著者の所属・活動拠点の国は、ウズベキスタンです。
掲載誌:Modern American Journal of Medical and Health Sciences
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
寒いリンクでも水分管理が必要な理由
アイスホッケーは冷えたリンクで行われるため、汗をかいて水分を失う心配は少ないと思われがちです。著者らはこの思い込みに注目し、思春期の選手の水分補給をどう考え、どう支えるべきかを整理しました。
ホッケーでは、短い出場時間(シフト)の中で加速や急な方向転換を全力で繰り返し、休む時間は限られています。さらに選手は防具を身につけているため、寒い環境でも体に熱がこもり、汗をかきやすくなります。論文は、カナダのエリート男子ジュニア選手を対象とした既存の研究を紹介しています。この研究では、激しい氷上練習中の発汗量に選手ごとの差があり、飲み物を自由に飲める状況でも、体重の1%を超える水分を失った選手がかなりの数いたと報告されています。著者らはこの報告を例に、気温が低いことだけを理由に水分の必要量は小さいと決めつけるべきではないと指摘しています。
一方で、1日に必要な水の量は食事、気候、体の大きさ、活動量によって変わります。そのため、全員に共通の「1日何リットル」という目標では、一人ひとりの必要量を正確に示せません。著者らは、無理に飲ませることや、不要な刺激物・糖分の摂取を避けながら、普段どおりの水分状態と練習の安全を保つことを目標に掲げています。
どのように調べたか
この論文は、新たに選手を集めて測定や調査を行った研究ではなく、既存の知見をまとめた「ナラティブレビュー」です。ナラティブレビューとは、関連する文献を著者らが選んで読み解き、論点を整理する総説のことです。今回は、スポーツ医学の専門団体による見解(ポジションステートメント)、子ども向けの飲み物に関する推奨、ホッケー選手を対象とした観察研究などが検討されました。
著者らによれば、ホッケー選手を対象とした既存の研究は、練習や試合中に水分やナトリウム(塩分の成分)がかなり失われることを報告しています。ただし、対象者や測定方法は研究ごとに異なります。そのため著者らは、これらの結果を全ての思春期の選手に当てはまる一つの摂取量に置き換えるべきではないとしています。
レビューが示した主なポイント
まず、水分は不足しても摂りすぎても害になり得るという点です。練習後の体重がほとんど減っていない選手でも、練習を始める時点ですでに水分が足りていなかった可能性があります。逆に、飲みすぎると「運動関連低ナトリウム血症」の危険が高まることがあります。これは、水分を摂りすぎて血液中のナトリウム濃度が下がりすぎる状態です。
次に、疲労の原因は一つではないという点です。疲れは練習の負荷、睡眠、体調不良、エネルギー不足、ストレス、体力などさまざまな要因で起こり、脱水はその一つにすぎません。アンケートで「飲む量」と「疲れ」に関連が見られても、飲む量の少なさが疲れの原因だとは言えません。著者らは、疲れているというだけで脱水と判断せず、複数回の練習を通じた傾向を見るよう勧めています。
そのうえで論文は、練習の「前・中・後」に分けた簡単な枠組みを提案しています。練習前は、普段から規則正しく食事をとって水分を摂り、水をすぐ飲める状態にしておくことが基本です。直前に少し飲むだけでは、1日を通じた不足は補えないとしています。練習中は、休憩時に飲む機会を設けてのどの渇きに応じて飲めるようにし、あらかじめ決めた大量の水を飲むよう強制しないことが求められます。練習後は、水と普段の食事や軽食で回復を支えます。練習前後に体重を測って変化を見る方法を使う場合は、本人の同意のもと、プライバシーを守り、訓練を受けた人が結果を解釈すべきだとしています。また、体重測定が減量の手段になったり、選手が恥ずかしい思いをする原因になったりしないよう注意を促しています。
飲み物の選び方についても整理されています。ほとんどの若い選手にとって、日常的な水分補給には水が適しています。炭水化物と電解質を含むスポーツドリンクは、長時間の激しい運動では役立つことがあるものの、普段の練習では一般に必要ないとされています。一方、カフェインなどの刺激物を含むエナジードリンクはスポーツドリンクとはまったく別物で、思春期の選手には適さないとしています。「スポーツ」「パフォーマンス」といった表示があっても、未成年に適した飲み物とは限りません。著者らは、成分や1回分の量、カフェイン量を確認することを勧めています。
体調の見守り方については、「過度に医療的にしない」ことが重視されています。指導者は、水を飲める環境があったか、休憩がとれたか、同じ症状が繰り返されていないかを記録できます。尿の色などは参考にはなりますが、測るタイミングや食事、サプリメントの影響を受けるため、一つの指標だけで判断すべきではないとしています。めまい、意識の混乱、失神、嘔吐、激しい頭痛、倒れるといった症状があれば運動を中止して速やかに評価を受け、熱中症などが疑われる場合は緊急の医療対応が必要です。水分補給の助言はあくまで予防のためのもので、医療機関での診察の代わりにはならないと明記されています。
この研究が伝えること
著者らは、思春期のホッケー選手の安全な水分管理は、一人ひとりに合わせ、実践しやすく、大人の見守りのもとで行うものだと結論づけています。具体的には、いつでも水を飲める環境を整えること、決まったタイミングで飲み物休憩をとること、無理に大量に飲ませないこと、スポーツドリンクとエナジードリンクを区別すること、そして症状が繰り返される場合は脱水と決めつけずに原因を探ることが挙げられています。
なお、この論文は既存の文献をもとにした総説と実践の枠組みであり、体系的なレビューや診療ガイドライン、新たな現地調査ではありません。参考にしたホッケーの研究には小規模な研究や、成人・エリートジュニアに限った研究が含まれるため、14〜17歳の選手全般にそのまま当てはめるには限界があると、著者ら自身が述べています。それでも、「寒いから大丈夫」「とにかくたくさん飲めばよい」といった単純な考え方を見直し、水分補給を食事、回復、体調、練習環境と合わせて考える視点を示した点に、この論文の意味があります。
原著論文の著者・所属:Salomova F.I.、Yuldasheva M. I.(Tashkent State Medical University, Tashkent, Uzbekistan)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Salomova F.I., Yuldasheva M. I.. FLUID BALANCE AND RECOVERY IN ADOLESCENT ICE HOCKEY PLAYERS. Modern American Journal of Medical and Health Sciences 2026-10-18. DOI: . 原著ライセンス:CC BY.