この研究は、中国の研究機関の研究論文です。

掲載誌:Foods (Basel, Switzerland)

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: Europe PMC

研究の目的

植物由来の飲料への関心が高まる一方で、豆類には課題があります。研究チームは、豆類がたんぱく質や炭水化物、食物繊維、ミネラルに富む一方で、フィチン酸などの「抗栄養因子」と呼ばれる成分を含み、これがミネラルの利用効率を下げうることを背景として挙げています。フィチン酸はカルシウムやマグネシウム、亜鉛、銅、鉄といった金属イオンと結合して不溶性の複合体をつくるため、栄養素の吸収されやすさが低下すると説明されています。さらに豆類には豆臭さや青臭さといった独特のにおいがあり、これが受け入れられにくさにつながるとされています。

そこで著者らは、乳酸菌による発酵を用いて白いんげん豆をベースとした飲料(論文ではWKBBと表記)をつくり、発酵のやり方の違いが理化学的な性質、栄養面の特性、香りの成分、官能(味やにおいの好ましさ)にどのような影響を与えるかを調べることを目的としました。論文では、発酵は食品業界で広く使われる技術であり、風味の改善や保存性の向上、栄養価の向上、抗栄養因子の低減に役立つと位置づけられています。

何をどう調べたか

著者らは、白いんげん豆を重曹水に12時間浸してやわらかくし、水洗いした後、10分間加熱しました。これはリポキシゲナーゼという酵素を失活させて豆臭さを抑え、レクチンの活性を下げるための処理だと説明されています。その後、豆を水とともに粉砕して200メッシュのふるいでこし、砂糖を加えて殺菌したものを発酵の原料としました。

発酵には2種類の乳酸菌、Lactiplantibacillus plantarum(論文中の略号LP)とLimosilactobacillus fermentum(同LF)を用い、それぞれ単独で使う場合と、両方を混ぜて使う場合(同MIX)を比較しました。発酵していない対照サンプル(UF)も用意されています。発酵はpHが4.6に下がった時点を終了としました。

測定項目は多岐にわたります。発酵中のpHと生きた菌の数、酸度、可溶性のたんぱく質とペプチド、糖分、脂肪、フィチン酸、遊離アミノ酸の組成、走査型電子顕微鏡による微細構造、色などです。あわせて、口・胃・腸の消化を試験管内で再現する国際的な手順(INFOGEST法)を用いて、消化の各段階でポリフェノール(総フェノール)とフラボノイドがどれだけ取り出されるかを調べました。香り成分はガスクロマトグラフ質量分析(GC–MS)で分析し、官能評価は同大学の20名(女性10名・男性10名、23〜30歳)が、色・外観・味・におい・受容性について9段階の好意尺度で採点しました。

報告された主な結果

発酵の進み方には菌による差がみられました。LPとMIXは10時間でpH4.6に到達した一方、LFは11時間を要したと報告されています。生きた菌の数は最初の6時間はどの群でも増えましたが、その後LFでは減少に転じました。著者らは、pHが下がることによる酸のストレスがL. fermentumの代謝を妨げ、死滅が増殖を上回った可能性を挙げています。発酵終了時の菌数はいずれも8.22〜8.91 log CFU/mL(およそ10の8乗 CFU/mL)に達し、これは発酵食品がプロバイオティクスとしての働きをもつうえで十分と一般に考えられる範囲にあると述べられています。

理化学的性質では、発酵によって酸度が上がり、MIXが27.00 °Tと最も高くなりました。可溶性たんぱく質は発酵によって減り、MIXでは発酵前の4.08 mg/mLから1.74 mg/mLへと57.35%減少しました。一方で可溶性ペプチドは増え、MIXでは発酵前より16.03%多くなりました。著者らは、乳酸菌が成長のための窒素源を得るために自らの酵素で大きなたんぱく質を小さなペプチドへ分解する働きが、この逆向きの変化に部分的に関わっているとしています。総糖・脂肪・可溶性固形分・全固形分も発酵によって有意に減少したと報告されています。

抗栄養因子であるフィチン酸は、発酵前の7.00 mg/100 mLからすべての発酵サンプルで有意に減少しました。減少率はLPで9.86%、LFで10.71%、MIXではより大きく18.43%でした。著者らはこれに乳酸菌が生産するフィターゼという酵素が関与している可能性を挙げつつ、本研究ではフィターゼの活性そのものを測定していないため、その役割の確認は今後の課題だと明記しています。

遊離アミノ酸については、発酵によって総量が減少しました。とくに苦味をもつアミノ酸の減少が目立ち、LPで17.56%、LFで42.21%、MIXで32.49%少なくなりました。著者らは、微生物の酵素による脱アミノ・アミノ基転移・脱炭酸といった過程でアミノ酸が分解され、苦味が和らぐと同時に、アルデヒドやアルコール、酸などの香り成分が生じることで全体の風味が豊かになると説明しています。

消化の再現実験では、発酵によってフェノール類とフラボノイド類が消化の過程で取り出されやすくなったと報告されています。GC–MS分析では、発酵が香り成分の構成を変え、その種類の多様性を高めており、より複雑な香りのプロフィールにつながったとされています。官能評価では発酵したサンプルの全体的な評価が改善し、2菌株を混ぜた発酵でよりバランスのとれた品質になったと述べられています。

この研究が示すこと

著者らは、乳酸菌による発酵、とくに2菌株を組み合わせた発酵が、白いんげん豆をベースとした飲料をつくるうえで有望で持続可能な方法であり、植物由来資源の活用を進めるものだと結論づけています。

この研究が示しているのは、豆類が抱える二つの課題——ミネラルの利用を妨げる成分と、受け入れられにくい風味——に対して、発酵という一つの工程が同時に働きかけうるということです。数値の一つひとつよりも、栄養面の指標と風味の指標が同じ方向に動いたという点が、この報告の要点にあたります。

著者:Xu Y(Faculty of Food Science and Engineering, Kunming University of Science and Technology, Kunming 650500, China.)、Sun L(Faculty of Food Science and Engineering, Kunming University of Science and Technology, Kunming 650500, China.)、Gu Y(Faculty of Food Science and Engineering, Kunming University of Science and Technology, Kunming 650500, China.)、Zhuang Y(Faculty of Food Science and Engineering, Kunming University of Science and Technology, Kunming 650500, China.)、Liang H(Wuhan Customs Technology Center, Wuhan 430050, China.)、Ding Y(Faculty of Food Science and Engineering, Kunming University of Science and Technology, Kunming 650500, China.)、Fan X(Faculty of Food Science and Engineering, Kunming University of Science and Technology, Kunming 650500, China.)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Xu Y, Sun L, Gu Y, et al. Effects of Lactic Acid Bacteria Fermentation on the Physicochemical Properties, Nutritional Value, and Sensory Characteristics of a White Kidney Bean-Based Beverage. Foods (Basel, Switzerland) 2026-09-10. DOI: 10.3390/foods15183206. 原著ライセンス:CC BY.