アラキドン酸——聞き慣れない名前だと思います。食品の栄養表示にも出てきませんし、日々の食事で意識する成分ではありません。それでも、卵やレバーを食べるたびに、私たちは知らずにこの脂肪酸を口にしています。もとをたどればリノール酸という脂肪酸で、体はこれを材料にしてアラキドン酸を自分でつくります。だから食事摂取基準には、この成分の推奨量も目安量も定められていません。細胞膜に含まれるアラキドン酸からは、プロスタグランジンやロイコトリエンといった物質がごく微量つくられ、炎症や血圧、筋肉の収縮などに関わる生理作用を示すとされています。神経組織をつくる重要な脂質ともされる成分です。
「どのくらい摂ればいいか」の物差しがない成分は、かえって「どこに多いのか」を数字で眺めてみる面白さがあります。並べてみると、顔ぶれは意外に偏っていて——そしてその裏に、見落としやすい事実が一つ隠れています。
アラキドン酸が多い食品トップ5
日本食品標準成分表でこの成分の値がある987食品のうち、可食部100gあたりの量が多い上位5食品です。
- 第1位 鶏卵 卵黄 乾燥卵黄 1100mg
- 第2位 鶏卵 全卵 乾燥全卵 700mg(推定値)
- 第3位 ぶた スモークレバー 670mg
- 第4位 あんこう きも 生(あん肝) 660mg
- 第5位 鶏卵 卵黄 生 520mg
5つのうち3つが卵、残り2つが肝臓——豚のレバーとあんこうの肝です。乾燥卵黄・乾燥全卵の数字が大きいのは、水分が抜けて濃縮された乾燥品だから。生の卵黄でも520mgと、乾燥品に迫る量があります。脂の多い卵黄と、肝臓。この二種類に集中しているのが、アラキドン酸の顔ぶれです。
あん肝の同じ100gに、同居しているもの
ここからが、見落としやすい事実です。第4位のあん肝は、アラキドン酸660mgと同じ100gの中に、レチノール8300µgとビタミンD110µgを含んでいます。あん肝の目安量は1切れ約50gですから、1切れならどちらも半分ほど。それでもレチノールは、半分にしてもなお耐容上限量2700µgRAE/日を上回る水準です。あん肝を一切れ食べれば、この順位表には出てこない脂溶性のビタミンが、しかもたっぷり付いてくる——順位表を眺めるときに、いっしょに知っておいてよい数字です。(あん肝にはイコサペンタエン酸(EPA)も3000mg含まれていて、いかにも脂の多い肝臓らしい脂肪酸の顔ぶれです。EPAはn-3系の多価不飽和脂肪酸で、血中の中性脂肪との関わりが研究されている脂肪酸として知られています。)
では第3位のスモークレバーは。レチノールは17000µg——あん肝をさらに上回り、耐容上限量2700µgRAE/日の約6.3倍です。もちろん可食部100gあたりの数字ではありますが、桁が違います。加えてビタミンB2が5.17mg(女性30〜49歳の推奨量1.2mg/日を大きく超える)、パントテン酸7.28mg(目安量5mg/日を上回る)、鉄20.0mg。ビタミンB2は多くの栄養素の代謝に関わり皮膚や粘膜の健康維持を助けるとされ、パントテン酸はコエンザイムAの構成成分として糖・脂肪酸の代謝に関わるとされる栄養素です。レバーが「栄養の塊」と呼ばれる理由が、そのまま数字に出ています。
卵は穏やか
いっぽう卵の3食品は、レチノールがはるかに穏やかです。乾燥全卵でもレチノール420µg、ビタミンB2は1.24mgと推奨量をやや上回る程度。アラキドン酸の量では肝臓に引けを取らないのに、脂溶性ビタミンの偏りは小さい。同じ上位でも、性格がまるで違うのです。
まとめ
アラキドン酸の多い食品は、卵黄・全卵と、レバー・あん肝という肝臓に集まっていました。そして肝臓の2つでは、レチノール(あん肝ではビタミンDも)が耐容上限量を超えるほど濃くなっている。ここが、この順位表を読むときの一番の注意点です。
あん肝もスモークレバーも、少しで満足のいく濃い味の食品です。毎日の主菜にするより、たまの一皿として少量を味わう食べ方が向いていそうです。卵は脂溶性ビタミンの偏りが穏やかなぶん、普段の食卓に置きやすい。内臓は控えめに、卵は普段使いに。順位表の裏側まで見たとき、数字が教えてくれるのはそういう付き合い方でしょう。
【摂取量の目安】ぶた [その他] スモークレバーは、ビタミンA(レチノール)が100gで耐容上限量2700μgRAEの約6.3倍、1個(約200g)で約12.6倍にあたります。 あんこう きも 生は、ビタミンA(レチノール)が100gで耐容上限量2700μgRAEの約3.1倍、1切れ(約50g)で約1.5倍にあたります。 あんこう きも 生は、ビタミンDが100gで耐容上限量100μgの約1.1倍、1切れ(約50g)で約0.6倍にあたります。 ビタミンA・Dは脂溶性で体に蓄積しやすいため、多量・連日の摂取やサプリメント併用、妊娠中は過剰摂取に注意が必要とされます(通常の食事で時折とる分には問題になりにくいとされます)。
※本記事は日本食品標準成分表(八訂)および日本人の食事摂取基準(2025年版)のデータ等をもとに作成しました。
栄養素のはたらき・摂取基準の記述は、次の公的資料に基づきます:厚生労働省 食事摂取基準