著者の所属・活動拠点の国は、スペイン、イタリアです。
掲載誌:Antioxidants
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究のねらい
小麦などに含まれるたんぱく質「グルテン」を避けるグルテンフリー食品の需要が広がっています。セリアック病の人にとって、グルテンを除いた食事は現在唯一の有効な治療法とされています。一方で論文によれば、市販のグルテンフリー焼き菓子は、食物繊維やたんぱく質、ミネラル、生理活性をもつ成分が少なく、糖分やカロリーが多くなりやすいという栄養面の課題が指摘されています。
研究チームが注目したのは、ヒラタケ(Pleurotus ostreatus)の栽培や加工で出る副産物です。柄の部分や菌糸体などの副産物は、食物繊維、たんぱく質、ミネラル、ポリフェノールを多く含むとされ、キノコ産業では大量に発生しています。著者らは、この副産物に超音波を当てて成分を取り出す「超音波アシスト抽出」を行い、グルテンフリークッキーの材料として使えるかを調べました。超音波アシスト抽出は、液体中に生じる微小な気泡の破裂によって細胞を壊し、成分を溶け出しやすくする手法で、溶媒やエネルギーの使用を抑えられる方法として紹介されています。
何を調べたか
研究チームは、主に菌糸体と柄からなるヒラタケ副産物を乾燥させて粉にしたもの(未処理の粉)と、この粉をエタノールと水の混合液中で超音波処理し、得られた抽出液を凍結乾燥して粉にしたもの(超音波処理の粉)の2種類を用意しました。
クッキーは、テフ粉とイナゴマメ(キャロブ)粉を主体にした小麦粉不使用の配合で作りました。副産物を加えない対照クッキーに加え、2種類の粉をそれぞれ粉類の重量に対して4%または8%上乗せしたクッキー計4種類を作りました。さらに、地元のスーパーマーケットで入手できる市販のグルテンフリーのチョコチップクッキーとも比較しています。
調べた項目は、たんぱく質や脂質、食物繊維などの基本的な栄養組成、ミネラル含量、抗酸化能、ポリフェノールの総量、そして消費者パネルによる官能評価です。さらに、試料に含まれるフェノール化合物を網羅的に検出する「メタボロミクス」と呼ばれる分析も行い、成分の構成がどのように変わったかを調べました。
主な結果
まず副産物の粉どうしを比べると、超音波処理の粉は未処理の粉よりもたんぱく質が多く(100gあたり13.86g対8.79g)、水に溶ける水溶性食物繊維は約2倍(13.38g対6.26g)でした。一方、水に溶けない不溶性食物繊維は未処理の粉のほうが3倍以上多く含まれていました。亜鉛、銅、マンガン、カリウムなどのミネラルも、超音波処理の粉のほうが多く含まれていました。ただし著者らは、超音波処理の工程には溶媒による抽出やろ過も含まれており、これらの違いが超音波そのものによるのか抽出工程によるのかは区別できないと述べています。網羅的な成分分析では、超音波処理によって分子量の小さいフェノール酸類が選択的に増えたことが報告されています。
クッキーでは、副産物の粉の違いは部分的にしか反映されませんでした。著者らは、テフ粉やイナゴマメ粉がもともとたんぱく質や食物繊維を多く含むため、副産物の寄与が相対的に小さくなった可能性を挙げています。それでも、副産物を加えたすべてのクッキーは100gあたり6g以上の食物繊維を含み、欧州連合の規則で「食物繊維が豊富」と表示できる基準を満たしていました。鉄も、副産物を加えたすべてのクッキーで欧州の「鉄の供給源」と表示できる基準(100gあたり2.1mg)を上回りました。なお、鉄が最も多かったのは副産物を加えていない対照クッキーでした。
市販品と比べると、研究チームが作ったクッキーはたんぱく質と食物繊維が多く、市販品のほうが炭水化物、エネルギー、ナトリウムは多い結果でした。網羅的な成分分析でも、副産物を加えたクッキーではフェノール化合物の種類と量がより多いことが確認され、超音波処理の粉を使うとフェノール酸類が増えたと報告されています。
一方、抗酸化能については、副産物を加えても対照クッキーと比べて一貫した向上はみられず、超音波処理の粉を4%加えたクッキーではポリフェノール総量の測定値がむしろ対照より低くなりました。著者らは、焼成による成分の変化や、たんぱく質・でんぷん・食物繊維との結びつきによって測定時に成分が取り出しにくくなった可能性などを挙げています。また、市販品との違いは副産物の添加だけでなく、レシピ全体の違いも反映しているため、慎重に解釈すべきだと述べています。
この研究が示すこと
この研究は、通常は廃棄されがちなヒラタケの副産物を、グルテンフリー焼き菓子の栄養面を補う素材として活用できる可能性を示しています。超音波処理によって副産物の食物繊維の性質やミネラル、フェノール化合物の構成が変わることが確認された一方で、クッキーとして焼き上げた段階ではその違いが一部しか残らないことも明らかになりました。著者らは、超音波処理したキノコ副産物を、添加物に頼らずにグルテンフリー焼き菓子の栄養価と成分構成を高める一つの方法として位置づけています。
原著論文の著者・所属:Jhazmin Quizhpe(Department of Food Technology, Food Science and Nutrition, Faculty of Veterinary Sciences, Regional Campus of International Excellence “Campus Mare Nostrum”, University of Murcia, Espinardo, 30100 Murcia, Spain)、Rocío Peñalver(Department of Food Technology, Food Science and Nutrition, Faculty of Veterinary Sciences, Regional Campus of International Excellence “Campus Mare Nostrum”, University of Murcia, Espinardo, 30100 Murcia, Spain)、Pablo Ayuso(Department of Food Technology, Food Science and Nutrition, Faculty of Veterinary Sciences, Regional Campus of International Excellence “Campus Mare Nostrum”, University of Murcia, Espinardo, 30100 Murcia, Spain)、Leilei Zhang(Department for Sustainable Food Process, Università Cattolica del Sacro Cuore, Via Emilia Parmense 84, 29122 Piacenza, Italy)、Pascual García-Pérez(Department of Food Technology, Food Science and Nutrition, Faculty of Veterinary Sciences, Regional Campus of International Excellence “Campus Mare Nostrum”, University of Murcia, Espinardo, 30100 Murcia, Spain)、Luigi Lucini(Department for Sustainable Food Process, Università Cattolica del Sacro Cuore, Via Emilia Parmense 84, 29122 Piacenza, Italy)、Gema Nieto(Department of Food Technology, Food Science and Nutrition, Faculty of Veterinary Sciences, Regional Campus of International Excellence “Campus Mare Nostrum”, University of Murcia, Espinardo, 30100 Murcia, Spain)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Jhazmin Quizhpe, Rocío Peñalver, Pablo Ayuso, et al. Ultrasound-Assisted Extraction of Pleurotus ostreatus By-Products for the Development of Nutritionally Enhanced Gluten-Free Cookies: Nutritional, Sensory, and Metabolomic Insights. Antioxidants 2026-10-19. DOI: 10.3390/antiox15101347. 原著ライセンス:CC BY.