この研究は、バングラデシュの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Journal of Food and Nutrition Sciences

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

南アジアや東南アジアで広く食べられている淡水産の巻貝、Pila globosa(リンゴガイの一種)は、良質なたんぱく質や必須脂肪酸の供給源として注目されています。この貝は、気温の上昇や降雨の減少、餌不足といった厳しい環境が訪れると「夏眠(かみん、aestivation)」と呼ばれる生理的な休眠状態に入り、代謝を大きく抑えて土中などでやり過ごします。

研究チームは、この夏眠が貝の栄養成分や脂質の組成にどのような影響を与えるのかについては、これまでほとんど情報がなかったと述べています。そこで本研究では、活動期と夏眠期の Pila globosa を比較し、休眠にともなう生化学的な変化と、それが食資源としての価値にとって何を意味するのかを評価することを目的としました。

何を調べたか

調査地は、バングラデシュ北西部ナトール県にあるチョラン・ビール(同国最大の淡水湿地)です。著者らは2024年9月の活動期に健康な個体356匹を採集し、これを178匹ずつの2群に分けました。一方の群はそのまま活動期の試料として分析し、もう一方の群は大学の敷地内で湿った自然土壌におよそ3cmの深さで個体ごとに埋め、約4か月間、自然な夏眠をさせたうえで2025年2月に掘り出して分析しています。

分析では、殻から取り出した可食部(軟体部)を乾燥・粉砕し、一般成分(水分、たんぱく質、脂質、灰分、炭水化物)と脂肪酸の組成を標準的な手法で測定しました。一般成分の値はいずれも乾燥重量あたりの割合として示されています。脂肪酸については、脂質を抽出してメチルエステルに変換し、ガスクロマトグラフィーで個々の脂肪酸を同定・定量しました。なお灰分とは、試料を燃やした後に残る無機質(ミネラル分)の総量を指します。

報告された主な結果

活動期の可食部では、炭水化物が最も多く40.55%を占め、続いてたんぱく質が32.00%、灰分18.21%、水分6.40%、脂質2.84%でした。これに対し夏眠期には炭水化物が24.75%まで大きく減少し、代わりにたんぱく質(33.87%)、灰分(26.04%)、水分(7.37%)が増え、脂質は7.97%とおよそ3倍になりました。著者らは、この脂質の増加は休眠中に脂肪を積極的に蓄えたためというよりも、炭水化物の蓄えが優先的に使われた結果、残った組織内で脂質の割合が相対的に高まったものと考えられると説明しています。

脂肪酸の組成にも顕著な変化が見られました。活動期には多価不飽和脂肪酸(PUFA)が最も多く40.51%を占め、次いで一価不飽和脂肪酸(MUFA)が29.36%、飽和脂肪酸(SFA)が23.70%でした。PUFAの中心はリノール酸(34.01%)、MUFAの中心はオレイン酸(23.41%)です。夏眠期になるとSFAが43.1%へと大きく増え、MUFAは20.36%、PUFAは15.55%へと減少しました。その結果、脂質の栄養的な質の指標とされるPUFA/SFA比は1.71から0.34へ、n-6/n-3比は6.75から2.76へと低下しています。著者らは、酸化されにくい飽和脂肪酸が相対的に残り、不飽和脂肪酸が長期の絶食下でエネルギー源として優先的に使われた結果だと解釈しています。

栄養面での位置づけとして、論文では活動期の乾燥重量100gあたり32.00gのたんぱく質が、体重60kg程度の健康な成人の1日のたんぱく質必要量の約64.3%に相当し、炭水化物は1日の目安量の約31.2%にあたると報告されています。また脂質が100gあたり2.84gと少ないことから、低脂肪の食材に分類できるとしています。

この研究が示すこと

著者らによれば、本研究は Pila globosa の活動期と夏眠期の一般成分と脂肪酸組成を包括的に比較した初めての報告です。この貝はたんぱく質に富み脂質の少ない食資源ですが、その栄養的な質は貝がどの生理状態にあるかによって大きく左右されることが示されました。夏眠中の成分変化は、炭水化物と不飽和脂肪酸を優先的に使うことで厳しい環境を生き延びる代謝適応を反映していると論文は述べています。

つまり、同じ種でも採取する時期によって食材としての中身が変わるということです。著者らは、活動期に採取された個体のほうがPUFA/SFA比が高く、必須脂肪酸も豊富で、栄養的に優れていたと報告しており、こうした季節変動の知見は、この十分に活用されていない淡水資源の利用や採取時期を考えるうえでの基礎情報になると位置づけています。

著者:Most. Shampa(Institute of Environmental Science, University of Rajshahi, Rajshahi, Bangladesh)、Md. Redwanur Rahman(Institute of Environmental Science, University of Rajshahi, Rajshahi, Bangladesh)、Umme Shathi(Institute of Environmental Science, University of Rajshahi, Rajshahi, Bangladesh)、Md. Rahman(Institute of Environmental Science, University of Rajshahi, Rajshahi, Bangladesh)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Most. Shampa, Md. Redwanur Rahman, Umme Shathi, et al. Comparative Proximate Composition and Fatty Acid Profile of the Freshwater Apple Snail Pila Globosa During Active and Aestivation Periods. Journal of Food and Nutrition Sciences 2026-09-20. DOI: 10.11648/j.jfns.20261405.12. 原著ライセンス:CC BY.