掲載誌:Food systems

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

加工を最小限にとどめた食品を選ぶ消費者が増えている、と著者らは指摘しています。こうした食品は食物繊維や微量栄養素、生理活性成分を多く含む点が評価される一方、保存中の品質維持が難しいという課題があります。たとえば果物や野菜は傷みやすく、室温では品質を保ちにくいとされます。切る・洗うといった軽い工程でも、変色、熟成を促すガスであるエチレンの放出増加、呼吸の活発化、有害な微生物の増殖リスクなどが起こり、見た目や栄養価、日持ちが低下します。

さらに合成添加物への規制が厳しくなり、原材料が少なく合成添加物を使わない、いわゆる「クリーンラベル」を求める声も高まっています。そこで本論文は、天然物や生物工学的な方法で得られる保存用物質と、その使い方を整理しました。目的は、食品の品質向上と保存期間の延長に役立つ現代的な手法を概観することです。

どのように調べたか

本論文は新たな実験を行った研究ではなく、既存の文献をまとめたレビュー(総説)です。著者らは、規制に関する文書と国内外の科学論文を、eLibrary.ru、Scopus、ResearchGateなどを使って収集しました。検索には、カプリル酸、クエン酸、過酢酸、リゾチーム、グルコノデルタラクトン、ナタマイシン、キトサン、ナイシンといった物質名を組み合わせて用いています。全文を入手できない資料は除外し、分析した文献の大半は2021〜2025年に発表されたものでした。

報告された主な内容

カプリル酸は、ココナッツ油やパーム油、一部の哺乳類の乳に含まれる脂肪酸です。論文によれば、微生物の細胞膜を通り抜けて細胞内を酸性に傾け、増殖を妨げます。紹介された研究では、無殺菌のニンジンジュースをカプリル酸とクエン酸(各5.0ミリモル濃度)で50℃・5分間処理したところ、病原性大腸菌O157:H7と、もともとジュースにいた微生物の両方が減少しました。風味や色にも好ましい影響があったと報告されています。

クエン酸は、酸度を下げて微生物の増殖を抑えるほか、酸化を促す金属イオンと結びついて脂質や色素の酸化を防ぐ働きがあると整理されています。紹介例として、アジアで食べられる水生植物の塊茎であるクログワイ(中国のクログワイ)を生のまま薄切りにし、1%キトサン溶液とクエン酸を組み合わせて処理したところ、色の損失が大きく抑えられたという研究があります。また、クエン酸を練り込んだ包装フィルムが黄色ブドウ球菌に対して抗菌性を示した例も紹介されています。

過酢酸は、原料や包装の消毒に使われる強力な殺菌剤で、使用後は酢酸、水、酸素に分解されるため有害な残留物が残らないと説明されています。ケールを過酢酸(20mg/L)と超音波で処理した研究では、生菌数・大腸菌群・カビと酵母がいずれも対数でおよそ2.4〜2.6減少し、ビタミンCなどの品質指標に悪影響は見られませんでした。対数で1減ると菌数は10分の1になります。サラダの処理では、従来の次亜塩素酸ナトリウムよりも見た目や臭いの保持に優れていたという報告もあります。

リゾチームは強い殺菌作用をもつ天然の酵素で、主にグラム陽性菌に効きます。グラム陰性菌には効きにくいため、ラクトフェリンなど他の成分との併用や、酵素の分子の改変によって効果を広げる試みが紹介されています。リゾチームを組み込んだ包装フィルムの開発例も挙げられています。

グルコノデルタラクトンは、水中でゆっくりとグルコン酸に変わり、穏やかに酸性度を下げる物質です。チーズや豆腐の凝固に使われるほか、テンペの製造では発酵時間を24〜48時間から2〜3時間に短縮できたと紹介されています。

ナタマイシンは、カビや酵母を抑える一方で、細菌による発酵は妨げない抗真菌性の保存料です。ブドウでは100mg/Lの溶液で灰色かび病の発生を完全に抑えた研究が、柑橘類では他の薬剤との併用で緑かび病と灰色かび病のリスクを85%以上下げた研究が取り上げられています。

キトサンはキチンから得られる天然の多糖類です。果物などの表面に膜をつくって水分の蒸発や呼吸を抑え、病原菌の胞子の付着も防ぎます。サクランボ、パパイヤ、マンゴー、ミカンなどで、キトサン単独や他の成分と組み合わせた食べられるコーティングにより、保存性や品質が保たれた例が数多くまとめられています。

この研究が示すこと

著者らは、一つの物質を合成保存料と単純に置き換えるだけでは十分な日持ちを得にくいと述べています。そのうえで、酵素、抗菌性ペプチド、有機酸、精油などを組み合わせ、微生物汚染、酸化、酵素による劣化といった傷みの原因を何重にも防ぐ「多層的なバリア」の考え方が有望だとしています。ただし、こうした物質が食品のたんぱく質・脂質・炭水化物とどう影響し合うかを予測しにくい点が、実際の製造に広げる際の大きな課題だと指摘しています。本レビューは、天然由来・生物工学由来の物質を適切に組み合わせることで、食品の自然さと安全性を保ちながら保存期間を延ばす手がかりを示しています。

原著論文の著者・所属:N. E. Posokina(All-Russian Scientific Research Institute of Preservation Technology)、A. I. Zakharova(All-Russian Scientific Research Institute of Preservation Technology)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):N. E. Posokina, A. I. Zakharova. Modern biotechnological substances for food system processing. Food systems 2026-08-01. DOI: 10.21323/2618-9771-2026-9-2-261-269. 原著ライセンス:CC BY.