著者の所属・活動拠点の国は、韓国です。
掲載誌:Foods
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
発酵物の「どこ」に働きがあるのかを探る
乳酸菌で発酵させた食品素材は、機能性食品の原料として期待されています。ただし発酵物には、原料由来の成分、菌の体の構造物、発酵中に生まれる代謝物などが混ざり合っています。そのため、観察された働きをどの成分が担っているのかは分からないことが多くあります。この不明確さは、製造工程の管理や、製造ロットごとの品質をそろえることを難しくします。
研究チームは、キムチ由来の乳酸菌ラクチプランチバチルス・プランタルムCJLP243株で、赤唐辛子をベースにした原料を発酵させた発酵物を調べました。目的は、免疫細胞の一種であるマクロファージを刺激する働きが、発酵物のどの部分に集まっているかを突き止め、その化学的な正体を絞り込むことです。著者らは、有効成分を分子レベルで完全に特定することや、治療効果を主張することは目的ではないと明記しています。
発酵させてはじめて現れた働き
原料は果糖、赤唐辛子粉末、刻んだショウガ、クエン酸ナトリウム、クエン酸を水に混ぜたものです。これを殺菌した後にCJLP243株を加え、37℃で24時間発酵させました。比較対象として、発酵させていない原料と、発酵させずに凍結乾燥したCJLP243株を加えただけの原料も用意しました。
これらをマウス由来のマクロファージ培養細胞に与え、免疫反応の合図となるタンパク質(サイトカイン)であるIL-6とTNF-αがどれだけ作られるかを測りました。その結果、発酵物は2つの比較対象のどちらよりも多くのサイトカインを誘導しました。菌を加えただけでは同じ反応は再現されませんでした。著者らはこの結果から、働きは菌体が存在するだけでは説明できず、発酵による変化と結びついていると報告しています。
働きは溶けない細胞壁関連の部分に集中
研究チームは次に、発酵物を遠心分離で液体部分と沈殿部分に分けました。液体部分は分子の大きさでさらに分け、沈殿部分は菌を超音波で壊したうえで、溶ける部分と溶けない部分に分けました。液体側の画分はほとんど反応を起こしませんでした。最も強い反応を示したのは、沈殿を壊した後に残る不溶性の画分で、論文ではPDIFと呼ばれています。独立に作った3つの製造ロットでも、働きは同じようにPDIFに保たれていました。
PDIFを有機溶媒で抽出しても、活性は溶媒に移らず、溶け残った残渣にとどまりました。乳酸菌の免疫作用でよく注目されるリポテイコ酸という細胞膜成分についても、抽出と分析を行いました。しかし、これが主な有効成分であることを支持する結果は得られませんでした。ただし著者らは、量の少ないリポテイコ酸がわずかに寄与している可能性までは否定できないとしています。
さらに、PDIFを酵素や薬品で処理しました。細菌の細胞壁の骨格であるペプチドグリカンを切断する酵素リゾチームで処理すると、サイトカイン誘導は大きく低下しました。タンパク質分解酵素での処理では部分的な低下にとどまり、フッ化水素酸での処理では低下しませんでした。発酵前の原料や、別の基準株で作った発酵物から得たPDIFは、これとは異なる反応の傾向を示しました。
著者らはこの結果を、リゾチームで壊れる細胞壁関連の構造、あるいは細胞壁と食品原料が結びついた複合体が関与していることと整合的だと解釈しています。ペプチドグリカンに関連する物質は有力な候補ですが、それだけが有効成分だと確定したわけではありません。ともに結びついた他の成分の寄与も否定できないとしています。このほか、あらかじめ定めた一次代謝物を狙って測る標的型の代謝物分析で沈殿部分を調べたところ、発酵に伴ってアミノ酸の量が変化していました。著者らはこれを細胞壁の材料となる代謝経路との関連を示す補助的な根拠と位置づけており、構造を直接示す証拠ではないとしています。
品質をそろえた発酵素材づくりへの手がかり
この研究は、赤唐辛子ベースのCJLP243発酵物において、マクロファージを刺激する働きが発酵工程と結びついた不溶性の画分に再現性よく集まることを、培養細胞の実験で示しました。働きの所在と性質を絞り込んだことで、発酵由来の機能性食品素材を開発し、その品質を標準化するための枠組みを示したと著者らは述べています。
原著論文の著者・所属:Sung-Hyun Jo(Department of Chemical Engineering, Soongsil University, Seoul 06978, Republic of Korea)、Na-Youn Hong(CJ CheilJedang, Seoul 04560, Republic of Korea)、Bo-Gyeong Choi(Department of Chemical Engineering, Soongsil University, Seoul 06978, Republic of Korea)、Jiwon Chang(Department of Chemical Engineering, Soongsil University, Seoul 06978, Republic of Korea)、Suhyun Seo(Department of Chemical Engineering, Soongsil University, Seoul 06978, Republic of Korea)、Gayeong Lee(Department of Chemical Engineering, Soongsil University, Seoul 06978, Republic of Korea)、Hee-Yoon Ahn(CJ CheilJedang, Seoul 04560, Republic of Korea)、Ji-Hyeon Song(CJ CheilJedang, Seoul 04560, Republic of Korea)、Hee Taek Kim(Department of Food Science and Technology, Chungnam National University, Daejeon 34134, Republic of Korea)、Yung-Hun Yang(Department of Biological Engineering, College of Engineering, Konkuk University, Seoul 05029, Republic of Korea)、Jungoh Ahn(Biotechnology Process Engineering Center, Korea Research Institute of Bioscience and Biotechnology, Cheongju 28116, Republic of Korea)、Hee-Kyoung Jung(CJ CheilJedang, Seoul 04560, Republic of Korea)、Yun-Gon Kim(Department of Chemical Engineering, Soongsil University, Seoul 06978, Republic of Korea)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Sung-Hyun Jo, Na-Youn Hong, Bo-Gyeong Choi, et al. Fermentation-Dependent Cell Wall-Associated Immunostimulation in a Red Pepper-Based Lactiplantibacillus plantarum CJLP243 Fermentate. Foods 2026-08-04. DOI: 10.3390/foods15152736. 原著ライセンス:CC BY.