掲載誌:Zenodo (CERN European Organization for Nuclear Research)
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
なぜ豚肉の「性質」に注目するのか
豚肉は世界で広く食べられている動物性食品で、風味、やわらかさ、ジューシーさ、栄養、料理への使いやすさが評価されています。この解説記事で著者は、豚肉の品質や売れ行きを左右する「物理化学的性質」を整理し、それが消費者の受け入れにどう関わるのかを論じています。物理化学的性質とは、色、pH(酸性度)、保水性、やわらかさ、筋肉内の脂肪、脂質の酸化、加熱による重量の減少(クッキングロス)など、測定できる肉の性質のことです。
記事によると、これらの性質は、と畜後に筋肉が食肉へ変わっていく過程で形づくられ、その後の加工、保存、調理によってさらに変化します。消費者は買う前には主に色や見た目で判断し、食べる段階ではやわらかさ、ジューシーさ、風味を重視します。著者は、品種や遺伝、年齢、性別、飼料、筋肉の部位、と畜前の扱い、冷却、保存条件などがいずれも品質の違いにつながりうると述べています。
色とpHが品質の鍵になる
著者はまず、消費者が最初に目にする「色」を取り上げています。豚肉の色は主に筋肉中で酸素を蓄えるたんぱく質ミオグロビンの状態で決まり、酸素と結びつくと鮮やかな赤みがかったピンク色に、酸化が進むと茶色っぽく変色します。保存中のこの変色は新鮮さの印象を損なうため、温度、酸素への接触、包装、光などの管理が重要だとされています。色は目視だけでなく、明るさ・赤み・黄色みを数値で表す機器測定によって、より再現性よく評価できると紹介されています。
次に重視されているのがpHです。と畜後、筋肉に蓄えられたグリコーゲンが乳酸に変わってpHが下がり、その下がり方が肉質を大きく左右します。筋肉の温度が高いうちにpHが急に下がると、たんぱく質が変性して、色が薄く、やわらかく、肉汁が出やすい「PSE肉」になります。反対に、と畜前にグリコーゲンが枯渇するなどしてpHが十分に下がらないと、色が濃く、硬く締まり、乾いた感じの「DFD肉」になります。DFD肉は水分を保つ力は高いものの、暗い色やべたつき、微生物が増えやすいことから、保存性や受け入れやすさが下がるとされています。著者は、決まった時点でpHを測ることが異常な肉の発見や品質予測に役立つと述べています。
保水性、やわらかさ、脂肪、酸化
保水性は、切る、押す、冷凍・解凍する、加熱するといった力が加わったときに、肉が水分を保てる能力です。ジューシーさや加工時の歩留まり、見た目、経済的価値に関わり、ハムやソーセージなどの加工品では特に重要とされます。記事では、pHが筋肉たんぱく質の性質を変えることで保水性が下がり、肉汁の流出(ドリップロス)や加熱時の減量が増えうると説明されています。
やわらかさについては、筋線維の種類、結合組織のコラーゲンの量や加熱での溶けやすさ、熟成中に肉自身の酵素が構造たんぱく質を分解する働き、筋肉内の脂肪(いわゆるサシ)などが関わるとされています。ただし、サシとやわらかさの関係は結合組織や調理法、熟成など他の要因にも左右されると著者は付け加えています。
脂肪は風味、香り、ジューシーさに寄与し、適度なサシは風味やジューシーさの向上と結びつくとされます。一方で、目に見える脂肪が多すぎると、脂肪やエネルギーの摂取を気にする消費者には敬遠されうるため、好みは製品の種類や文化、用途によって異なると述べられています。また、豚肉に含まれる不飽和脂肪酸は酸化しやすく、酸化が進むと不快なにおいや風味、変色、栄養の損失を招きます。著者は、飼料へのビタミンE添加、ローズマリー由来成分などの天然抽出物の研究、真空包装やガス置換包装、温度や光の管理を、酸化を遅らせる手段として紹介しています。
性質は互いにつながっている
著者が強調するのは、これらの性質が独立しておらず、互いに影響し合っているという点です。pHの低下はたんぱく質の働きを通じて色や保水性に影響し、保水性は肉汁の流出、加熱時の減量、ジューシーさ、歩留まりに関わります。熟成はやわらかさを高めますが、微生物や酸化の面で慎重な管理が必要です。また、色が魅力的でもやわらかさが劣れば満足につながらないように、受け入れやすさは見た目、食味、栄養への意識、安全性、価格、文化的な好みなどが重なった結果だとされています。
そのため著者は、ひとつの測定値に頼るのではなく、色の機器測定、pH、保水性、食感、酸化の指標、そして官能評価(人が実際に食べて評価すること)を組み合わせて品質を見るべきだとまとめています。この記事は、豚肉の品質を「多くの性質のバランス」として捉え、どの市場の消費者に届けるかを踏まえて管理することの大切さを伝えています。
原著論文の著者・所属:Judy Lalthanmawii
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Judy Lalthanmawii. Physicochemical properties of pork: implications for consumer acceptance. Zenodo (CERN European Organization for Nuclear Research) 2026-10-07. DOI: 10.5281/zenodo.23217743. 原著ライセンス:CC BY.