著者の所属・活動拠点の国は、韓国です。

掲載誌:Foods (Basel, Switzerland)

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: Europe PMC

研究の目的

動物性たんぱく質の需要が増える一方で、土地や環境への負荷、動物福祉、資源の制約が課題となり、代わりとなるたんぱく源が探されています。その候補の一つが食用昆虫です。フタホシコオロギは食品や飼料の原料として利用されてきた食用コオロギで、たんぱく質を多く含み、不飽和脂肪酸やミネラルも含むことが知られています。

食品のたんぱく質を加工する方法には、酵素でたんぱく質を細かく切り分ける「酵素分解」や、微生物の働きを利用する「乳酸発酵」があります。ただし、どちらも原料の濃度や処理時間など複数の条件が互いに影響し合うため、よい条件を見つけるには条件を組み合わせて調べる必要があります。研究チームは、フタホシコオロギ粉末を対象に、これら2種類の加工について条件の影響を数量的に評価し、好ましい条件を探ることを目的としました。

何をどのように調べたか

研究チームは、熱風乾燥したフタホシコオロギを粉末にして使いました。この粉末は乾燥重量あたり約70%が粗たんぱく質でした。条件探しには「応答曲面法」という統計的手法を用いました。これは、複数の条件を同時に変えた限られた数の実験から、条件と結果の関係を数式で近似し、結果が高くなりそうな組み合わせを推定する方法です。今回は3つの条件をそれぞれ3段階に設定し、各加工で17回の実験を組みました。

酵素分解では、市販のたんぱく質分解酵素ニュートラーゼを使い、コオロギ粉末の濃度、酵素の量、分解時間を変えて、たんぱく質がどの程度分解されたかを示す「分解度」を測りました。

乳酸発酵では、キムチから得られ、以前の研究でα-グルコシダーゼという酵素の働きを抑える作用が報告されている乳酸菌ロイコノストック・メセンテロイデスMKJW株を使いました。コオロギ粉末の濃度、ショ糖(砂糖)の濃度、発酵時間を変え、生きた菌の数と、試験管内でのα-グルコシダーゼ阻害率を測りました。α-グルコシダーゼは糖の分解に関わる酵素です。菌がよく増える条件と、阻害率が高くなる条件が一致するかどうかも確かめようとしました。

主な結果

酵素分解では、分解度に最も強く影響したのはコオロギ粉末の濃度で、濃度が高いほど分解度が上がる傾向でした。酵素の量と時間は単独では明確な影響を示さず、両者の組み合わせが影響していました。モデルが示した条件は、粉末濃度20%、酵素136.23 U/mL、31時間で、予測された分解度87.03%に対し、実験では78.59%でした。この差は統計的に有意ではありませんでした。なお20%は試した範囲の上限で、それより濃いと粘りが強くなり均一に混ぜられなかったため、範囲外は調べられていません。

乳酸発酵では、菌の数には主に発酵時間が影響し、ショ糖濃度も一定の影響を持っていました。一方、α-グルコシダーゼ阻害率にはショ糖濃度と発酵時間、そしてその組み合わせが影響し、コオロギ粉末の濃度は有意な影響を示しませんでした。両方を同時に高めるとモデルが示した条件は、粉末7.1%、ショ糖6.7%、発酵27時間でした。この条件の実験では、菌数は予測とほぼ同じ1mLあたり10の9.94乗個(対数値9.94)で、阻害率は予測の86.57%を有意に上回る92.94%でした。

菌の増え方と阻害率は必ずしも連動しませんでした。たとえばショ糖を加えない条件では、48時間で菌は大きく増えたものの阻害率はマイナスのままでした。一方、ショ糖10%の条件では、阻害率は0時間のマイナス31.03%から48時間で85.56%まで上がりました。

結果の受け止め方と意味

著者らは、作成した数式モデルはいずれもデータを完全には説明しきれていなかったことを示しており、正確な予測式ではなく、試した範囲で好ましい条件を見つけるための経験的な道具として扱うべきだとしています。また、分解度は測定法にもとづく推定値で、できたペプチドの大きさや種類は分かりません。

阻害作用についても、どの成分が働いたのかは特定されていません。発酵でできたペプチドのほか、有機酸などの代謝物、ショ糖に由来する糖類、さらに中和せずに測定したことによる酸性度の影響も考えられると著者らは述べています。結果は試験管内での測定であり、食品としての品質や安全性も今回の範囲外です。

この研究は、フタホシコオロギの酵素分解と乳酸発酵について、どの条件が結果に効くのかを数値で示し、実験で確かめた条件を提示しました。とくに発酵では、菌がよく増えることと阻害作用が高まることが別の条件に左右されると示した点が、今後の成分分析などの土台となる情報になっています。

原著論文の著者・所属:Cho M(Department of Food Science and Nutrition, Dankook University, Cheonan 31116, Republic of Korea.)、Kim M(Department of Food Science and Nutrition, Dankook University, Cheonan 31116, Republic of Korea.)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Cho M, Kim M. Optimization of Enzymatic Hydrolysis and <i>Leuconostoc mesenteroides</i> MKJW Fermentation of <i>Gryllus bimaculatus</i> Using Response Surface Methodology. Foods (Basel, Switzerland) 2026-10-16. DOI: 10.3390/foods15203684. 原著ライセンス:CC BY.