キムチは白菜などの野菜をヤンニョムと呼ばれる薬味だれとともに漬け込み、乳酸菌の働きによって発酵させる韓国の代表的な発酵食品です。発酵の主役である乳酸菌は、キムチ特有の酸味やうま味、コクを生み出すうえで重要な役割を担っています。ただし、自然の発酵に任せて作るキムチは、原材料や製造環境にもともと存在するさまざまな微生物が発酵に関わるため、できあがりの風味や品質にばらつきが出やすいという課題があります。こうした背景から、品質を安定させ、日本の消費者の好みにも合う風味のキムチを作ることを目指し、キムチの副原料であるヤンニョムに乳酸菌をあらかじめ加えて発酵をコントロールする方法が検討されました。

研究では、研究室で分離・選抜された4種類の乳酸菌(Latilactobacillus sakei AK1、Levilactobacillus brevis AK3、Enterococcus haemoperoxidus AK2、Lactiplantibacillus pentosus IN1)をヤンニョムに添加し、生育できるかどうかを調べる試験が行われました。添加後0日目、1日目、3日目、さらに1週目と2週目に生菌数、pH、有機酸濃度を測定し、ヤンニョムという環境の中で各菌がどの程度発酵を進められるかが評価されています。最初の試験では、発酵開始の初日から乳酸菌が死滅してしまい、うまく発酵が進まない現象が観察されました。この結果から、ヤンニョムに使われている原材料の中に、乳酸菌の生育を妨げる成分が含まれている可能性が考えられました。そこで、先行研究をもとに、乳酸菌に対して抗菌性を持つとみられる副原料を除いたヤンニョムを新たに作製し、同じ条件で再度生育試験を実施しました。その結果、今度は4種類の菌株すべてで発酵3日目あたりから菌数の増加とpHの低下が見られ、乳酸菌が良好に生育する様子が確認されました。

ヤンニョムの段階からの発酵制御という発想

この研究のポイントは、白菜などの主原料を漬け込む前段階であるヤンニョムの中で、あらかじめ乳酸菌を生育させておくという工程を組み込んだ点にあります。こうすることで、キムチ作りの初期段階から乳酸菌による発酵がすでに進んだ状態でキムチを仕込めるようになり、発酵にかかる期間を短くできる可能性が示されました。発酵期間が短くなれば、その分、原材料や環境に由来する雑多な微生物が発酵に影響を与える機会も減ると考えられ、品質の安定化につながることが期待されるとまとめられています。

この研究の位置づけと読むうえでの注意

この発表を行った研究グループには日本の研究機関に所属する著者が含まれており、掲載誌も日本食品科学工学会大会講演要旨集です。今回の研究は、日本人の好みに合った風味のキムチづくりを見据えて行われたものであり、日本におけるキムチの品質改善という観点からの取り組みという点が特徴といえます。ただし、今回の要旨で示されているのは、ヤンニョムという環境下で特定の4菌株が生育できるかどうかを確認した基礎的な実験の結果であり、実際に完成したキムチの風味や品質が消費者にどう評価されるか、あるいは長期的な品質の安定性が実証されたかどうかまでは述べられていません。あくまで一つの研究段階の報告であり、結論が確定したものではない点に留意する必要があります。

まとめ

この研究では、キムチの副原料であるヤンニョムに乳酸菌をあらかじめ添加し発酵させることで、キムチ作りの初期段階から発酵を制御できる可能性が示されました。最初はヤンニョムの原材料に含まれる成分によって乳酸菌が死滅してしまいましたが、抗菌性を持つ原材料を取り除くことで、4種類の乳酸菌がいずれも良好に生育することが確認されています。今後、発酵の短期化や品質の安定化という観点から、この手法がどのように活用されていくのか注目されます。

※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Mizuki Kida, Kaho Nomura, Tomonori Suzuki, et al. ヤンニョムの乳酸菌発酵による品質の安定した発酵タイプのキムチ開発. 日本食品科学工学会大会講演要旨集 (2026). DOI: 10.3136/aamjsfst.72.0_295.