著者の所属・活動拠点の国は、サウジアラビア、セーシェル、エジプトです。
掲載誌:Frontiers in Nutrition
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
クローン病は、口から肛門までの消化管のどこにでも慢性的な炎症が起こりうる病気で、炎症性腸疾患の一つです。腹痛や下痢、体重減少などを伴い、若い成人で発症することが多く、長期の治療が必要になる場合もあります。かつては北米や欧州に多い病気とされてきましたが、アラブ地域を含め、これまで少なかった地域でも負担が増えていると論文は述べています。その背景として、伝統的な食事から欧米型の食習慣への移行が挙げられています。
食事は遺伝的な体質と違い、変えられる可能性がある要因として注目されています。研究チームはこれまで、同じサウジアラビアの病院データを使い、個々の食品とクローン病との関連を調べてきました。しかし、人は食品を単独ではなく組み合わせて食べています。そこで今回は、個々の食品に加えて、複数の食品を合わせた「食事パターン」とクローン病との関連を調べ、男女別の分析も行いました。
何をどのように調べたか
研究は、病気の人(症例)とそうでない人(対照)の過去の生活習慣を比べる「症例対照研究」という方法で行われました。対象は、2009年から2017年にリヤドの私立診療所を受診した成人で、新たにクローン病と診断された219人と、炎症性腸疾患以外の消化器の病気(主に胃腸炎)で受診した395人です。クローン病の診断は、大腸内視鏡検査と、採取した組織の病理検査の両方で裏付けられたものに限られました。
参加者は、検査結果が分かる前に質問票へ回答し、現在の症状が出る前の時期に、ファストフード、炭酸飲料、辛い食べ物、果物、野菜、乳製品、コーヒー、紅茶をどのくらいの頻度で食べたり飲んだりしていたかを答えました。頻度は「月1回以下」「週1回」「週2回」「毎日」の4段階で点数化されています。なお、量や総エネルギー、栄養素は尋ねておらず、あくまで摂取頻度のデータです。
研究チームは、ファストフード、炭酸飲料、辛い食べ物、果物の4品目を「リスクを高める側」、野菜、乳製品、コーヒー、紅茶の4品目を「保護的な側」と分類し、それぞれの平均点の高低を組み合わせて、参加者を4つの食事パターンに分けました。分析では、年齢、性別、体格指数(BMI)、喫煙、血液の炎症指標の影響を統計的に調整したうえで、「オッズ比」を求めました。オッズとは、ある状態である見込みを「そうである割合」と「そうでない割合」の比で表したもので、オッズ比はそれが条件によって何倍になるかを示します。確率そのものの比とは異なり、たとえばオッズ比が4であっても、クローン病になる確率が4倍という意味ではありません。オッズ比が1より大きければその特徴とクローン病との間に正の関連が、1より小さければ負の関連があることを示します。
主な結果
個々の食品では、ファストフード、炭酸飲料、辛い食べ物、果物をより頻繁にとっていることが、クローン病と関連していました。頻度の段階が1つ上がるごとのクローン病のオッズ比は、ファストフードで4.12、炭酸飲料で3.89、辛い食べ物で1.67、果物で3.48と報告されています。一方、野菜、乳製品、コーヒー、紅茶については、すべての要因を調整した後では有意な関連は見られませんでした。男女別に分けても、全体として大きな違いは認められませんでした。
食事パターンでは、「リスク側が多く保護側が少ない」パターンを基準にすると、リスク側の摂取が少ない人では、保護側が少なくても(オッズ比0.16)、多くても(オッズ比0.14)、クローン病のオッズが大幅に低くなっていました。反対に、保護側の食品を多くとっていても、リスク側の摂取も多い場合には、オッズの低下は見られませんでした(オッズ比1.15で有意差なし)。
果物とクローン病の正の関連は、果物の摂取が多いほど病気が少ない傾向を示してきた過去の研究とは異なる結果でした。著者らは、この結果を探索的なものとして扱い、病気が始まる前に食事を測る前向き研究での確認が必要だとしています。辛い食べ物についても、関連は比較的弱く、直接的な害を示すものではないと慎重な解釈を求めています。
この研究が示すこと
著者らは、今回調べた限られた食品の範囲では、「保護的」とされる食品を多くとることよりも、「リスクを高める側」に分類した食品の摂取が少ないことのほうが、クローン病とより強く関連していた可能性があると述べています。
ただし、食事は症状が出た後に思い出して答えてもらったものであり、症状が食事に影響した可能性や記憶の偏りは否定できません。対照も消化器の病気がある人たちで、データは一つの診療所から得たものです。著者らは、これらの結果を因果関係の証拠として解釈すべきではないと明記しています。この研究は、食品を個別に見るだけでなく組み合わせとして捉えることで、クローン病と食習慣の関連に新たな見方を加えたものといえます。
原著論文の著者・所属:Manal Malibary(Department of Food and Nutrition, Faculty of Human Sciences and Design, King Abdulaziz University; Food, Nutrition and Lifestyle Research Unit, King Fahd Medical Research Center, King Abdulaziz University)、Haytham A. Sheerah(Chief Executive Office, Public Health Authority; Population Health Deputyship, Ministry of Health)、Ahmed Arafa(Department of Public Health and Community Medicine, Faculty of Medicine, Beni-Suef University)、Mudi H. Alharbi(Clinical Nutrition Department, College of Applied Medical Sciences, Taibah University)、Norah Eid Aljohani(Clinical Nutrition Department, College of Applied Medical Sciences, Taibah University)、Maryam M. Alghamdi(Clinical Nutrition Department, College of Applied Medical Sciences, Taibah University)、Shoroog M. Allogmanny(Clinical Nutrition Department, College of Applied Medical Sciences, Taibah University)、Amnah N. Yamani(Center of Innovation in Personalized Medicine, King Fahd Medical Research Center, King Abdulaziz University)、Mustafa M. Shoqeair(Clinical Nutrition Department, King Khalid University Hospital, King Saud University Medical City)、Osama Z. Alzeer(Clinical Nutrition Department, King Khalid University Hospital, King Saud University Medical City)、Haneen N. Molla(Clinical Nutrition Department, King Khalid University Hospital, King Saud University Medical City)、Anas Almofarreh(The Investment Deputyship, Ministry of Health, Riyadh, Saudi Arabia)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Manal Malibary, Haytham A. Sheerah, Ahmed Arafa, et al. Food consumption and combined dietary patterns in relation to Crohn’s disease: a case–control study in Saudi Arabia. Frontiers in Nutrition 2026-10-23. DOI: 10.3389/fnut.2026.1989162. 原著ライセンス:CC BY.