「アラキドン酸」という名前は耳慣れないかもしれませんが、私たちの体の細胞膜を構成する脂肪の一種です。n-6系(えぬろくけい)の多価不飽和脂肪酸に分類され、体内ではプロスタグランジンやロイコトリエンといった、ごく微量で炎症・血圧・平滑筋の収縮などに関わるホルモン様物質の材料になることが知られています。また、神経組織の重要な構成脂質でもあることが公的に認められています。食事から摂るリノール酸(植物油に多い脂肪酸)が体内でアラキドン酸に変換される経路もあり、レバー・卵・魚の肝などに特に多く含まれる成分です。

日本人の食事摂取基準には、アラキドン酸の推奨量・目安量といった定量的な基準は設定されていません。そのため「1日◯mg必要」という数値はなく、過不足を数値で管理するより、どんな食品に多く含まれるかを知ることが実践的な手がかりになります。今回は日本食品標準成分表(八訂)の収載食品から、アラキドン酸が多い上位5食品を読み解いてみます。

上位5食品を読み解く

第1位・第2位:乾燥卵が上位を占める

首位は卵黄の乾燥品で、100gあたり1100mg。2位の全卵の乾燥品は推計値で(700)mgです。どちらも「乾燥」、つまり水分を飛ばして粉末にした加工品で、成分が凝縮されているために高い数値が出ています。乾燥卵黄はお菓子や加工食品の原料として使われることが多く、一度に100g食べる機会はほとんどありません。数値の大きさはあくまで「密度の高さ」として受け取るとよいでしょう。

第3位:豚のスモークレバー——栄養の密度が際立つ加工品

3位に入ったのは豚のスモークレバーで、100gあたり670mg。レバー(肝臓)はもともとアラキドン酸を多く含む部位ですが、スモーク加工によって水分が減り、さらに濃縮された形になっています。

ここで注意が必要なのがビタミンA(レチノール)です。この食品は100gあたり17000µgのレチノールを含み、耐容上限量(これを超えると健康への悪影響が懸念される量)である3000µg/日(日本人の食事摂取基準・成人)の約5.7倍(17000÷3000)に相当します。この17000µgは可食部100gあたりの値であり、日常的に多量を食べると過剰摂取になるリスクがあります。おつまみとして少量を楽しむ分には問題になりにくいですが、食べすぎには注意が必要です。妊娠中の方はビタミンAの過剰摂取により胎児に影響が出る可能性があるため、レバー類やあん肝は控えることが推奨されます。

第4位:あんこうのきも——海の食品から唯一のランクイン

4位はあんこうのきも(生)で100gあたり660mg、一般的な提供量を50gと仮定すると約330mgと換算できます。上位4品の中で魚介類はここだけ。あん肝は「海のフォアグラ」とも呼ばれる濃厚な脂肪を持つ部位で、アラキドン酸のほかDHAも100gあたり5100mgと豊富です。

ただし、ビタミンA(レチノール)が100gあたり8300µg含まれ、耐容上限量3000µg/日(日本人の食事摂取基準・成人)の約2.8倍(8300÷3000)に相当します。一般的な提供量を50gと仮定すると約4150µgとなり、それだけで耐容上限量3000µgを超える計算になります。また、ビタミンDも100gあたり110µgと非常に高い水準で、耐容上限量100µg/日をわずかに超える量です。一般的な提供量を50gと仮定すると約55µgと耐容上限量以内になりますが、複数切れや他のビタミンD供給源(魚類・卵など)と合わせると超過しうる点には留意が必要です。

第5位:生の卵黄——日常の食卓で最も身近な供給源

5位は生の卵黄で100gあたり520mg、Mサイズ1個分の卵黄(約20g)では約104mgになります。乾燥品と比べれば数値は低いものの、毎日の食卓に登場しやすい点では5品の中で最も身近な存在です。卵黄はアラキドン酸とともにコレステロールも多い食品ですが、食事と血中コレステロールの関係は個人差も大きく、量と頻度のバランスを考えながら取り入れるのが現実的です。なお、脂質異常症や心血管疾患のリスクがある方は、医師や管理栄養士に相談のうえ摂取量を判断してください。

まとめ

上位5品を並べると、乾燥卵・スモークレバー・あん肝という「濃縮・加工・特定部位」の食品が顔をそろえています。アラキドン酸は通常の日本食で不足しにくい成分であり、特定の食品を意識して増やすより、多様な食品をバランスよく組み合わせることが基本です。一方、同時に多く含まれるビタミンAやビタミンDには耐容上限量が設定されており、特にレバーやあん肝を日常的に多量に食べることは過剰摂取につながる可能性があります。素材の豊かさを楽しむ特別な一品として、適度な量で味わうのが現実的な距離感といえるでしょう。

参考:日本食品標準成分表(八訂)/日本人の食事摂取基準

※本記事は日本食品標準成分表(八訂)および日本人の食事摂取基準(2025年版)のデータ等をもとに作成しました。