掲載誌:BMJ paediatrics open
ライセンス: CC BY-NC 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
妊娠中の食事が子どもの発育に影響を与えることは広く知られていますが、「食物繊維」と子どもの行動特性との関係に着目した研究が注目されています。お腹の中にいる時期から、母親の食事が子どもの将来にどう関わるのか——最新の研究が、その一端を照らし始めています。
研究でわかってきたこと
九州・沖縄地域の母子を対象とした「九州沖縄母子保健研究」では、1,199組の母子ペアのデータをもとに、妊娠中の母親の食物繊維摂取量と、5歳時点での子どもの行動特性との関連が調べられました。この研究は2026年5月に医学誌『ビーエムジー小児科オープン』に掲載されたものです。
研究では、子どもの行動を「情動の問題」「行為の問題」「多動性の問題」「仲間関係の問題」「向社会的行動の低さ」の5つの観点から評価しました。その結果、妊娠中に食物繊維を多く摂取した母親の子どもは、多動性の問題や向社会的行動の低さのリスクが低い傾向にあると報告されています。特に食物繊維の摂取量が最も多いグループと最も少ないグループを比較すると、多動性の問題については調整オッズ比が0.55(95%信頼区間:0.33〜0.90)、向社会的行動の低さについては0.64(同:0.44〜0.93)と示されており、統計的に有意な関連が示唆されています。
また、水溶性食物繊維(食品が水に溶ける性質を持つもの)は多動性の問題と、不溶性食物繊維(水に溶けにくい性質を持つもの)は多動性の問題と向社会的行動の低さの両方と、それぞれ独立した関連が認められたとも報告されています。なお、この研究は観察研究であり、食物繊維が直接的に行動に影響を与えると断定するものではありません。生活習慣や他の食事要因など、さまざまな交絡因子が関わる可能性もあり、今後のさらなる研究が待たれます。
注目の食品と実測データ
食物繊維を豊富に含む食品は、私たちの日常の食卓に多く存在しています。今回の研究テーマに関連して、食物繊維を含む代表的な食品の特徴をご紹介します。
最新の日本食品標準成分表(八訂)(出典:文部科学省)によると、食物繊維を多く含む食品の例として、ごぼう(水煮)には100gあたり総食物繊維が約5.7g、ほうれん草(生)には約2.8g、納豆には約6.7g、乾燥ひじきには約51.8g(出典:文部科学省「日本食品標準成分表2020年版(八訂)」)などが知られています。野菜・豆類・海藻類・きのこ類はいずれも食物繊維の供給源として注目される食品群です。
水溶性食物繊維と不溶性食物繊維の両方をバランスよく摂ることが大切とされており、食品によってその比率は異なります。例えば大麦やオーツ麦は水溶性食物繊維が比較的多く、ごぼうや玄米は不溶性食物繊維が豊富とされています。妊娠中は食事の選択に悩む場面も多いですが、こうした食品の特性を知っておくことは、食事選びの参考になるでしょう。
日々の食事に取り入れるヒント
食物繊維を日々の食事に無理なく取り入れるためのヒントをいくつかご紹介します。
- 主食を一部置き換える:白米の代わりに麦ご飯や玄米を取り入れることで、不溶性食物繊維の摂取量を増やすことができます。最初は少量の大麦を混ぜるだけでも始めやすいでしょう。
- 汁物に野菜や海藻を加える:みそ汁にわかめや根菜(ごぼう、にんじんなど)を加えると、手軽に食物繊維をプラスできます。具だくさんの汁物は水溶性・不溶性どちらの食物繊維も摂りやすい方法です。
- 豆類を活用する:納豆・豆腐・煮豆などの大豆製品は食物繊維だけでなくたんぱく質も含むため、妊娠中の栄養補給として取り入れやすい食品です。
- きのこ類を常備する:しいたけやえのきなどのきのこ類は、炒め物・鍋・スープなど幅広い料理に活用でき、食物繊維を手軽に補える食材です。
- 食べすぎに注意:食物繊維は過剰に摂ると消化器への負担になることもあります。最新の日本人の食事摂取基準(厚生労働省)を参考にしながら、バランスを意識した摂取を心がけましょう。
妊娠中の栄養管理は、母体の健康を守るうえでも大切な取り組みです。今回ご紹介した研究は、食物繊維の豊富な食事が子どもの行動特性に関連している可能性を示す興味深い知見ですが、あくまで観察研究の結果であり、食物繊維だけが行動に影響するわけではありません。野菜・豆類・海藻・きのこ・全粒穀物など、さまざまな食品を組み合わせたバランスのよい食生活を、毎日の食卓の基本として大切にしていきたいものです。妊娠中の方は、かかりつけの医師や管理栄養士にも相談しながら、自分に合った食事スタイルを見つけていただければと思います。
※本記事は日本食品標準成分表(八訂)のデータ等をもとに作成しました。出典(原著論文):Maternal dietary fibre intake during pregnancy and behavioural problems in 5-year-old children: the Kyushu Okinawa Maternal and Child Health Study(ビーエムジー小児科オープン(2026-05-21))
著者:Keiko Tanaka(5 Department of Animal Model Development, Brain Research Institute, Niigata University, Niigata, Japan)、Mai Quynh Nguyen(Wellness Science Labs, Meiji Holdings Co., Ltd, Tokyo, Japan)、Yoshihiro Miyake(Research Promotion Unit, Translational Research Center, Ehime University Hospital, Ehime, Japan)、Shizuka Hasuo(Wellness Science Labs, Meiji Holdings Co., Ltd, Tokyo, Japan)、Keiji Takahashi(R&D Division, Meiji Co., Ltd, Tokyo, Japan)、Midori Natsume(Wellness Science Labs, Meiji Holdings Co., Ltd, Tokyo, Japan)、Hitomi Okubo(Department of Nutritional Epidemiology and Behavioural Nutrition, Graduate School of Medicine, The University of Tokyo, Tokyo, Japan)