著者の所属・活動拠点の国は、中国です。
掲載誌:BMC Psychiatry
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
思春期の大うつ病性障害(以下、うつ病)は世界的に増えており、心と体の発達に大きな影響を与えます。うつ病の若者には、体内で弱い炎症が長く続く「低度の慢性炎症」がよく見られ、症状の重さとも関係すると報告されてきました。食事は一生続く身近な要因であり、炎症に影響し得るものの一つと考えられています。
研究チームはこの点に注目しました。食事の炎症を起こしやすさを数値で表す「食事炎症指数(DII)」を使い、中国北部の若者について、食事の炎症傾向や個々の栄養素の摂取量が、うつ病のリスクや重さとどう関係するかを調べました。著者らによると、中国北部の若者を対象にしたこの種のデータは限られていました。
どのように調べたか
研究は2022年3月から2023年10月にかけて、山西医科大学第一医院で行われました。うつ病と診断され、まだ治療を受けていない10〜23歳の患者172人を対象にしました。比較のため、年齢と性別をそろえた健康な若者172人も加えています。このように、病気のある人とない人を比べて違いを探す方法を「症例対照研究」と呼びます。
食事の内容は、149品目を含む中国人向けの食物摂取頻度調査票を使い、対面の聞き取りで調べました。量を正確に見積もるため、標準化した食品写真や家庭用の計量器具も使われました。この情報から、エネルギー量の違いを調整した食事炎症指数(E-DII)を計算しました。E-DIIは値が高いほど炎症を促しやすい食事、低いほど炎症を抑えやすい食事を表します。うつ症状の重さは、精神科医がハミルトンうつ病評価尺度(HAMD)で評価しました。
分析では、年齢、性別、教育歴、体格指数(BMI)、家族歴などの影響を統計的に調整しました。そのうえで、E-DIIや各栄養素とうつ病との関連の強さを「オッズ比」で表しています。オッズ比は1より大きいとうつ病の人に多く見られる傾向、1より小さいと少ない傾向を意味します。
主な結果
E-DIIの平均値は、うつ病の群で2.49、健康な群で−0.16でした。うつ病の若者のほうが、炎症を促しやすい食事をしていたことになります。E-DIIが高いほどうつ病である可能性が高く、交絡要因を調整した後のオッズ比は3.23でした。参加者をE-DIIの値で3つのグループに分けた分析でも同じ傾向が見られました。最も高いグループでは、最も低いグループに比べてうつ病である可能性が大きく高いと報告されています。
個々の栄養素を見ると、ビタミンB12、食物繊維、亜鉛、多価不飽和脂肪酸、葉酸、アントシアニン(植物に含まれる色素成分)の摂取量が多いほど、うつ病のリスクは低い関係にありました。反対に、炭水化物、セレン、アルコールの摂取量が多いほど、リスクは高い関係にありました。
摂取量とリスクの関係の「形」も調べられました。多価不飽和脂肪酸、アントシアニン、ビタミンB12、アルコールでは、摂取量に比例しない曲線的な関係が示されました。セレン、亜鉛、葉酸、炭水化物、食物繊維では、ほぼ直線的な関係が示されました。
症状の重さとの関係では、重症になるほどE-DIIが高くなる傾向がありましたが、統計的に意味のある差ではありませんでした。一方、うつ病の群では、重症な人ほど1日の総エネルギー摂取量が多くなっていました。調整後の分析では、エネルギー摂取量が多いことは重症度と、鉄の摂取量が多いことは軽い症状と関連していました。
研究が示すこと
この研究は、中国北部の若者において、炎症を促しやすい食事とうつ病との間に関連があることを示しました。著者らは、地域ごとに食習慣が異なっても、食事の炎症傾向が思春期のうつ病と関わり得ることを示す新たな証拠だと位置づけています。また、早い段階で食事を評価し、炎症を抑える食事を勧めることが、うつ病のリスクを下げるための補助的な取り組みになり得ると述べています。
ただし、この研究はうつ病のある人とない人の食事を比べたものです。示されたのは関連であり、食事がうつ病を引き起こすことを直接証明したものではありません。それでも、若者の心の健康を考えるうえで、日々の食事の中身が見逃せない要素の一つであることを伝える研究だといえます。
原著論文の著者・所属:Junxiang Cheng(Department of Psychiatry, The First Hospital of Shanxi Medical University, Taiyuan, 030001, China)、Ning Ma(Department of Neurosurgery, Shanxi Cardiovascular Hospital, Taiyuan, 030024, China)、Qia liu(School of Nursing, Shanxi Medical University, Taiyuan, 030001, China)、Guofang Yang(School of Nursing, Shanxi Medical University, Taiyuan, 030001, China)、Chenjing Ma(School of Nursing, Shanxi Medical University, Taiyuan, 030001, China)、Hong Han(Department of Magnetic Resonance Imaging, Shanxi Bethune Hospital, Taiyuan, 030032, China)、Na liu(Department of Plastic Surgery, The First Hospital of Shanxi Medical University, Taiyuan, 030001, China)、Zhifen Liu(Department of Psychiatry, The First Hospital of Shanxi Medical University, Taiyuan, 030001, China; Shanxi Key Laboratory of Artificial Intelligence Assisted Diagnosis and Treatment for Mental Disorder, Taiyuan, 030001, China)、Shifan Han(Department of Psychiatry, The First Hospital of Shanxi Medical University, Taiyuan, 030001, China)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Junxiang Cheng, Ning Ma, Qia liu, et al. The relationship between dietary nutrient intake and adolescent depression based on the dietary inflammation index: a case-control study. BMC Psychiatry 2026-08-03. DOI: 10.1186/s12888-026-08425-y. 原著ライセンス:CC BY.